いやはや、津高の倉田順子教頭はおもしろい・・・ざっくばらんな性格で痛い質問にも笑顔ですかさず切り返す。久しぶりに教育畑でこんなおもしろい女性にお会いした。
今日の懇親会は2年前、1.06を受けて津高OBの学習塾経営者にお呼びがかかった。1.06・・・津高では後々語り草になる数字・・・倍率である。今から3年前の入試でついに津高の倍率は1.06倍にまで下がった。この数値に危機感を抱いた津高の先生方から、昭和45年卒の伊藤先生(当時、亀山『KSK学習塾』を主宰)を窓口に津高OBの学習塾関係者に同窓会というかたちで意見を聞きたいとの呼びかけがあった。
それには俺も参加したが、続いて去年もまた開催。これには俺は不参加、そして昨日の懇親会が3回目の意見交換会となった。津高側の窓口はこの3年間一貫して倉田先生。教頭として赴任して4年目の先生である。
とりあえずは今年度の実績・・・今年は良かった。現役で200名、浪人が81名、計281名が国公立大学に合格した。常に比較される四日市だが、現役で184名、浪人で89名、計273名が合格している。四日市に勝ったことで得意になっていると思いきや、倉田先生静かな口調で、「でも、難関大学という視点から見ると四日市に勝ったとは言えないんですよ。とくに名古屋大学では四日市が38名、うちが15名・・・圧倒的にやっつけられてます」
しかし、高倍率で推移する四日市と翌年には定員を切るんじゃないかとの不安を感じさせるような低倍率の津高・・・その脆弱な生徒たちを率いてこの実績は評価できる。これは卒業生のひいき目ではない。
「たとえばですよ、360人定員で入学時には300番台の生徒がですね、それ以降伸びていって北大や大阪市立に合格してます。入っていただけさえすれば絶対に津高校の先生方が生徒たちの力を引き出して伸ばしてみせます」 育てるという点では、津高の先生方に絶大な信頼を抱いていらっしゃる。
さて、津高のタブーとも言える1.06倍の学年だが・・・今の高3だ。
「この学年は本当に大変でしたね。1年の頃は勉強についていけない、宿題についていけない・・・泣くんですよ、ええ、本当に、それも男の子が泣くんですよ、ついていけないって・・・そんな学年でした。さすがに津高の先生方も頭を切り替えました。それまで生徒に手をかけてきた努力については他の高校に引けを取らないと言う自負があります。しかし、先生方は熟慮に熟慮を重ねたのちに思い切って手をかけるのをやめたんです。そんなにできそうもない宿題ならばと、高2時からは『宿題を出さない週』を設けました。ええええ、本当ですよ、先生方本当に出さないんです。でも、今週は宿題出さないから自分たちで何を勉強するのかよく考えて、工夫して勉強しなさい・・・そんなふうに生徒たちに言ってね、そして全てを生徒たちに任せました」
180度転換・・・コペルニクス的ともいえる方針変更。これについては塾に戻ってから高3の千晶(しつこいけど男の子)に確認・・・「ええ、高2のある時期から宿題がなくなりましたね」
・・・本当なんだ。倉田先生、疑った俺を許してください。
「実はですね、これには布石がありまして・・・今年の大学2年の学年ですか、あの学年は本当によくできたんですよ。津高の先生方が生徒に良かれと思い敷いてきた課題をこなし、よく努力もしてくれた。資質もさることながら、これ以上もないほどに先生方も愛情もかけた・・・センター試験は成功でした。ところが・・・二次試験で軒並み落ちてきたんですよ。結果で見ればそこそこです、でも先生方が思い描いていた成績とは雲泥の差。先生方はあの学年で四日市に勝とうとしてましたし、直前の模試でも順調。絶対に勝ったと思ってましたから・・・本当に悩みましたよ、なぜだろうって。・・・たぶんですね、あまりにも手をかけすぎた、センターが終わってからの勉強を見ても緊張感がなかった。つまりはセンターが終わり、自分たちで勉強する際になって戸惑ったんじゃないか・・・今までは先生方がずっとそばにいた、面倒もみていた。でも、一人で勉強する段になり何をしていいのか分からない・・・そんな状態じゃなかったのかなと。じゃあ、どうすればいい・・・本当に先生方と何度も何度も話し合いを持ち、これからの津高を模索しました。そして出てきた結論が・・・生徒たちに任せてみよう、生徒たちの自覚に賭けてみよう・・・そう考えたんです」
