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処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

ふたりの季節

2016-10-06 17:18:15 | 

 

      

初めての小池真理子本。

今、同じような人生のシチュエイションにある。新聞の寸評に魅かれて読む。

何だか恥ずかしい。そして懐かしい。息遣い、想い、年月、悔恨、世情、みんな共有共感である。

柴田翔『されど我らが日々』。『サルビアの花』。アダモ。『シバの女王』。反戦フォーク集会。清水谷公園、エトセトラ、エトセトラ。あの時代の音と臭いに包まれる。

由香と拓が高校生の時に出会った渋谷・百軒店の名曲喫茶は、実際に覚えがある。”らんぶる”か”白鳥”かだった。

著者は書く。「『始まり』は『終わり』の始まりだが、『終わりは』はまた、次の『始まり』を意味する。始まったり終わったり、また始まったりを繰り返しながら、人は生きる。それぞれの幕が降りるその瞬間まで」

あとがきで著者は、幻冬舎の見城社長の足掛け2年にわたる執筆依頼、「30枚でいい」の熱意に押されて、結果100枚の作品になったことを明かしている。社長手ずから駆けずり回っている。彼の社の勢いの基を知った。

 

 


七つの会議

2016-09-21 08:07:21 | 

著    者 池井戸 潤

出版社 集英社

アマゾン価格230円+配送料257円。

     

一気に読む。

規模の大小を問わず、企業には隠蔽工作があるだろう。

最初に生じた営業現場の小さな疑惑が、やがて製造部門に波及、重役の手にも負えなくなり親会社のトップまでもが登場となる。

個人の出世のための手段が、ライバル潰しや派閥抗争に利用され、「会社のために」という正義のもと、不正義が拡大し続けてゆく。そして破綻する。

「しかし」と思う。今、現実の会社には、そうはならずに巧みにクリアして成長を続けているのではないか。ビッグ・カンパニーであるばあるほど。ワーゲンやミツビシの始末でそう思う。会社の正義は必ずしも社会の正義ではない。個人の正義でもない。

この隠蔽物語の最後を締め括るのは、意外な人物。ここに著者の人間観察の眼がある。

 

 


旅の窓

2016-08-26 21:58:05 | 

著   者  沢木耕太郎

出版社   幻冬舎文庫

     

生きる指標と言うと大袈裟になるが、各方面や分野に一人、自分と同世代を心に留めている。彼らの本や記事。映画やTV番組・講演はたまたステージなどに注意している。彼(彼女)は、何をしているのか。どう見ているのか。そういう考えもあるのかと。

著者はその一人。『テロルの決算』(1978年)からのフォロアーである。今、朝日新聞に連載中の「春に散る」も楽しんでいる。

いい本ですね。ゆったりと時が流れている。ダーク・トーンが特徴の写真と添えられた文のマッチングが素晴らしい。世界を歩き、興のままに撮り、請われて本にする。その境涯が何より羨ましい。

私にも撮った写真は山ほどある。習っているパソコンを駆使して、マイ・ブックを作って見ようか。

 

 


コンビニ人間

2016-08-22 22:25:33 | 

著者  村田沙耶香

出版社 文藝春秋

受賞会見のニュース報道で著者の挨拶に接して、読む気になった。

癒し系のキャラクターという点では、著者は物語の主人公と同類の印象を受けるが、彼女が生きる世界の表現には、ゾッとする。日本社会の今を鮮やかに切り取っている。

羽白さんの造形がユニークだし、恵子とのやりとりや生活の異次元ぶりが頓珍漢で面白い。コンビニ仲間や店長の生態も、普段窺い知れない世界だけに精彩を放っている。

次作は如何なる作品になるのか。コンビニでない世界をどう描かれるか、大いなる関心である。

(台風9号上陸で早退の自宅で)

 

 


終わった人

2016-06-15 07:43:13 | 

著   者 内館 牧子

出版社 講談社

 

