クリスチャンはお昼過ぎに奈良に到着した。
ちょうど国立奈良博物館での正倉院展の時期で、正倉院の建物自体もこの時期は見られるので、まずはそちらに向かった。
その後、奈良に来るたび試みることが恒例となっている、東大寺大仏殿の柱くぐりに挑戦した。しかし春に続き、今回も一回り大きくなった?体型のせいで、通り抜けることはできなかった。
それでもチャレンジすることが楽しいようである。
夕方になってきて正倉院展も待ち時間が少なくなっていて、しかも割引料金で見ることができた。
正倉院展に同行するのは、スカフに続き二人目である。
その年の展示の目玉は「五弦の琵琶」だったが、音楽教師のクリスチャンにはぴったりだった。
宝物を見ながら「これはペルシアの文様のようで、見たことがある文様だ」というので、「シルクロードで伝わったものが多くあるよ」というと、とても興味深く見入っていた。
こうして四回目の奈良も新しい発見ができたようだ。
翌日はハイキングに出かけた。
浄瑠璃寺から岩船寺までのコースだ。
前には「山の辺の道」をフランス人と歩いたことがある。またジャンルイさんやドイツ人の友人とは「滝坂の道」を歩いた。
どちらのお寺もいいお寺だが、彼の心をつかんだのは、二つのお寺の間にある石仏だった。
「素晴らしい」と、「なぜこんな石仏があることをガイドブックには書いてないのか」と言い、帰ったら「おすすめコースとして投稿したい」と言っていた。
フランス人は深い心でものを見たり、私たちが気付かないことに美や価値を見出したりして、いつも感心させられるのである。
「春にも来るよ。もう日本は、日本食、特に魚は僕にはなくてはならないもの」と言って帰って行った。
残念ながら、東日本大震災のため叶うことはなく、その年の秋、今年の春も待っていたが、なかなか実現しない。
と思っていたら、何と夏には新しい彼女とバカンスに行ったと知らせてきた。しかもそれはもうロマンチックなミニ映画に編集して送ってきたのだった。
前の彼女のアルジョナは、震災の時も安否のメールをくれたし、とてもいい子だったので、少し複雑な気がしないでもない。
また彼は新しい彼女を連れて来日するかもしれない。たぶんその彼女も魅力的な人なのだろうが、まだ複雑な思いはぬぐいきれないままだ。