真夜中族の私ですがルートくんが5時半起きで仕事に行くようになって、生活が変わるかというと、就寝時間ではなく睡眠時間が変わってしまいました。
睡眠時間激減。平均4時間。近頃夢を見ると言うか、夢を覚えていないのはその時間に原因があると思います。
前からいつも言ってることですが、子供の時から自分の見る夢が好きでした。それは自分にとってだけかもしれませんが面白いからです。子供の時はスパイ物からSF、時には切ない恋物語もあったかもです。
ところが昨日は真夜中の睡眠時間が3時間。これは良くないとルートくんを送り出して、しばらく起きていて眠くなってきた頃に二度寝しました。眠くなってきた時間というのは、夫は既に起きていて朝ドラなんか見てピグのゲームのアレヤコレヤで遊んだ後。買い物に行くちょっと前の時間です。
テレビなんかがついてると眠ることが出来ない私ですが、流石に疲れていたのかすぅっと夢の世界に入って行きました。
なんだぁ、夢の話かと思われてもしかたがないことですが、昨日の私はその夢が凄く気になってかなり一日を気を付けて暮らしました。
※ ※ ※
―なんとなく不満だわ。
夫とともに実家に帰っていた私は彼を見てそう思いました。
―何がっていうのじゃないわ。「なんとなく」不満よ。
私は彼をリビングに残し、自分の部屋があった所に引きこもってしまいました。(この自分の部屋があった所というのは、もう既に存在しない離れで、この家の話をすると違う話になってしまうのですが、この場所が出てくると大概ホラーとかろくなものではありません。)
「機嫌を直してよ。」と夫が私の部屋にやって来ました。
振り向くと、そこにはすこぶる若い子供のような彼がいました。
目を吊り上げてガミガミ言うのかと思っていたら、不思議なことに私は、
「なんにも機嫌なんか悪くないの。いつもありがとうって思ってるわ。ちょっと疲れちゃったから、こっちに来て休んでいただけよ。」など嘘をつくのでした。私は夢の中の自分が良く理解できません。違うキャラを演じているのかも知れません。
「えっ、そうなのか。なんか君は本当に不愉快な顔をしていたよ。だから僕は凄く気になってしまったんだ。知らないうちにいっぱい傷つけてきたんだなと思ってさ。」
それを聞いて、私は首を振って彼の頭を優しく撫ぜながら
「ううん。ありがとう、本当に。」と今度は嘘ではなく言いました。
私の優しい言葉に夫はいい気になったようで、帰りに羽田空港に立ち寄って買い物をしたいと言いました。
羽田空港と言っても飛行機は関係ないのでした。空港内にあるお店の一つに用があるらしいのです。
ところが羽田空港は私が知っているピカピカのターミナルではありませんでした。どこかレトロな雰囲気が漂っていました。だけど良いのです。夫がこれだけ若いということは、それだけ時代が昔ってことなのですから。
その外れに、凄く小さな本屋がありました。本屋と言っても本は並んでいないのです。会社の受付のようにカウンターが有り客はそこで本の名前を言って買い求めるみたいで、専門書のお店のようです。
夫はそこに入って行くと
「『ひみつの鍵』はありますか。」と聞きました。中年の男性のお店の人はけんもほろろに
「そんなものはないですよ。」と返事をしました。
「そんなわけないだろ。ダイレクトメールが届いたんだから。」と夫が強い口調で言い返すと
「な~んだ、最初にそれを言ってくださいよ。」と物腰も丁寧になって、隣の部屋に入っていき書棚からではなく金庫からその本を出してきました。
私は興味もなかったので、ひとりで通路で待っていたのですがその様子はそこからでも見えました。そして夫が戻ってきて
「3万2千円だ。」と言いました。
私はビックリして、あることを思い出しました。昨日買い物に行って、最後のお札をぴったり出してしまったのです。お財布は小銭ばかりで空のはずです。
それでもバッグから取り出してみると、お財布はレシートでパンパンにふくれあがっていました。その中に乱暴にお札が紛れていました。
―そうか。空っぽになってしまったから補充しておいたんだ私。
と、解釈しました。
お金を3万2千円、彼に渡すと財布の中には二千円ほど残りました。これは高速代に取っておかなければなりません。
「あっ、パパ。それ内税なのかしら。本は確か外税表示よね。まして今は8%に上がったんだから外税よね。じゃあ、お金が足りないわ。カードで買ってくれないかな。」←時々今が混ざる。しかもリアル・・・。
お店の人に確認した彼は振り向いて言いました。
「カード、使えないって。だけど値段はこのままだって。」
ああ、良かったと思ったものの、新たな疑問が。
このような高額なものを相談もないなんて。そうすると立て替えたものの、これは彼が払うべきものなのか、それとも仕事で使いみたいなので家計から出すべきものなのか・・・・・・