終業20分前、63歳定年で社を去る主人公・田代壮介の描写からはじまる。

大手銀行の出世争いに敗れて、最後は子会社の社員40名の専務として終わる。

右肩上がりの時代を戦い続けてきた団塊の世代の”その後”が舞台。

 

         

 

 

著者が同世代の生態を、心象の襞や生活の格差などを書き入れリアルに表現した現在小説。

この世代の男の心の揺れ、人情、寂しさ、戸惑い、気負い、疎外感、誇り、あきらめ、焦り etc。

気味悪いくらいに全部思い当たる。女性ながらによくも描いたものだ。ここまで見通したように書かれると、ちょっと困る

高校時代にトップを争った二宮。東大、商社と進んだが48歳で退社、今はボクシングのレフェリーで稼いでいる。30年振りの邂逅でこう言う。「人は死ぬまで、誇りを持って生きられる道を見つけるべきだと・・・あの時。骨身に染みた」

対する田代。「俺はこの齢になって二宮に負けたとわかった。生きている限り、勝負は動くし、何よりも、人生は勝ち負けで測れるものではない。だが、今の暮らしぶりを考えると、二宮の方がずっと充実し、楽しみ、他から必要とされている。それでも人生に勝ち負けはない、と言う人はあろうが、それは違う。負けだよ、負け。そう思った」

著者は”あとがき”で 『六十代というのは、男女ともにまだ生々しい年代である。いまだ心技体とも枯れておらず、自信も自負もある。なのに、社会に「お引き取り下さい」と言われるのだ』と書き、『アンチ・エイジング至上の現代日本において、まだ若い者には負けないとする《終わった人》に、坂本義一が英国を論じた「重要なのは品格のある衰退」は大きな示唆である』と述懐する。

女たちは、ドライでクール。田代の妻はこう言う。『私ね、老夫婦が貧しい食卓で向かい合う毎日って、決していいこととは思えない。そんな毎日じゃ、「お互いに齢とったよな」くらいしか考えないでしょ。年齢ばかり考えていることが、人を齢取らせるのよ』

娘の道子が、巻末で両親に意見する正論の激しいこと。これもその一つ。「仕事を離れて、スーツにふさわしい息をしていない男には、、スーツは似合わなくなるのよ」 スーツが死んで、息をしなくなるということか。全部実感している。

右肩上がりのド真ん中を走り続けてきた畏友・親友・悪友に大いに奨めようと思う。

さて、この物語は、やがて映画になるに違いない。で、遊びに配役を試みた。

    田代壮介 渡辺謙

        妻・千草 池上季美子

        娘・道子 中越典子

           久里 井川遥

            トシ リリー・フランキー

       二宮 高橋克己

     南校OB 生瀬勝久、 村田雄浩、 柳葉敏郎、 岸谷 五朗ピエール瀧

      監督は、是枝裕和 or  岩井俊二  or  河瀬直美というところでどうか。

 

 

 


ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い

2016-06-02 07:47:35 | 

出版社 NHK出版

著者 西寺 郷太

形態 新書版205頁

定価 740円

 

                   

USA・フォー・アフリカによるアフリカ救済支援は音楽史上に残るビッグ・イベントだった。そこに至るアメリカン・ポップスの歴史を外観し、アーティスツを活写し、沸点の「ウィ・アー・ザ・ワールド」の光彩と落日を、偏愛とマニアックな博識で埋め尽くした好著あでる。

著者は1973年生まれ。ノーナ・リーブスのシンガーとして活躍する傍ら、作詞・作曲・プロデューサーとしても活躍する才人だが、文筆でも大いに名を高らしめるのではないか。楽曲誕生の年月日・生みの親・経過・影響・史的意義・系譜etc.何でもでもござれ。実に詳しい。

