京都・環境ウォッチ

いま京都で起こっている環境問題、自然環境の変化などにかかわって、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

地球温暖化防止へ向けた本格的な日本改革ー⑮

2009年12月10日 | 地球温暖化
「地域と人権京都」に連載してきた最後のものです。
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「地球温暖化防止へ向けた本格的な日本改革」-⑮        
2010年、劇的変化のはじまりの年に
                                     09.12.04
北山の自然と文化をまもる会代表幹事
地球温暖化防止京都ネットワーク代表委員
榊原義道

市民が進める温暖化防止2009

11月28、29の両日、同志社大学で、気候ネットワーク恒例のシンポジウムが開かれた。気候ネットワークの浅岡美恵代表が「毎年取り組んできたが、今年は最も高度な会議となった」と開会挨拶で述べたとおり、会議では、COP15直前の情勢から「低炭素社会と経済問題」「国内排出量取引制度」や「森林問題」など最新のテーマが報告され、濃密な議論が行われた。
 詳細は、シンポジウムの資料集や今後の気候ネットのホームページを参照していただきたいが、少し違った立場から、変化の一断面を示した今回の取り組みについて述べてみたい。
 シンポの1日目、民主党の福山哲郎参議院議員が外務省副大臣として登場、質問なしの報告を行った。福山氏は、「(鳩山首相の25%発言によって)日本がプレイヤーとして(温暖化問題に)しっかり参加することになり」「半年前と温暖化をめぐる景色が変わった」、取り組みが「遅いといえば遅い」が「国民の負担36万円説は崩れ」、企業の中でも温暖化対策が公然と話せるようになったことや、日経BP社主催のエネルギーに関する企画に300社も集まるなど状況が変わった、途上国支援については「財政的余裕があるかどうか、難しい話」などと発言した。
帰り際に浅岡代表から、「政府は、もっと頑張ってほしい」と“激励”があった。福山氏は「頑張っていることを評価してほしい」。浅岡氏は「評価はしているが、頑張ってほしい」と、双方引かずのやり取りだったが、この場面、ある意味、日本政府の置かれている状況を反映していた。
旧自公政権の体たらくはもちろん問題外で、鳩山政権が新プレイヤーとして世界の場に登場したのは確かだが、現状に満足できるか?情勢との関わりで十分か?率直に言って、NGO側からこうした思いが出されて当然の状況が、日本政府の側にあるのは確かで、二日間はそれを浮き彫りにした。

前に進む東京都、煮え切らない環境省

2日目、「低炭素時代の環境経済と企業戦略」分科会が開かれた。この分科会では京都大学経済研究所の一方井誠治氏が基調講演を行い、気候ネットワーク東京事務所の平田仁子氏が「地球温暖化対策税と国内排出量取引制度の提案」について、WWFの提案概要を京都大学の諸富徹氏が報告、その後、環境省の地球環境局地球温暖化対策課市場メカニズム室長と東京都環境局理事、諸富氏、浅岡代表の白熱した討論が行われた。
この中で、温暖化対策への実践的な踏み込みを感じさせたのは東京都で、日本の温暖化防止対策をリードすべき環境省は、踏み込み不足が目立った。
東京都は、すでに2020年の削減目標-マイナス25%を決定し、それをやりあげるための実践を、この間進めてきた。企業の「自主計画」の推進やその「評価づけ」を行ってきたが、これだけでは、「とてもじゃないが、2020年のマイナス25%は達成できない」ことが明らかになった。そこで、削減目標達成のため、「何よりも排出総量が削減されなければならず、その確実な実現をめざす基幹的な施策として、総量削減義務制度を導入」「義務違反には、罰則や課徴金など制度の実効性を確保する措置」が必要であり、一方で、その回避のため、目標未達成の部分を他の目標超過達成企業から買い上げできる制度作りを決断、その「キャップ&トレード制度」は、来年から東京都で始まることになっている。さらにこれを、首都圏に広げる議論も始まっている。
東京都は、この実践を踏まえて、国と全国の自治体に対し「キャップ&トレードの全国導入についての提言-東京における実績を踏まえて」を発表し(09年11月27日)、この動きをさらに促進させようとしている。
これは<国家キャップ&トレード制度>と<地域キャップ&トレード制度>の二つを柱にし、<国家制度>は、直接排出方式で算定し、年間CO2排出量が10万トン以上の大規模な排出事業所(発電所や製鉄所などの大規模工場が中心で、全国約500事業所)が、排出総量に関する義務的削減目標とそれを確実に達成する仕組みを持つものだ。(地域制度は略)

直接排出方式で算定を

この「直接排出にもとづく算定」について、今回、“剥いた議論”が展開された。環境省の担当者は、「電力について『直接排出』で算定するか、『間接排出』で行うか、省内でも議論がある。結局、経済界に受け入れられるか否か」と発言、他の報告者から、なぜ直接排出で算定し、大量排出源での削減に踏み切らないかなど、次々と疑問の声が出された。
参加していた企業関係者の中からも「直接排出で算定してもらって、価格とエネルギー単価に転嫁してもらった方がいい」との声が公然と出された。1日目のパネルディスカッションで、植田和弘京都大学教授が「“産業界”という言い方は、問題ですね」と語っていたが、これはシンポジウムの中でも浮き彫りになった。
日本の現実は、産業界全体がこぞって温暖化対策に反対しているわけではなく、抵抗勢力は、日本政府がいまだにきっぱりとした対応が取れない電力産業などが目立ってきている。29日の分科会は、キャップ&トレード制度が「初めて公開で議論された」会議だったそうで、これには少しびっくりしてしまったが、その意味は、制度の一般的説明が初めてなされたなどということでなく、その進展を何が阻んでいるかが公然と議論されたという意味だ。これが公然と明らかにされたということは、もうこの流れは止まらないことを意味している。2010年、抵抗があっても、この流れは大きく促進されざるをえないだろう。やはり、合理的なことは現実に転化せざるをえない。

*09年1月から始まった連載が今回で十五回、当初の連載の組み立ては、今年、私が身近な所で体験し、感じたことを通じて、2009年の温暖化情勢と日本の改革をいっしょに考えるものに変わりました。とりあえず、今回で連載は終わります。読んでいただいた皆さん、ありがとうございました。
コメント
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