阿部ブログ

日々思うこと

ウランを含む廃触媒を保管し続ける企業とその解決策

2011年09月14日 | 日記
最近知った事だが、民間企業でもかなりの量の放射性物質を保管管理していると言うこと。

レアアースをモナザイトなどから抽出分離する際にトリウムが随伴生成される事は、昨年のNHKクローズアップ現代の報道などで知られるようになっているが、金属資源関係企業だけでなく、化学関連企業でも触媒に劣化ウランを含む複合酸化物をを利用していた時期があり、未処理のまま管理保管していると言う。

例えばアクリルニトリル(Acrylonitrile:AN)と言う、アクリル繊維や樹脂原料となる不飽和ニトリルの一種である基礎化学品がある。アクリルニトルは、分子量53.07、融点-83.55℃、沸点77.6~77.7℃で、無色透明の液体。
このアクリルニトルの製造過程で、過去ANの合成反応の一つであるプロピレンのアンモオキシデーション反応による合成反応触媒として、過去にウランとアンチモンとの複合酸化物が利用されていた。

このウラン-アンチモン複合酸化物を用いたアクリルニトル製造法は、1960年代に当時のスタンダードオイル社によって開発され、Sohio(Standard Oil of Ohio)法と命名された。

このSohio法は、従来のプロピレンの酸化によりアクロレインを合成した後、アクロレインをアンモニアと共に酸化してアクリロニトリルを合成すると言う2段階の反応を、ウラン-アンチモン複合酸化物を触媒として用いることで1段階でアクリルニトルを生成すると言う方法で、日本においても1970年代後半から1980年代前半にかけ、ウラン-アンチモン複合酸化物が触媒に利用されていた。

この触媒は、ウラン-アンチモン複合酸化物を多孔質のシリカに担持したもので、ウランを15%、アンチモンを30%含有する。

問題はウラン-アンチモン複合酸化物は、化学的に極めて安定で硝酸や塩酸のような強酸性物質を使用し酸侵出されない、つまり溶解しない事。

この為、アクリルニトリル生成後のウラン-アンチモン複合酸化物“廃触媒”は処理する事なく、そのまま、ケミカルドラム(ポリエチレン樹脂製の内筒を鋼製ドラムで外装した複合容器)などで放射性廃棄物として保管し管理されている。その保管量はウランだけでも国内に200トンとは存在すると言われている。

例えばチッソ石油化学株式会社の五井製造所(千葉県市原市)の場合、劣化ウラン量765kg、廃触媒総量7,650kg、200リットルのケミカルドラム33本相当で保管している。

(URL:http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/news/trouble/1268967.htm) 

このウランを含む廃触媒は、原子力基本法で定める核燃料物質もしくは核原料物質に該当し、核原料物質&核燃料物質に関する法律の規制を受け、廃触媒保有メーカーは、工場内に管理区域の設定し、定期的な管理状況の確認および報告を文部科学省に行い、廃触媒の量によってはIAEAの査察も受けるという。これは堪らない。

当然、廃触媒からウランを分離抽出する研究を澤田佳代准教授(名古屋大学エコトピア科学研究所)が行っている。
澤田准教授のウラン分離抽出方法は、最初に塩化水素を用いてウラン-アンチモン複合酸化物からアンチモンを塩化揮発させた後、超臨界二酸化炭素を用いて、残りのウランを溶解抽出すると言うもの。
実証実験により、廃触媒から分離されたウランが酸化ウランと変化し、超臨界二酸化炭素抽出処理すると実際に94%のウランが除去されたと言う。
現在も継続してウラン除去率の向上を目指して研究を続けていると言う。

福島第一原子力発電所の事故によりセシウム134&137に汚染された土壌をプルシアンブルーを用いてセシウムを分離する産業技術総合研究所(川本研究グループ長)の研究と同様に、ウラン-アンチモン複合酸化物廃触媒から分離抽出した後の酸化ウランを確実に保管管理する施設が是非とも必要である。

※現在もSohio法は、アクリルニトリルの製造法であるが、流石にウランを含む複合酸化物を触媒に使うのではなく、モリブデン-ビスマス-鉄系、鉄-アンチモン-テルル系など安全な複合酸化物の利用に転換している。