この著作から多くのことを知った。

・ロックン・ロールの歴史は、1955年のビル・ヘイリーと彼のコメッツによるヒット《ロック・アラウンド・ザ・ロック》から始まった。

・アメリカン・ポップスは映画音楽から始まった。

・1927年世界初の長編トーキー《ジャズ・シンガー》の主演を当代ブロード・ウェイの人気歌手アル・ ジョンスンが務めたことが象徴的。

・ジョージ・ガーシュインが楽譜のデモ演奏で糊塗していたマンハッタンの一隅《ティン・パン・アレイ》がポップすの源流、などなど。

確かに近年にアメリカ発にはパワーがないのは事実。その裏の事情には、それなりの理由と経緯があった。

自ら好きなことを仕事をし、興のままにその世界の成り立ちや歴史を辿り、それが自己の成長に繋がる。著者はとても幸せな人だと断じたら叱られるか。

 


天空の蜂

2015-11-07 21:42:31 | 

著 者  東野圭吾

出版社  講談社

形  態   文庫

            

面白い。東野本は1年前の『真夏の方程式』に続き2冊目。そういえば映画のCMがテレビで流れていたと読了してから思い至った。

物語の中の時間の経過は約半日。舞台は美浜原発。自衛隊に引き渡す日の朝に乗っ取られ、海に没する特殊ヘリコプター《 ビッグB 》。その間の犯人グループ、開発グループ、原発従事者グループ、捜査グループの姿を追い、原発の構造、ネット通信の現在、現代技術の詳細などが綿密に語られる。著者の知識にひたすら脱帽する。著者の前歴が見事に生きている。

普通の文庫の倍の厚さだが、一気読み。

出版は1995年。2011年の東京電力福島原発事故の16年前に世に出されたことに驚く。著者の先見性と社会洞察力、問題提起の深さに敬礼。

それにしても映画を観たかった。活字でイメージする《 ビッグB 》の怪物ぶりが、どんな風なのか、映画の最大の目玉の筈。日本映画が米の科学スペクタクル映画を凌駕出来ているか。残念なり。DVDで我慢するか。

 

 


「寅さん」こと渥美清の死生観

2015-07-30 12:38:03 | 

著   者  寺沢 秀明

出版社   論創社

定  価   1728円  

 

       

「どうしてあの渥美清氏の心を掴み切れたのか、たいした人」だというのが率直な読後感である。氏と著者の心の交流が余すところなく伝わってくる。著者に寄せる氏の信頼感は尋常ではない。

「会おうよ」という連絡は、いつも氏からの電話。いわば勤め人として組織の中で働く著者が、その都度時間を工面して氏のもとに駆けつける。「何か面白いことないか」と問われれば、氏の思いと状況に合うアイテムを探しては同道する。

 人生のエンディングを自覚する氏には著者と過す時間がとても大切だったのだろう。それは唯一の癒しの時だったのかも知れない。

「人との付き合いはどうあるべきか」「何をもって自分を語るか」 自己を顧みるとき、様々な思いを去来させる得難い本である。

 

 

アマゾンの宣伝文から

「寅さん」晩年の8年間、芸能記者の枠を越えて親交のあった著者が、その『知られざる素顔』を「映画をみる眼」「渥美さんの女優観」「大磯の幽霊」など、豊富なエピソードで明らかにする!

 
 
著者「まえがき」より抜粋
 
共に映画を見、観劇し、美術館を巡り歩いた。春、桜が咲けば花見に出かけ、夏が来れば幽霊を見ようと古屋敷を覗きに足を運んだ。どこかこどもじみたこうどうではあったが、どれも思いで深いひとときであり、私にとって終生忘れられない人生の一コマとなった。そして、今も誇りに思う。
あの渥美さんの語り口を思い起こしながら、私が知る限りの渥美さんを、ここに記したいと思う。     

お菓子とフランス料理の革命児 ぼくが伝えたいアントナン・カーレムの心

2014-11-01 23:10:18 | 

著  者 千葉好男

出版社   鳳書院

定  価 1600円+税

 

