マチンガのノート

読書、映画の感想など  

生成と消滅の精神史 終わらない心を生きる  下西 風澄 文藝春秋 感想 その6

2023-05-29 07:52:38 | 日記

織田尚生氏の著作のなかで、小学校低学年くらいまでは複数個の太陽を描き、

その後に単一の太陽を描くようになることがあると紹介されていて、

宮本忠雄氏の著作では、ムンクが壁画で一つの太陽を描いたころに良くなっていったことが

紹介されていますが、良いもののイメージが何かに投影されてしっかりと明確になっていくことは、

発達の基礎として大切なのでしょう。

境界例の場合など、良い対象と悪い対象の統合につまづくことがその後の問題のもとではないかと

言われていましたが、快適な感覚を感じ、良いイメージを持つ基礎が在っても、その良いイメージを

引き受ける対象がないと、その後に色々と大変なのでしょう。

乳幼児期の養育の大切さというものがよく解るところです。

 


絞め殺しの樹 河崎秋子  小学館 感想 ネタバレ

2023-05-25 19:36:08 | 日記

【感想】

時々美化されて微笑ましく描かれたりする貧しい家庭ですが、本作では貧しい家庭の中で

経済的に余裕が無いことから、どの様に人が残酷な振る舞いをしたり醜悪な行動をするのかが描かれています。

物語の舞台は戦前の北海道なので、貧しさというもののミクロな影響について、小説の形で解りやすく描かれています。

最近は日本も貧しくなってきたと言われていますが、あまり経済的に苦労したことのない層には想像もつかない形で、

色々な人が残酷な振る舞いや冷酷な行動に走り始めていそうです。

 

 

 


ネイビーシールズ ローグ・ネイション  監督 ジェームズ・ナン 出演 スコット・アドキンス ライアン・フィリップ 感想

2023-05-21 21:07:57 | 日記

一時いろいろと取り上げられていた、米国の法律で禁止されている拷問をするために外国に設けられた

テロ容疑者の収容施設から、容疑者を移送しようとする映画です。

【あらすじ】

ネイビーシールズのハリス大尉(スコット・アドキンス)たちと情報部の分析官のアンダーソンは、

ポーランドの島にある収容施設から容疑者マンスールを移送するためにヘリで来ます。

しかし、移送する前にそこが武装集団に襲撃されるのでした。

【感想】

有名な映画のパクリのようなタイトルですが、中身はしっかりした物になっていました。

アクションシーンはワンカットでの撮影とのことで、緊迫感溢れるもので、ほぼ90分アクションシーンの連続ですが、

迫力があり飽きさせ無い映画です。

イギリス映画らしく、アメリカ万歳なものではなく、容疑者がなぜ過激派に協力することになったのかや、

武装集団のメンバーの描き方なども、色々考えさせる物となっていました。

最後もはっきりさせずに余韻を残したものになっていて、好感が持てる映画でした。

この映画のポスターも色々と盛り込んで作られているので、内容とはかなり違った感じになっています。

低予算でも作り方によってはしっかりした内容で飽きさせない物が作れるという、

いい見本になる映画だと思いました。

映画『ネイビーシールズ ローグ・ネイション』予告

 

 


発達性トラウマ障害のすべて 杉山登志郎編 こころの科学増刊 感想

2023-05-20 23:02:57 | 日記

編者の杉山登志郎さんは、以前から『子ども虐待という第四の発達障害』などで、虐待の影響により

発達障害に似た症状のある症例を取り上げてきましたが、本書ではその後の研究や臨床の発展について

取り上げています。

冒頭の 友田明美・中西正史・杉山登志郎氏らの対談は興味深く、これまでの臨床上の位置づけや対応方法の

変遷などが解りいいのですが、その後の部分の多くはトラウマへの対応の方法が並べられているのが、

少し疑問でした。

様々な心理的、身体的なトラウマ由来の症状への対応方法が増えてきて、知見が蓄積されてきたことは

いい事なのですが、発達障害圏の方は主体が未成立だったり曖昧だったりすることが多いので、

治療者がクライアントを苦しめる症状への対応に気を取られ、何かの手法を提供して

症状をやわらげることばかり考えていると、クライアントもそれで何とかなると考え、

そのことにより余計にクライアントの主体が曖昧になる、生成しにくくなるという事も、

かなりありそうな事だと思いました。

ASD傾向の強いクライアントには、トラウマ処理の手法より、箱庭などのクライアント自体が自己生成することを促す

対応のほうが、そのようなことが起こりにくく良さそうだと思います。

 

 

発達性トラウマ障害のすべて|日本評論社

発達性トラウマ障害のすべて。杉山登志郎氏。日本評論社は1918年創業。法律時報、法学セミナー、数学セミナー、経済セミナー、こころの科学、そだちの科学、統合失調症のひ...

 

 


危機介入の箱庭療法 著 エヴァ・パティス・ゾーヤ  監修, 翻訳 河合 俊雄  創元社 感想

2023-05-20 00:36:06 | 日記

日本で普及している箱庭療法ですが、それを簡易化して様々な国の貧困地帯や紛争地帯、被災地などで

子供に対して行ったことについて書かれています。

その様なところでは、医療資源が乏しいことから、一定の研修を受けたボランティアなどが行いますが、

箱庭療法の基本をしっかり守り行うと、かなりの改善が見られたとのことです。

日本で行う場合と違い、特定の部屋で一人の子供にするのではなく、屋外などで一度に数人の

子供に箱庭を作ってもらった事などが取り上げられています。

子供の場合、教育や社会関係による言葉の世界の参入の度合いが低いので、イメージの展開による

自律的な改善が起きやすいのでしょう。

監修した河合俊雄氏によると、ヨーロッパでは箱庭の内容に対して、象徴的な解釈が行われる事が多いとのことですが、

本書の中では日本で行われているように、そのようなことをほとんどせずに実施し、かなりの効果を上げたとのことです。

将来、日本で震災などが起こり、多くの子供が心理的なダメージを負った場合の対応のあり方に関しても

参考になりそうな内容でした。

 

 

書籍詳細 - 危機介入の箱庭療法 - 創元社

心理療法の創始者たちが思い描いていた社会的ヴィジョン、そして彼らの熱意と理想を振り返りながら、世界中の危機的状況にあるコミュニティで深刻なトラウマを抱えた子ども...

創元社