上海の動き
ほとんど決壊した堤防に、大量の土嚢が投げ込まれる
こんな姿に見える。
以下、7月28日のフィナンシャルタイムズの社説です。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「中国政府、株価は市場に任せよ(社説)」
2015/7/28 15:00
年々続いた力強く安定的な成長が中国の支配者たちに万能のオーラを吹き込んできた。だがそうしたオーラを維持するには代償が伴う。中国政府が株価下落を食い止めるために市場に介入してから3週間たったが、上海総合指数が8年ぶりに1日当たり最大の下落率を記録し、株価が再び暴落し始めた。中国政府はいま、憂鬱な選択に直面している。ここからさらに市場を下支えして深みにはまるのか、それとも不死身の仮面がはがれ落ちるのに任せるかだ。
これは彼らにとってこれまで直面する必要のなかったジレンマだ。中国の支配者たちは株価の動向に対する責任をとることなく、自分たちで有り余るほどのやるべきことを抱えていた。借り入れや不動産投資に過度に依存してきた中国経済は転換のまっただ中にある。サービス産業や家計部門支出は、需要をけん引するため、これまで以上の負担を背負う必要がある。
株価の上昇がいかに経済計画の一端を担っているかを論証することはできる。国有企業は自己資本を一層拡充させ、債務を減らす必要があるが、ぜいたくに評価された株式市場はその上昇に寄与することができる。そして幸運にも株式を保有する世帯は、株価上昇によって保有財産を増やし、それを支出しようという意欲を高める。また、株価が上昇すれば、習近平国家主席が国家による株価買い支えからの遅れた転換を合図するのに使った「市場に対する決定的な役割」という発言を宣伝することさえできる。
だが実態は逆に近い。株式市場は、消費拡大に力を与えるどころか、国が保証する利益を熱狂的に追い求める世帯の財布から資金を引き出す手段として機能した。
■国家の思いつきが決定する市場価格
さらに悪いことに、株式市場の動きは中国の支配者がそのコントロールを市場原理に譲るだろうという思惑を打ち消してしまった。政府が株価上昇に与えた明らかな恩恵や、株価の下限を設ける取り組みなどは、客観的な経済的要因よりも国家の思いつきによって市場価格が決定されることを示唆している。中国政府は、中国証券協会を通して、上海総合指数で4500を目標数値にするとさえ示唆しているようにみえた。
市場の下落を食い止めようとしてみたものの、もし中国政府が手を引いたら、そこには支払うべき代償があるだろう。複数の推計値によると、3兆5000億元(5640億ドル)以上もの借り入れが株式の投機と関連しているという。27日のような日が数日続けば、家計部門の資金繰りに打撃を与え、経済への大きな痛手となり得る。
とはいえ、最も大きな痛手は心理的なものだ。中国政府は、長きにわたって狙い通りに経済を誘導することができたが、自らの力の明らかな限界を認めざるを得なくなるだろう。景気が既に減速している中で、これは経済の信頼感に深刻な打撃を与える可能性がある。
それでもなお、中国政府はそれを認めなければならない。当局が株価安定のためにどれほどの株式を買い支えなければならないか、前もって言い当てることはできない。投資家の信頼は全面的に国による株価下支えを前提にしており、政府が買い支えをやめればその信頼はすぐに消えてなくなる。当面、市場がその場しのぎの介入という危機に長くさらされればさらされるほど、市場原理に基づいた金融市場への転換という計画がさらに後退することになる。株取引に関する規制が既に海外投資家をいらだたせており、それにより通貨元を国際的な準備通貨にしようという取り組みも損なわれている。
市場原理にコントロールを委譲することは、共産党が気に入らないだけでなく、中国政治にいまだに響き渡る干渉主義にも反する。だが、ある著名投資家の言葉によると、株式市場がより強固になるためには「数週間にわたって怖い思いをする必要がある」という。仮に株価が低迷し、消費者心理に打撃を与えたとしても、中国は株価を買い支える以外に需要を喚起するほかの手がある。もし中国の支配者が賢明ならば、投資家はこれからもっと落ち着かない数週間を迎えることになるだろう。
(2015年7月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)