goo blog サービス終了のお知らせ 

処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

老人の極意

2017-08-26 11:15:31 | 

著  者 松村友視

出版社 河出書房新社

     

手にするにはちょっと抵抗感があった書名。赤瀬川源平の『老人力』より先に読むことになった。

77歳の著者が、中央公論社の雑誌編集長時代、自ら取材やインタビューをした人たちとの出会いを通して、見て聞いた老人たちの生き方、生きざま、姿を書き下ろしで一人一章(5頁~6頁)で纏めたもの。

有名雑誌の編集長ゆえ、相手は誰もが知る著名人が多い。伊丹十三、西岡常一、武田泰淳、田辺茂一、古波蔵保好、藤村俊二、幸田文等等。

とりわけ森繁久彌の下りは秀逸で印象が強い。映画『座頭市』シリーズに老渡世人約で友情出演した森繁久彌が今わの際に市の腕の中で虫の息で歌う ”ぼうふらが 人を刺すよな蚊になるまでは 泥水飲み飲み 浮き沈み”。

この章著者はこう結ぶ。「それにしてもあの ”ぼうふらが・・・は、森繁好みだったのか、森繁作だったのか、勝新作だったのか・・・答えはあるのだろうが、謎のままにしておこう。だが、あのシーンに、すでに大御所となった森繁久彌という稀台の役者が身銭を切ってくりだす、比類ないテイストがあらわれていたのは、遊び人の後輩たる勝新太郎監督の、大いなる手柄というものであろう。

そして巻末にはこう記す。「老人の域に達した人々から滲み出る、地味、旨味、妙味、風味、香味、珍味、苦味、佳味などのテイストが入りまじって人間味として仕立て上げられ、その味わいが私の贅沢すぎる財産となって生きている。(中略)つみかさねた年齢を一気にたどり直したあげくに、あらためて奇妙な力を与えられたというのもまた、たしかなる実感なのだ。ならばその実感を道連れに、いましばらく幻を求める道中をこなしてみようというのが、目下のところの私なりの気分なのである」


黒革の手帖

2017-07-28 08:04:44 | 

著   者 松本 清張

出版社 新潮文庫

価   格 アマゾン価格1円 郵送料257円

        

松本清張を片端から読んだのは、もう30年位前になろうか。私のベスト・ワンは『点と線』。

この『黒革の手帖』は読み損ねていたので、武井咲主演のテレビ・ドラマ化の記事に刺激を受け読んでみた。

唸った。やはり清張は清張。社会派の巨星。

下巻の四分の三からは、読み進むのが嫌だった。ヒロインが絡め捕られてゆくさま、それも自らが這いあがるために陥れてきた悪の連中に復讐される過程が恐ろしくて前に進まない。

実社会では、一人の女を嵌めるために悪人たちが横に連携するチーム・プレイなどあり得ない。

清張が描いたのは、当時急成長していた地銀・予備校・私立病院などの裏の闇で蠢く色と慾の群像だ。

この物語は、過去30年の間に6回も映像化されている。

銀座、役者、社会性、どれもが時代を超えて制作意欲を掻き立てるのだろう

昨夜、チラとオン・エア中の同番組を目にしたが、大分シナリオに手が加えられているように思えたが、果して。

 


習近平の中国  百年の夢と現実

2017-06-27 22:32:30 | 

著  者 林   望

出版社 岩波書店

 

     

手頃な中国の今がわかる本。

ニュース報道で見る仏頂面の習近平。果してこの人は笑う時があるのだろうかと思う。何でいつもこんなに機嫌が悪いのかと思う。

その習近平が、毛沢東、鄧小平に次いで党の”核心”と呼ばれるまでになった。それも短期日のうちに。権力の強さは、極めて強大らしい。

目指す『中国の夢』は、果して成るか。読む進むうちにもっと知りたくなる。

習がロシア・メディアのインタビューで語った。

「中国の改革は、始まって三十年が過ぎ、深くて危険な水域に入っている。皆に喜ばれる改革はほとんどやり、軟らかい肉はもう全部食べつくしてしまっている。残ったのは噛み砕くのに苦労する硬い骨ばかりだ。たとえそうであっても、我々は気持ちを強く持って前に進まねばならないが、一歩一歩、危なげなく、正しい方向に進み続けなければならない。取り返しのつかない間違いを犯すわけにはいかないのだ」

