第9場 → カット
第10場 野獣の邸
獣達が現れる
商人; ご主人様。お邸の、ご主人様。
野獣の声が響く。
野獣の声; 姿を現さない失礼を、どうか許して欲しい。あなたが娘だろうか。
ベル; 私に話しかけているなら、そうです。
野獣の声; 名はなんと。
ベル; 名前を尋ねるなら、ご自分かた名乗るのが礼儀です。
野獣の声; 私は・・・今は、名前がない。
ベル; 名乗る気がないとおっしゃるのですか。
野獣の声; そうではない。
ベル; みな、ベルと呼びます。
野獣の声; ベル。あなたは本当に、喜んでここへ来たのだろうか。
ベル; ええ。
野獣の声; 心から、お礼を述べたい。ありがとう。二人とも疲れているに違いない。
ゆっくり休んで欲しい。
獣達、商人とベルを囲んで隠す。
獣達; ♪ 眠れないと思った二人は床につくなり寝付いた
すると清き仙女が・・・・♪
清き仙女が現れる。
清き仙女; お父様の為、ここへ来るなんて、あなたは優しく親孝行な人ですね。
いつか必ず、報われる時が来ますよ。 (消える)
獣達; ♪ ベルは夢から覚める あたりはまだ暗い ♪
ベル、現れる。獣達、去る。音楽、止まる。
ベル; 優しい・・親孝行・・違う。私は怖い。食べられたくない。すぐにも逃げ出したい。
本当の私は、私しかしらない。
♪ 本当の私は 何も決められないだけ
見知らぬ世界に憧れ 本を読んではため息をつく
でも本を閉じれば わからないことだらけ
恋も 結婚も 先の事も 自分では何一つ決められない
夜中に幾度 泣いたか 私はずるいだけ どうしてここに来たのか
夢中だった お父様を何とか救いたくて ♪
喜んでここへ来たですって?そんなの嘘・・・
♪ 私は浅はかなだけ 野獣に食べられてもっともなほど ♪
獣達、泣き伏すベルを遠巻きに見守る。鹿が出てきてソロ。銀橋をゆく。
虎 ♪ ベルの部屋から低く 静かな泣き声が 父親を起こさぬよう
決して悟られぬよう声を殺した泣き声 けれど
私達には聞こえていた みな黙って聞いていた
人として生きたころ あのように泣く日もあった ♪
獣達; ♪ バラの国はどこへ いつの日に帰るか 庭にバラは咲いても
うるわしの国は見えない 遠ざかる記憶に追いすがるのみ ♪
虎; ♪ ベルの部屋からずっと ♪
虎;獣達; ♪ 止まらぬ泣き声が ♪
虎; ♪ 今夜はどうする事も出来ないけれど 泣かないで ♪
獣達; ♪ 泣かないで ♪
虎・獣達; ♪ 泣かないで ♪
暗転。
↓
第9場 ベルの部屋
下手側に向かってベルの部屋。ベッドとテーブル。上手側にドア。ドアの前で
様子を伺う野獣。そっと離れようとするが獣達に無言でおしきられ、仕方なくドアの
前に立ち尽くす。
ベル; 暗くて怖い部屋。誰もいないのね。あの虎はまだ見張っているの?
ベル、ドアの前で耳をすます。同じポーズの野獣。
ベル; お父様もお姉様達ももう家に着いたかしら。きっと私の事を心配しているに
違いないわ。ああ、会いたい。お父様。
♪ 本当の私は 臆病な娘よ
見知らぬ世界に憧れ 夢見ては冒険をする
でもそれは本の中だけ 現実の私は
平凡で つまらない おとぎ話の英雄にはなれない
本当は怖いの 身を切られる程 誰か助け出して欲しい 今すぐに ♪
お姉様のおっしゃる通り、私はいい子ぶりっこなのかも。
♪ 本当の私は 偽善者なだけ 今夜の私は最低の私 ♪
野獣; (独り言)偽善者だ?臆病だ?たった一人でこの邸に残る勇気を持った
潔い、親孝行な娘なのに?なぜああも自分を卑下する?さっぱりわからん。
立ち去ろうとした処に虎が現れる。
野獣; わかったよ。見守ればいいんだろう・・・
獣達、泣き伏すベルを遠巻きに見守る。鹿が出てきてソロ。銀橋をゆく。野獣は
そっと部屋に入り、部屋中にバラの花びらを散らせる。
虎 ♪ ベルの部屋から響く 小さな泣き声が 誰かに聞かれぬよう
決して悟られぬよう声を殺した けれど
私達には聞こえていた みなうなだれて聞くばかり
人として生きたころ あのように泣く日もあった ♪
野獣; ♪ バラの国は消えた もう二度と戻らない 輝かしい日々よ
せめて今は眠れ 花びらの中で 優しい夢を ♪
虎; ♪ ベルの部屋からずっと ♪
虎;獣達; ♪ 止まらぬ泣き声が ♪
虎; ♪ 今夜はどうする事も出来ないけれど 泣かないで ♪
獣達;♪ 泣かないで ♪
虎・獣達; ♪ 泣かないで ♪
清き精霊が現れる。
清き精霊; 勇気ある美しい娘よ、これからの日々に平和と喜びが訪れますように。
暗転。
バラを育てることは命を育てることで、大切なバラを手折られたことを悲しんだ野獣。
バラの花びらを散らすことは命散らすことにはならないのですか?
そこで、私の脚本では「バラ」=「母の形見」
としました。これを育てる事は母との思い出に浸ることです。
商人がバラを摘んだ時「私のバラを手折った」と怒ります。自分のものを他人がどうのこうのするのが嫌だっただけです。
でも野獣は泣き伏すベルの為に自らバラの花びらを散らします。これは一種の心の成長を表現しています。「思いやり」の心を野獣は持ったという事です。
それなら納得です。
丁寧なご回答ありがとうございました♪
こちらこそ。読んで下さってありがとうございます♪最後までお付き合い下さいね。