グルマン世界料理本大賞2014グランプリ受賞。

この賞は約20年前に創設され、「料理本のアカデミー賞」と称されている。今年度は187カ国2000冊以上がエントリー、そのグランプリ本である。

 著者は、1949年生まれ。高校卒業後日本一の菓子職人を目指して単身渡仏。数多く菓子店・フランス料理店で修業ののち80年にパリにサロン・ド・テ兼菓子店をオープン。菓子コンクールで幾度となく金賞を獲得、95年には日本人初のフランス料理アカデミー会員となる。 

 

    

アントナム・カーレムはフランス料理を芸術の域まで高めた天才料理人。ロシア皇帝、イギリス皇太子、ロスチャイルド家など王侯貴族のシェフをつとめて名声を不動のものとする。

武者修行時代、最も影響を受けたのが、外務大臣のタレイランだった。フランス革命の波を恐れたヨーロッパ各国との交渉の武器となったのが、タレイランから「365日違う献立で食卓を飾れ」と命題を与えられたカーレムの料理だった。まさにウィーンの踊る会議の影の主役だった。

カーレムの生涯は、ナポレオンのそれにほぼ重なる。ナポレオンが最も華々しく活躍した時代に才能を見いだされ、一人の料理人としてナポレオンの治世に華を飾ったと言える。

それにしても、料理職人が自らが創作した料理について、これほど心血を注いで書き残す行為というのは何だろうか。しかも料理という限られた世界ではなく、広範な社会の各層に支えられて。全集にまでなっている。日本料理と比べてどうだろうか。

理に、経営に、業界に多忙の著者がこうして料理本をものにする。そのことの中に、フランス料理のDNAがあるとすれば、こうして著作に挑戦し続ける著者はまさに正真正銘のフランス料理人と言える。

 


紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場

2014-10-09 07:39:06 | 

著 者  佐々 涼子

出版社 早川書房

定 価  1500円+税

 

  

震災文学というジャンルがあるのだろうか。あればこの分野の傑作の一冊と言えるだろう。

激震をやり過ごせた安堵の後に襲いかかった数派の大津波。その生死を分けた惨状と奇跡の復興と再生を追ったドキュメント。そのシンボルとして日本製紙石巻工場。

 

   

登場するベテラン編集者が述懐しているように、多くの日本人は、サーモンがノルウェーで獲れることやバナナがフィリピンで採れることを知っているが、出版用紙が何処で出来るかを知らないで来た。何と我が国のそれの四割を、水没した日本製紙石巻工場が担っているのである。

2013年4月12日に発売された『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は発売7日目にして100万部に到達し最速の記録を打ち立てた。従業員たちの凄絶な死闘によって奇跡の復興を遂げた8号抄紙機の蘇生があったればこそである。

また、N6抄紙機を救うドキュメントも胸を打つ。このマシンは幅が9.45メートル、毎分1800メートルの抄造スピード、1日の生産量超1000トンの世界最大級の超大型設備。630億円かけた最新鋭設備。ちなみに東京スカイツリーの総工費は650億円といから日本製紙の生死を握る。

数々の教訓や言説が汲み取れる。一旦「現場」がやり遂げると腹を括れば、どんな困難も乗り越えて仕上げてくることを信じるリーダーの決断というものが如何に大事か伝わってくる。

         

ある従業員の証言。「書店で自分で作った紙に会ったらどう思うかって?『よう!』って感じですね。震災直後、風呂にも入れない、買い物も不自由。そんなささくれだった被災生活の中で、車に乗って家族はどこへ行ったと思う?書店だったんですよ。心がどんどんがさつになっていくなか、俺たちが行きたかったのは書店でした。俺たちには、出版を支えているっていう誇りがあります。俺たちはどんな要求にもこたえられる。出版社にどんなものを注文されても作ってみせる自身があります」 この矜持が日本文化の危機を救ったと言える。