すると彼はいつの間にか会社に電話を入れていました。
「これで会社を救えるんだから領収書で落ちますよね。えーっ、ですよね。頼みますよ!!!」
―会社の経費で落ちるんだわ。しかも会社を救うって一体何なのあの本は・・・。
「で、俺の机の上の・・・そうそう・・・封筒の中の汚いメモ、ゴミじゃないですから。それの三枚目、わざと焼いて焦がした後になっているページがあるでしょ・・。そそそ。そこです。そこを指でなぞると数字が指で読めるんです。パスワードなんですよ、それ。読んでください。えっ?何?分からないって?困るなあ。も一回やってくださいよ。」
「えっ? ダメ?」
お店の人はカウンターの中にも三人ぐらいいて、皆、夫のほうをじぃっと見ていました。みんなニヤニヤしています。
ハッとしてもう一度見返すと、誰一人笑っていなくて、みんな能面のように無表情なのでした。
―パパ、ダメよ。そんな本に手を出しちゃ。
私は心の中でそう思いました。
するとその本を持っていた男が、私の心を読んだかのように
「この本を手に入れることが出来るなんてラッキーですね。代われるものならば、その権利を譲って欲しいものですよ。」
そして
「『ひみつの鍵』は秘密の鍵ですよ。」とすごくゆっくりと言いました。
夫はイライラしながら、
「どうやってもダメなんですか。あああ、困ったな。」と電話口で言っていました。
「パパ、それはパパの指紋にだけ反応するんじゃないの?指紋認証ってやつよ。一回出直しましょ。」
すると男は言いました。
「次はないですよ。」
―そんな本には手を出しちゃダメ。
やっぱり私はそう思っていました。だけど、
―「ひみつの鍵」は秘密の鍵・・・・。
ふと私がその本を手にとって私自身がその本を開く。そんな妄想に一瞬のうちに囚われてしまったのも確かだったのです。
それで私は言いました。
「パパ、私ここで待ってるから、パパは帰ってそのメモを取りに行って。戻ってくるのは大変だから電話でそのパスワードを私に伝えてくれればいいわ。本は私が持って帰ってあげるから。」
お店の人は皆ニヤリと笑って頷きました。
「じゃあ、そうしてくれる。助かったなあ。」と夫が言うので
「出来るだけ早くね。」と私は優しく言って小さく手を振りました。
だけどその時、行きかけた彼が何かに気がついたようにふと振り返りました。その眉間には、ありありと不安の色が伺えました。
「だけど、ママー。」
※ ※ ※
「だけどママ、そろそろ起きないと、買い物に行く時間が遅くなっちゃうよ。」と夫が声を掛けてきました。
私は目を開けないで
「ああ、もうちょっとで「ひみつの鍵」という本が私の手に入るところだったのにな。」と言いました。
「夢の話?」
「そうよ。3万二千円。」
「高ッケー!!」
「うん、消費税8%はおまけだって。でも内容的には超格安だな、きっと。」
「細かいな。だけどどんな秘密なんだ。」
「そこが秘密なのよ。しかもパパが出すかママが出すのか夢の中で悩んでした、私。」
「ママが出してください。俺いらないから、そんな本。」
「ですよね~。でもこの何気ない夢、悪夢だったような気がするんだ。良からぬものが近づいてくるって言うかさ。取り敢えず財布の中のレシートは全部捨てよう。」
むっくり起きて財布を開けると、レシートは全部捨ててあったのです。
―そうか、昨日捨てたんだった。
そしてやっぱり空っぽ。
補充しないと買い物には行けません。丼会計なので、こっちがなくなればあっちのように封筒にお金を入れてあるのですが、用意してあった封筒を開けたら、中から3万二千円が・・・・。
今日はその封筒のお金を遣うのは止めておこうと思いました。
その夢にはなんにも意味は無いのかもしれません。ただ気になっていたことだけが物語のように並んだだけかも。
もしもこの先延々と、人類が滅びずにこの地球に栄えていることが出来たら、かなりの秘密の謎は究明されると思います。だけど100年たっても1000年たっても、一万年たっても、人は、いや命あるものはどこから来てどこに去っていくのか、解き明かされない宇宙の秘密なのではないでしょうか。
もしもその謎を解き明かせるチャンスが有るとしたら、それはその経験をする時かもしれないと子供の時は思っていました。今はそうは思いません。きっと何もわからないままこの世から去っていくのです。だけど子供の時に、そう思っていたからこそこの「ひみつの鍵」という夢の物語は悪夢に感じたのでした。
ほんの微かに脚色あり。
しかも指でなぞって、その人だけが書いてある文字を読める「指紋認証ってやつよ」って、そんなものはまだないよね。
でも、私がここでそう思ったということは、いつかそういう時代は来るってことかな。