事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

あなたに似た人

2007-08-13 | 本と雑誌

Book_02_1   教科書に載る作品には、どうしても妙な臭みがつきまとう。今思えばもの凄いラインナップなのだが、敬遠したくなる気持ちは今でも残っている。年末に高校時代の同級生たちと飲んだのだが、「いかに俺たちは古典を読んでいないか自慢」が始まってしまった。

「お前ら、太宰の何読んだ?」
「『斜陽』は……読んでないな。」
「『津軽』……も駄目だった。」
「芥川龍之介はどうだ。」
「うーん、鼻の長い河童が……」

Roalddahl……馬鹿ばっかりである。私も含めて、結局は教科書に載った「走れメロス」や「蜘蛛の糸」の呪縛から逃れられないのだ。

 しかし高校の夏期講習で使われた教材はちょっと趣きが違った。リーダー(おぞましき英文読解)用の薄いリーフレットで、原文そのままのタイトルは「Lamb to the Slaughter」(邦題「おとなしい兇器」)、夫殺しの短篇。

 題材も変わっていたが、その兇器が思い切り変わっていて、その処理方法がまたとんでもなかった。なんだこりゃぁ、と純朴な高校生たちは戸惑い、勉学には一向に純朴でなかった我々はアンチョコ用に邦訳を求めて書店に走った。

 ちょうど早川書房がミステリ文庫を発刊した頃で、ロアルド・ダールという作家の著作はその中にあった。短編集「あなたに似た人」。「おとなしい兇器」の他に、ミステリのオールタイムベストで常に名のあがる「味」や「南から来た男」が入っていた。短篇といえば星新一のショートショートしか頭になかった純朴な(クドイ)我々には、このブラックな味はちょっとしたショックだった。

 Chocolate 英文読解の教師がこの味を生徒に紹介したくてダールを教材に選んだのかはわからない。しかし一向に過去完了や時を表す副詞節には馴染めなかった私が、以降、この味を求めてミステリの世界に入り込み、果ては英文科に入学するという暴挙にでたのは、全てではないにしろ(まあほとんどは女子が多そうだから、という理由)、この一冊による影響のような気がする。
やっぱり、教科書には面白い作品を選んでくれなくちゃ。「国民の歴史」とかじゃなくてさ。

※ダールには童話作家としての一面もあって、「チョコレート工場の秘密」や「おばけ桃の冒険」(映画「ジャイアント・ピーチ」の原作)も有名。英文科の女の子たちには、こっちの方がはるかにウケはよかった。

コメント
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