10月にやってきたのは、またまたイザベルの友人で東京在住のベルニからの紹介のカップルだった。
よく来日前に「フランスからのお土産で何をもっていったらいい?」と聞かれる。
この人たちもそうだった。「フランスのもので、あなたを喜ばすものを教えて」と書かれていた。
チョコレートが大好きだけれど、そんなことはもちろん書かない。
「あなたがたに会えることが一番のお土産」と返事をする。これは本心である。
チョコレートよりもワインよりも一番大切に思うことである。
彼らは奈良に着く前、広島観光を終えて、京都から電話をかけてきた。
「私たちは二人ともtout petit(トゥ・プチ、とても小さいの)」と会ったときすぐわかるように、どんな色の服を着ていると言った後に付け加えた。
だいたい、会えばすぐわかる。フランス人は表情豊かである。
ちょっと心配そうにしている人やら、好奇心いっぱいにきょろきょろしている人、はにかんだ感じでにやりと笑う人、などなど。
この二人、電話で言っていたように、とても小さいカップルだ。たぶん160cmあるかないか・・・。
奥さんはカトリーヌ、ご主人はリシャール(英語ではリチャード、綴りは同じである)。
お土産はこれなのと差し出した。
「おばあちゃんが使っていた」というレースのナフキン、もちろん手編みなんだそう。
こういう大切なものをいただくと、ぐっと距離を近くに感じる。
「日本料理は好き?」と尋ねたら、「それが、箱根でも宮島でも旅館の食事が食べられなかった」と言う。
しゃぶしゃぶを用意していたが、彼らの心配は杞憂に終わった。
「おいしい。ソースがおいしい」と嬉しそうに箸を進める。
そしてたまたまお値打ちになっていたので買っていた赤ワインを出した。
ラベルの銘柄を見て、リシャールが言った。
「これは1994年のボルドー、何でこれが日本にあるんだ?」と、びっくりし、ラベルの写真まで撮った。
デパートで2000円くらいで買ったのだが、店員さんは「5000円以上はするものなので、フランス人には喜ばれる」ということだった。
リシャールはワインに目がなく、シャンパーニュの別荘にはワインカーブを持ち、週末訪れたときに「今夜はどれを開けよう」と考えるときが
至福の瞬間だと言う。
ああ、偶然とはいえ、こんなに値打ちの分かる人に出してよかったと思ったのは言うまでもない。
私には豚に真珠で、「ただおいしいワイン」くらいしかわからなかったろう。
しかしフランス人の感覚では、こんなワインは特別な時に飲むようで、普段はこだわりのある人でも安価なものを飲んでいることもわかった。
日本人のワイン通の人のほうが、よっぽど毎晩贅沢をしているのではないだろうか。
つまり、彼らは私が「特別なお客様」のように扱ったと感じたのかもしれない。
同行なしのカップルではあったものの、翌日の奈良観光についていきたい気持ちにさせられたが、仕事の都合がつかず残念に思えた。
そのぶん、食事の後、奈良の見どころを面白おかしく説明し、カトリーヌは大喜びで、「帰国したらこの話を孫にするわ」と言っていた。
翌日は、また夕食のテーブルを囲み、楽しいひと時が待っていた。
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