覚悟と危機感が伝わってくる。故の仏頂面なのだ。

彼の言葉をもう一つ紹介する。。「水は舟を浮かべもするが、舟を転覆させもする」

ジョン・アクトンの言葉を進呈しよう。「権力は腐敗する。絶対権力は、絶対腐敗する」


空飛ぶタイヤ

2017-06-13 22:28:03 | 

著  者 池井戸 潤

出版社 実業之日本社

 

   

面白い。極上のエンターテインメント。

死亡事故を起こした小運送会社の社長が、汚名挽回、名誉回復に戦う姿。

文庫837頁。3cmの厚さと重さは、鞄に入れても手に持っても不都合。でも、ちょっとの間でも読みたい。「この先どうなってんの」

朝晩の通勤の1時間余、読んでいればラッシュが苦にならない。気にならない。立ち続けても。

人物描写がよい。性格と立場と物言いと一人ひとりが的確な場所に配置されている。「居る居るこんなの」

思うに、池井戸潤が描く世界は、かつての全共闘世代の共感を呼んだ高倉健の世界と二重写しになる。

耐えてこらえて我慢して。やがて最後に一挙の逆転。義理と人情。勧善懲悪。正義が勝つ。

ブログ主も愈々『水戸黄門』愛好世代か。嗚呼。

 

 


公器の幻影

2017-05-18 23:22:48 | 

著   者 芦崎 笙

出版社 小学館

定   価  本体1,600円+税

判型/頁 4-6/322頁

    

著者は、現役の財務省のキャリア官僚。三作目の作品。二冊目『スコールの夜』は第5回日経小説大賞受賞。

主題は臓器移植。重いテーマに挑んだ著者の勇気とバイタリティに脱帽する。

煩いメディアに組織や企業はどう対応し、如何に捌けばよいのか? 逆に取材の側は、攻め口をどこにするか? その手順は? 脇の固めは? 権力との攻防に妥協は? 今、生身でこうした世界に身を置いている広報、総務、渉外のセクションの人たちには、こそばゆくもありためにもなろう。

以下は、ネットに出ている広告文。

〈 書籍の内容 〉
現役財務省官僚作家が描くメディアの裏側
東西新聞社会部の鹿島謙吾は、中国の西安で金銭が絡み死刑囚の臓器が日本人患者に移植されているという事実を突き止める。記事を掲載すると、中国政府は強く反発し、日本国内でも臓器提供の要件緩和を目指す法案が動き出す。臓器移植法案をめぐり蠢く政治家たち。鹿島はさらに脳死判定におけるデータ改竄と違法な政治献金を追うが、それを公にすることは移植手術を待つ患者たちの希望を打ち砕くことにもなるのだ。正義か、信条か、功名心か、鹿島の決断は……。
「スコールの夜」で第5回日経小説大賞を受賞して話題を集めた現役財務省キャリア官僚・芦崎笙氏の新作書き下ろし小説。受賞作では大手都市銀行初の女性管理職に抜擢された主人公の苦闘を描きながら金融界の深層に迫ったが、今回のテーマは新聞ジャーナリズム。臓器移植問題を報じる新聞記者の生き方を通して公器(マスコミ)とは何かを問いかける。

〈 編集者からのおすすめ情報 〉                                            政治家の「首」をとるスクープを前にして揺れ動く新聞記者の真情を深く鋭く描いた骨太な人間ドラマです。新聞記 者の経験を持たない作者がここまで複雑な内面に踏み込めるとは、圧倒的な筆力と豊富な情報量で展開される読み応えじゅうぶんの長篇小説です。


魯迅---中国文化革命の巨人

2017-03-25 11:46:51 | 

著  者 姚文元

訳  者 片山智行

出版社 潮出版社

 

  

44年前に出版されたこの本を、一体どの位の人が知っているだろうか。

時は、文化大革命3年目。書いたのは四人組の一人姚文元

中国発の連続する驚天動地の出来事に、世界が耳目を奪われていたさなかの翻訳出版である。

雲霞の如き赤いスカーフの紅小兵が毛沢東語録掲げて此処彼処に押しかけ、大人を吊るしあげ、秩序を破壊し尽くした混乱の極み。

経済の打撃は? 大学の機能は? 劉少奇は? 革命と反革命、その勢力図は? 犠牲者数は? 権力の落ち着く先は? 連日、息を詰めるようにして新聞の報道記事を読んだものだった。

