事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

史劇を愉しむ 第4章~「ハワイ・マレー沖海戦」

2008-04-25 | うんちく・小ネタ

第3章「日露戦争」篇はこちら。

10000762 「ハワイ・マレー沖海戦」(’42 東宝)
監督:山本嘉次郎 特殊技術:円谷英二 主演:大河内伝次郎 原節子

「史劇を愉しむ」シリーズ太平洋戦争篇ということでいきましょう。この映画は開戦一周年を記念してつくられた大作。題名どおり真珠湾攻撃とマレー沖海戦という日本海軍の大勝利を描いたもの。なんといっても円谷英二の特撮がすごい。ハワイの山を回りこんで爆撃する戦闘機の姿など、戦中でこのレベルならもうちょっと戦後は進歩していてもよさそうなものじゃないかと思うぐらいだ。実際、戦後の東宝戦争映画ではこの映画の特撮シーンがさんざん使い回されている。まあ、ハリウッドにしたって大作だったはずの「ミッドウェイ」あたりは円谷特撮をそのまんま流用していたんだけど。

 この映画は戦闘の連続だけではなくて、予科練の生活が地味ぃに描かれたりもしている。しかしこれがもうなんちゅうか“不健康なまでに健康”で、ちょっと怖い。乱暴な言い方をすれば、戦前の日本と現代の北朝鮮の相似を思ったりもする。国策戦意高揚映画だから仕方ないとはいえ、戦後、監督の山本は東宝争議(戦闘機以外は全部来た、と有名なストライキ及びGHQによる排除事件)の際に自己批判させられたりしている。でも、この映画が生み出した技術によって、戦後の特撮天国ニッポンが支えられていたのは事実なのだった。

次回は「太平洋の嵐」を。

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史劇を愉しむ 第3章~日露戦争

2008-04-25 | うんちく・小ネタ

第2章「日本海大海戦」はこちら。

4988102759315 またしても日露戦争。今回は二本立て。かの有名な山中峯太郎原作の「敵中横断三百里」(’57大映)と、東宝とシナノ企画(創価学会の一部門)が総力を結集した「八甲田山」(’77)。こちらの原作は新田次郎。どちらもほぼ実録。

日露戦争については、勝ち戦だったことも手伝って、さまざまなドラマが喧伝され、「知ってる知ってるこのエピソード!」がてんこ盛り。小さな事実を派手に仕立て上げることで、幕藩政治の気風を一掃し、国民意識を植えつけるのにこれほど有効な手段(戦争も、美談化も)はなかったろう。今でも(2005年ネタですみません)ナベツネあたりは堀内を擁護するのに『日露戦争のさなかに東郷司令官を批判するようなもの』なーんてアナクロなレトリックを使うほどだ。

「敵中~」の脚本はなんと黒澤明。おかげで田舎のビデオ屋にもDVDが入荷していて楽しむことができる。「日本海大海戦」などの東宝の空疎な大作と違い、職人監督森一生が端正に物語っていて好感がもてる。旅順陥落後、日本にはもう余裕がないから最後の一発勝負の戦場がどこになるのか、建川中尉(菅原謙二)が騎兵隊を組織して探り出す顛末。「最大の敵は雪だ」と馬賊(この存在は檀一雄の「夕日と拳銃」参照)が警告するくだりがあるが、北海道で長期ロケを敢行したわりにはその恐怖は感じとれない。

その点、高校時代以来ひさしぶりに再見した「八甲田山」はすごい。観ているだけでさっむー。高倉健をはじめとした超豪華キャストが、よくこんな過酷なロケに耐えたものだと思う。

Hakkoudasan この映画の成功には、その雪の恐怖を描ききったことの他に、ちょっとひねった配役も貢献している。主役二人が、メイン→八甲田山踏破成功組高倉健、サブ→天はわれらを見放しちゃって失敗組北大路欣也、こんな構図(アムンゼンとスコットですな)なのだけれど、北大路の奥さんが栗原小巻、高倉の奥さんが加賀まりこなのである。これ、普通逆でしょう?高校生だったわたしですらそう思い、しかしそのためにこの大作が、ただ製作費がでかいだけの代物ではないことを感じとれたのだった。何よりも、やくざ映画のスターだった高倉健を主役にもってきたあたりが最大の成功要因だったわけだろうが。高倉隊を案内する若い主婦を演じた秋吉久美子(これも意表をついたキャスト)がひたすら可憐。

二作とも、一見の価値あり。それにしても、日露戦争の勝利って、ほーんときわどいところだったんだねえ。それなのに何を誤解したんだか……(太平洋戦争篇へつづく)

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