
会場風景(公演終了後)
先日、ランバンサリ公演、ジャワのワヤン「炎」に行きました。すごく良かった!面白かった!ガムランの演奏も大迫力でした。ランバンサリって凄い!
ダラン(人形遣い)はスミヤントさん、日本語の上手な人で、今回は全て日本語での公演でした。とても良く分かりました。ユーモアのセンス(*)も面白くて楽しめました。
会場に入ってまず感じたことはジャワ・ガムランの楽器群のすごさです。なんと格調高く、ゆったりとした雰囲気。素晴らしい楽器の数々!まさに「キラキラ輝いている王宮の宝物!」といった感じです。(事実そうなんでしょうね)
私たち一座のバリの平民ワヤンの伴奏はグンデルという小さな鍵盤楽器4台を4人が忙しく弾きます。それにくらべジャワ・ガムランの上品で優雅な事!20人ほどの大編成です。さらにそれぞれ演奏者の周りを囲むように複数台の楽器を配し、演奏者は曲によって座っている向きを変え、楽器を変えながら演奏するのです。なんと言う贅沢な楽器環境でしょう!われわれ一座のグンデルも同じ「青銅」の楽器ですが、単純に質量換算してみても、われわれ一座の数百倍の「青銅」が惜しげもなく使用されているものと思われます。ジャワ・ガムランって凄い!
この贅沢な楽器環境と相まって演奏者の皆さんの立ち振る舞いもとても優雅なのです。何か前方斜め上方15度ぐらいを、焦点の定まらないような ”うっとり” とした表情で見つめ、口元にはやや微笑みを浮かべ、ゆっくりと「トントンッパ」「コカン~」「ポンポロ~」「ピ~ヒャララ~」「バブ~(ルバブ)」「ゴォ~~ン」と優雅に演奏するのです。みなさんたぶん裕福なご家庭でお育ちなんだろうな~と思いました。私たち平民ワヤンが4台だけの小さな楽器にしがみつくようにして忙しく演奏するのとは訳が違うのです。
私がジャワ・ガムランのライブのたびに”シビレル”のが、数多く吊るされている「ゴング+クンプル」群から溢れ出す「超重低音」です。この重低音の響きに全身が包まれている時の幸福感!なんという贅沢な時間でしょうか。聞いている私も気がつくと斜め上方15度ぐらいを ”うっとり”と見つめているのです。
会場で、私(か)のバリ・ガムランの先生(M)さんとお会いしたので、開演前、すこしお話しをしていました。私が会場のセッティングを見て疑問に思った事があったので質問してみました。
(か)「・・この会場の空気感、ものすごく格調高いですね。凄いですね。」
(M)「そうですね。これは王宮の世界ですからね。」
(か)「ちょっと疑問なんですが、ジャワのワヤンってクテンコン(**)はいないのですか?座るスペースもないみたいですが?」
(M)「そうみたいですね。ジャワ・ガムラン同様にジャワのワヤンは優雅にゆっくりと進行するのです。バリのワヤンようにダランの周辺が "火事場の様な騒ぎ” にはならないのですね、だからクテンコンは必要ないのでしょうね。」
わたしは(M)さんのこの「火事場の様な騒ぎ」という表現を聞いて、「さすがにうまい事を言うな~」と感心しました。実は「おっしゃる通り!」なんですね、これが。
私たちバリのワヤンは、最後は決まって「善と悪」の戦いの場面になります。クライマックスでは、ダランはお大声で叫び、台詞を語り、凄い早さで人形を操ります、木箱を足でバシバシと鋭く蹴って効果音をだし、演じていた人形を下げるときは両側にバンっと投げ出し、こんどは次の人形を素早く拾い上げて演じて行きます。ダランの両側のクテンコンの二人は、ダランの蹴りに耐え木箱を押さえながら、投げ出された人形を整えて再びダランに渡し、新しい人形と様々な武器をセッティングしてダランが取りやすい位置に並べます。ダランの背後ではクテンコンが互いに投げて渡し合う人形が飛び交います。グンデル奏者たちは、ダランの激しい動きに合わせるため人形の動きを凝視しながらの演奏です、目はワニ目となり、足がツリながらも必死に演奏します。まさに「火事場の様な騒ぎ」です。「半鐘は鳴るわ!火消しは走るわ!」そんな大騒ぎの後、バリのワヤンでは必ず「善」が勝ってワヤンは終了します。
ランバンサリの今回のジャワのワヤン公演では、最後は「炎に包まれるシーン」でした。ダランは大きなグヌンガンを巧みに操りメラメラと燃え上がる「炎」をとてもうまく表現していました。ガムランの演奏も大迫力!不安感と緊張感に溢れた素晴らしい効果音でどんどんと盛り上げていきます。でも、火事場のシーンを演じながらも、そこは「王宮のワヤン」。進行はあくまでもゆったりと格調高く優雅なのです。ワニ目になったり足がツッてる人はいないのです。(たぶん)
でもその日のワヤンはこの盛り上がった「炎」のシーンで突然終了、あ~続きがぜったい観たくなる!本当に素晴らしい演出でした。
続きはいつやるの?楽しみにしています。ジャワ・マタネ。(か)
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(*印)「建築基準法と消防法」のネタ、あまりにも的確な専門用語の数々、すごく受けてしまった。これって、ランバンサリ・メンバーに関係者いますね?
しかし「マハーバーラタ」の神代から、建物をつくる際に「二方向避難の原則」があったとは知りませんでした。はるか昔から安全な避難経路確保は考えられていたのですね。とてもためになるワヤンでした。
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(**印)クテンコン(トゥトゥタンとも言う):ダランの両側に位置するダランの補佐役。バリ・ワヤンではクテンコンは欠かす事の出来ない存在です。バリ・ワヤンのスピード感はダランとクテンコンの連携プレーで生み出されます。