姚文元については、訳者によるあとがきに詳しい。マルクス主義文芸路線の忠実な実践者としている。

当時、これを「出版しないほうがよい」「すべきでない」「少なくとも暫く見合わせた方がよい」との声が一部にあったが、版元は密かに出した、そんな雰囲気だったように思う。

このほど転居に際して、かつて貪った竹内好の著作を大方手離したが、その中に紛れていた。この姚『魯迅』を読んだのも、もとはと言えば竹内魯迅に発している。

当時、出版へのブレーキはどの筋からあったのか、またそれは姚の行く末を予想してのことだったのか、出版は版元の不名誉にならないか、いやとっくに時効だろう、思いは巡る。

今、党大会を前にして ”核心" 習近平のおぞましい体制造りが表に出始めた。裏では凄まじい闘争が繰り広げられていることだろう、四人組時代それに続く林彪事件のように。

 

 

 

 

 


揺れる欧州統合 英国離脱の衝撃

2017-02-13 07:40:18 | 

著   者 樹下 智

出版社 第三文明社

定  価 1,000円

      

歴史的転換点となったイギリスのEU離脱、その世界の変わり目の現場ルポルタージュである。

ヨーロッパ各地でのインタビューの内容がいい。説得力がある。これは聴き手の視点と洞察力が優れているからだろう。

デイリーの新聞でもこうしたルポはあるが、連続性と思想性に欠けるきらいがある。こうして一冊に纏ると、この本自体が、歴史の刻印として実に貴重な資料となる。

巻末の「あとがきにかえて」によれば、聖教新聞社外信部として初の企画編集物の出版だという。その意気込みと高い志が誌面から伝わってくる。第1号は成功といえる。

著者は、今回、取材に応じてくれた識者を終生大切にしていくことだ。自身のこれからの世界平和の探求に限りない力と智恵を提供をするに違いない。それほど打ち合いに力の入ったのインタビューだったと読みとれる。

惜しむらくは、現下のトランプ騒動。この驚天動地の大混乱が無ければ、本書は、もっと広くもっと強く読まれたに違いない。

 


土漠の花

2016-12-10 15:57:19 | 

著  者 月村 了衛

出版社 幻冬舎文庫(406頁)

 

        

凄まじい小説である。リアルな戦闘シーンが不断に続く。ハラハラドキドキの一気読み。疲れた。

ジプチとソマリア国境を舞台にした日本の陸上自衛隊第一空挺団員12名の冒険と逃亡の活劇ドラマ。

この小説の刊行は2014年9月、安保法成立の1年前。先週、史上初めて、日本自衛隊の”駆けつけ警護"部隊が派遣された。 この小説では、弾圧されているソマリアの現地氏族が自衛隊に助けを求めて走り込んでくるという、逆の "受け入れ警護"のシチュエイション。

外に出た自衛隊は、いつか死傷に遭遇するだろう。絶対無いとは言い切れまい。

東野圭吾の『天空の蜂』が、《3.11》前に、未来の原発と社会のありようを予見したと言われるように、この小説もやがて予見していたと話題になることがあるかも知れない。

オタクが喜びそうな戦争のための装備品・武器・車輛などが、次つぎと登場するが、門外漢にはサッパリ。そこで、それらの画像をあたってみた。イメージが広がった。

        

   RGD-5。遠投手榴弾。

   1954年にソ連軍が開発し現在で東側諸国やアラブで生産・使用されている。

 

    

   C-4。 プラスチック爆薬。

   TNT換算で1.34倍の威力がある。

 

 

        

   PKM汎用機関銃。

   1960年代にあのAK47を開発したミハイル・カラシニコフが開発した機関銃。

  銃身長658mm、 重量8990g、口径7.62mm。

 

   

   RPG-7   

   ソ連が開発した歩兵携行用の対戦車兵器。安価、簡便かつ効果的であるため、

   途上国の軍隊やゲリラ、 民兵が好んで使用し、ベトナム戦争以降から現代に至るまで

   世界各地の武力紛争において広く用いられている。

   40カ国が正規に採用しており、様々なモデルが9カ国以上で生産されている。

 

 

        

   クレイモア対人地雷

   アメリカが開発・使用。重量1.6kg。湾曲した箱状の外観に700個の鉄球を内包する。

   地上に敷設して起爆すると鉄球を扇状に発射し、設置位置の前面に鉄球を投射することにより、

   1基で広範囲に殺傷能力を発揮する。

 

