渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

映画『SFソードキル』(1884)

2022年02月15日 | open



原題:GHOST WARRIOR
1984/アメリカ
監督:J・ラリー・キャロル
出演:藤岡弘、チャールズ・ランプキン

<あらすじ>
1522年、日本の山中でマカベ
一族の武士タガ・ヨシミツは、
卑劣な敵の手により
重傷を負い
崖から川の激流に落ちた。

460年後、スキーヤーによって
発見されたヨシミツの氷漬けの
遺体はアメリカに送られ、
「カリ
フォルニア低温外科医療法研究
所」の蘇生実験によって蘇る。

時代も国も違う生活でヨシミツ
が唯一心を通わせることができ
たのは、取材を続けるうちに

異文化に理解を示した女性ジャ
ーナリストだった。

ある夜、ヨシミツの差し料で
ある名刀クニミツを盗もうと
した職員をヨシミツは斬り、研究
から脱出する。自分が生きた
場所とは別世界で、ヨシミツは
チンピラにからまれている黒人

の老人を助け、ひと時の異次元
交流に心を和ませるヨシミツだっ
た。

だが、殺人犯として追跡する警察
と彼の存在を闇に葬ろうとする
研究所の博士にヨシミツ
は追い
詰められてゆく。彼の心のあり
かを理解しているのは女性ジャ
ーナリストだけだった。

警官隊に包囲され、ヨシミツは
武士とは何であるのかを言い残
して自ら進退を決するので

あった。

~ネタバレあり~
<DVDの感想>
かねがね、この日記でも紹介して
いたが、藤岡弘、さんが演じる
タガ・ヨシミツの最期の
台詞は
「蘇りはせん。武士の道は理じゃ」
である。明らかに「理(り=
ことわり)」と言っている。

これは、異次元空間に蘇って
しまったすべてを理解した武士
であるヨシミツが、すべての

事態を飲みこんで言い残す言葉
である。

そして、ヨシミツは、460年前
とは異なり、今度はなぜか刀を
地面に刺して、わが身だけで

再び氷結の湖に身を投げる。
魂のかたわれである脇差は黒人
の老人に託して別れた。

腰に差していたのはただ一刀のみ
だ。その一刀に己の存在をかけ
ていた。だからこそ、
ヨシミツ
のラストの台詞が生きてくる。


「理」と言った瞬間のキャプ
チャリング。唇の動きも「り」
である。

DVDでは、ボーナストラック
で主演の藤岡弘、さんが解説
しながら本編が再生される

ので、一度本編を観た後に楽
しみにしながらそのモードで
もう一度本編を観た。

すると、ラストのシーンでは、
藤岡氏は、女性ジャーナリス
トが間違って警官たちに
説明
する「武士の道は死と彼は
言った」という部分(たぶん
製作上のミス)について、

自分のラストの台詞のことを
「武士の道は死」と説明して
いた。

四半世紀ぶりにDVD化された
ので、藤岡さんの記憶違いな
のではないだろうか。

何十回見直しても、「武士の
道はじゃ」とヨシミツは
言っている。

そして、その台詞の通り、
すべての理(ことわり)を
悟った武士の最期としての
行動と
捉えないとこの映画の
それまでのプロセスがまった
く意味なくなる。単なる死で
はなく、死の手前と先にある
「理」というものを悟ること
こそ「盛者必衰の理をあらわ
す」という武士の世界の無常
観が具象化
してくるのである
が、単に「死」という表層の
解釈だけにしてしまうと極め
て展開そのものが陳腐になる
し、この映画の
テーマとヨシ
ミツの波乱万丈の生前の生き
ざまと転生の意味が大きく
希釈されてしまう。


藤岡弘、さんが「武士の道は
死」として「死ぬことが武士」
のような解説をしていたのは

極めて遺憾であり、残念である。
現実には藤岡弘、のタガ・
ヨシミツは「武士の道は理」
言っているのであるから。
さらに単なる「台詞間違いだっ
た」としたら、この藤岡努力
作品は、もっとずっと低級な

映画となると断定できる。
本作品は、『ラストサムライ』
のはるか前に『将軍-SHOGUN-』
とともに日本武士の
真の姿を
米国に知らしめた映画との評価
が高いが、ラストの台詞が
「武士の道は死」であるならば、
その評価さえも誤っていると
言っても過言ではない。

そして、日本の武士の姿を正し
く描いた初めてのハリウッド
映画は、私は三船敏郎主演の

『レッド・サン』(1971年)で
あり、これこそがハリウッド
サムライムービーの傑作だと
いう
確信をさらに強めざるを
得ないのである。


<余話>
『SFソードキル』は、撮影に
おいて真剣日本刀がアメリカ
に持ち込まれて使われた。

戦国時代の回想シーンでは刀
で激しく打ち合ったり、槍の
柄を切ったりしている。

すべて、斬鉄剣小林康宏の刀
が使われた。敵の刀を払う時
の音も本当の実音を収録して
いるという。
藤岡弘、氏のタガ・ヨシミツ
と対決する討手となる武士を
演じたのは康宏刀の試刀家

ある小幡氏だ。

そして、時代考証は林流真剣
刀法の林邦史朗氏が担当した。
私の斬術の先生だ。
他にも、この作品には
林邦史朗
氏と刀工康宏、そして日本刀
探究舎鍛人のグループが深く
関わって
いる。

ラストテロップ




『SFソードキル』は、藤岡弘、
氏がライターにシナリオを書き
直させてまで熱演したという
一点において、
サムライ藤岡
節の原形をこの作品に見るこ
とができる。

DVDにより時を超えてアクの
強いアクターの時代的遷移に
触れられるというのは、映画
ファンとしては実に楽しい。
事実、この映画の俳優藤岡弘、
の演技力は白眉だ。

できれば、マニアックな演技
観賞としては、併せて藤岡氏
出演の『日本沈没』、
『野獣
死すべし(復讐のメカニック)』
をご覧になることをお薦めした
い。


この記事についてブログを書く
« 樹脂磨き | トップ | 濃州堂刀剣五十嵐 »