2年前に出席した懇親会、「今の子供たちは、我々から手を差し伸べる・・・宿題などの提出を厳しく管理しないと今の生徒たちは勉強しない」と断じた津高の先生に、俺は柔らかく噛みついた覚えがある。「確かに今の子はいろいろありますが、宿題に確認印を推す・・・そこまですべきなのかどうか。ウチの生徒たちには言ってます・・・宿題に対して批判性を持てと。この宿題をすることによって自分が合格まで何歩近づくのか、それを優先順位にしてすべき宿題からしろと。・・・今の津高の状況は数学に偏重しすぎています。数学が苦手な生徒、でも中学時代は各中学の優秀の誉れが高い生徒・・・そんなプライドが、完全にやらなくっちゃと自分を強いる。そして深夜になるまで数学の宿題に没頭。そのあげくに英語と国語はできないままで寝てしまう。これだと理系は育っても文系は育たない。早稲田の合格者7名のうち理系が6名、文系の1名にしたところで理系からの文転なんです。何と言っても理系文系に横たわるのは英語です。優先順位ならまず英語じゃないですか」
その場では前向きに考慮するとのこと。社交辞令かと思ってたら、どうやら俺の意見はそれなりに採用されたようで、翌年から数学の宿題は多少なりとも減り英語の宿題が増えたという。
「高2の頃は宿題を出さない週間で終わってたんですが、高3となってからは一切の宿題がありません。今の高3は全く宿題がないんです。津高の先生方は全く宿題を出してないんです」 これには出席者の塾の経営者たちからため息が漏れた。ため息・・・落胆ではなく、驚きのため息だ。
「本当です・・・ええ、ないんです・・・放課後課外についても、先生方のほうからこんな授業をするとの指示は出しません。S会といいまして・・・室長たちが相談して課外の授業内容を考えます。生徒たちに全てを任せました・・・すると変化が出てきたと、教えた先生方が口をそろえて言うんですよ。それはね・・・生徒たちの授業を聞く姿勢が前年度までの課外授業とは全く違うって・・・みな、勉強する姿勢なんですよ、先生たちの説明を熱心に聞くんです。こんなことは今までなかったんですよ
いやはや、リアルタイムに津高の劇的なターニングポイントの舞台裏が倉田先生から明かされていく・・・観客が5人と少ないのがもったいない。
「高1の頃は本当にひどかったんですよ、成績が・・・それが高2となり少しずつ、まあ1.06倍ですから四日市と比べようもないですが、それでも高3となり、着実に成績が上がってきてるんです。もし、この高3の成績が良かったら・・・何度も言いますが、さすがに今年の四日市に勝てるというレベルにはありません。でも、今年の高3なりの実績をもし来年出せたとしたら・・・津高のこれからの指導方針は劇的な転換を迎えることになると思いますよ」
つまりはこれからの津高の行く末は、今年の高3・・・津高史上最低倍率の1.06倍の立役者たちに託されたのだ、。
千晶に今日のことは伝えた、「オマエたちは責任重大なんや。宿題でおぼれそうな津高にするか、生徒の自覚、生徒の自主性に委ねられる津高にするか・・・全てはオマエたちにかかってるんや」 「頑張りますよ」 珍しく、シャイな千晶が骨太の声で言い放った。
生徒による自主自律・・・俺たちが津高生だった頃の先生方は自主自律という名の放任、あるいは無責任だったとも思えるが、今の津高は真の意味での自主自律に向かおうとしている。その試金石が今年の高3・・・。
このブログを、今年の津高3年が一人でも多く読んでくれることを切に切に願う。津高のこれからは君たちにかかっている。