またまた信州蕎麦放談。
ものの本によれば、全国各地の名物そばには、そのルーツが信州だといわれるものがある。
江戸時代、信州から移封になったお殿様が、そば職人を連れていってそばを打たせたとされる。
移封先は、もともと蕎麦の産地だったのであろうが、信州のそば打ちの技法が加わり、独特なスタイルに変化し根付いたようにみえる。
三つの例をみてみよう。
1.保科正之公 高遠藩から会津藩(福島県)へ
高遠城址は桜の名所として賑わうが、残念ながら天守は残っていない。
高遠そばは、焼き味噌、辛み大根、きざみネギを混ぜてそばつゆとする独特なもの。
しょうゆベースの汁に慣れていると、違和感を感じるが、これはこれでおいしいものである。
もう1点、「くるみだれ」が付き2種類の味が楽しめる。
会津若松城には立派な天守が再建されている。
会津の「高遠そば」は、何年も前、大内宿で食べたことがあるが、変わった形のそばであった。
大きな塗りの器に入ったそばを、大根おろし、削り節を薬味にして、添えられた長ネギを箸替わりして食べるのだった。
箸代わりの一本ネギも薬味としてかじりながら・・・。
2.仙谷政明公 上田藩から出石藩(兵庫県)へ
上田城跡には天守は残っておらず、隅櫓や再建された櫓門などがある。
出石では、蕎麦は白いお皿5枚に小分けされて出てくるのが特徴である。
面白いことに、この様式が上田にUターンして、「里帰りそば」として提供されていた。
コロナの影響か、残念ながら、昨年からそのお店は閉じられている。
再開を願うものの一人である。
規模は大きくはないが、美しい出石城。
新そば出ると、「出石 新そばまつり」が行われる。
今年の開催はどうなるであろうか?
3.松平直政公 松本藩から松江藩(島根県)へ
松本城、松江城のいずれも天守が現存し、人気のあるお城である。
松本城跡では大規模な「そば祭り」が行われるが、コロナ感染の拡がりで中止かもしれない。
松江城天守、ここも立派な天守が現存する。
お城の近くで入ったお蕎麦屋さん。
楕円形の三段重ねの器に入ったそばに、つゆをかけて食べる独特のもので、信州では見ない形である。
そばを前に戸惑っていると、店主が、その食べ方を細かく教えていただいた。
信州の高遠、上田、松本の各藩から藩主(保科氏、仙谷氏、松平氏)が、お国替えに際してそば職人を連れていったとされる。
きっと、お殿様もそば好きで、移封先でも「信州そば」が食べたかったのであろう。
新たな地で、その形を変えながら名物そばとして発展し、今日に続いているのは興味深い。
今もそこに行けばその蕎麦が食べられるのは、そば好きにとってはこの上もなくうれしいことである。