 

     

    M15対戦車地雷

    アメリカ軍が朝鮮戦争で使用した。重量14kg、直径333mm、高さ150mm。

 

    

 

 

          

   マカロフ

   ソ連が開発。

   大型で威力の高いトカレフの反省から生まれた。携帯性に優れ、取り回しが良い銃として

   評価が高い。戦場での拳銃の必要性を見直し、拳銃を主力火器としてではなく副次的な装備

   と して考え始めた結果だと云われている 。

    

    

    

    ドラグノフ狙撃銃   

  セミオートマチックライフル。銃身長620mm、重量4,310g、有効射程600m、口径7.62mm。

  製造期間1960年~現在。アフガン、チェチェン、南オセチアの紛争で多様。

 

 

    

我が世代が子供の頃、男の子のおもちゃは、ブリキの鉄砲と自動車とロボットが最高だった。夢中だった。今はゲームが圧倒的だろう。

 

 


できる人はやる、できない人は論ずる

2016-12-03 23:08:47 | 

著  者 久米信廣

出版社  ごま書房新社

定  価 1404円

   

ユニークな本である。著者は、現役の実業家。オーナー社長として、経営の切り盛りをしつつ、スポーツや文化の領域でもボランティアで精力的に走り回っている。

日頃の自分の思考や哲学、人生論、比較文化論、宗教観、日本人論などを率直に綴る。そこには衒いも気負いもない。素直な心情の吐露である。

自らが不動産広告チラシに20余年にわたって書いてきた文章を纏めた第壱部。訴求効果を求めた短文短句。リズムがあるから読み易い。頭に入り易い。

第弐部は、朝礼や会議など主に社内で語ってきた言言句句。ここには景気や利益目標や見通しなど事業の話は一切なく、人生論、生き方論。「お前の普段はそれでいいのか!」と迫ってくる。

第参部は、過去、自らが行き交わった様々な事象とその時々の思いや考察を纏めたもの。

読む者に、漫然と生きる自分を猛省させるエネルギーに満ちた警世の書と言える。

著者の意向なのか編集者が名付けたのか『できる人はやる、できない人は論ずる』のタイトルは書意を表現して抜群である。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

  1951年1月徳島県に生まれる。1978年日本大学藝術学部卒業。1980年現在の第三企画株式会社を創業、代表取締役就任。1989年日本不動産軟式野球連盟を結成、RBA軟式野球大会を主催。任意団体として社会貢献活動RBAをスタート。2000年NPO法人RBAインターナショナルを設立、理事長就任。2006年明治大学大学院政治経済学研究科博士後期課程修了、経済学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)※ この項アマゾン


日本と中国の絆

2016-11-19 19:02:15 | 

著  者  胡金定

出 版 社  第三文明社

 

     

著者は、1956年中国福建省生まれ、現在甲南大学教授。月刊『第三文明』の連載が単行本になった。

日中両国の友好往来の歴史を、特に近現代を重点に判り易く書く。

冒頭で著者は「自分は、中国で古くから《庚申の日生まれは大泥棒になる》と言われている申年である。我が子の将来を案じた両親は、名前に金を付ければ生涯金が着いて回るだろうと金定とした。同じ庚申の日生まれの日本の漱石も、我が子の厄除けを願う両親によって金之助と名付けられた」と微笑ましい逸話を紹介している。

両国民の相手への嫌悪感が最悪の今、その現状を何とか好転させたいとの強い思いが行間から伝わってくる。しかし半面、人によっては、習近平中国の言い分を正統史として、日本国民に理解させる意図ありとも受け取る向きもあろう。何はともあれ、両国友好ガイダンス本として一級である。

中国四千年の歴史は、王朝の歴史。現王朝(共産国家)は成立して精々67年。まだ若い。若さゆえのトラブルはつきものだ。そうした太っ腹の史観にたって、お付き合いをして行こう。

各章で取り上げている主な友好の人士やマターは次の通り。初めて知ることも数多い。

池田大作、内山完造、高碕達之助、岡崎嘉平太、朱鷺、魯迅、西村真琴、梅屋庄吉、呉清源、高倉健、遠山正瑛、鄭成功、隠元、武林唯七、楊貴妃、徐福、媽祖。