ねっとわーく京都の1月号に書いたものです。
紙面の都合で少し削りました。
・・・・・・・・・・・・・・・
「ナラ枯れ6年の吉田山」
これまで何度かここで「ナラ枯れ」について書かせてもらってきた。今、全国的な被害は30都府県へと拡大し、京都でも新たな地域に広がっている。今年、五山の送り火は、原発事故に絡む話題で全国的な注目を浴びてしまったが、昨年のような送り火の縮小は話題に上らなかった。私が通い続けている吉田山では、今年、枯死木が大幅に減少した。明らかにここでのナラ枯れのピークは過ぎたかに見えるのだが・・・。吉田山の今を報告する。
2011年ナラ枯れ「枯死木」はぐっと減少
今年、吉田山のナラ枯れ・枯死木は見た目にも減った。西斜面を中心に見られるが、現状は昨年までのような大量枯死が問題になる状況ではない。ただ、森の中でのカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)の活動は続いている。
吉田山でははかなりの木が伐倒処理され、あちこちで風景が変化した。急に日当たりが良くなった所では、稚樹や草たちがグッとその勢いを増した。林に入ると、風で倒された枯死木がそのまま残っているところもあり、少し荒れぎみだ。
今年の被害木は調査中だが現段階では177本、うち枯死木は20本となっている。被害木の数はまだ増えるだろう。
2010年枯死木が大幅増-被害木のピークは09年?
09年・10年と吉田山の被害木・枯死木は大きく増加した。正確に言うと、コナラ被害木のピークは09年。しかしコナラの枯死のピークは、被害木が減ったにもかかわらず2010年が最大になってしまった。これには理由がある。
吉田山の被害木全体のピークは、多分2009年になるのだろう。ただ、これはまだ確定的ではない。吉田山での観察から、被害木は年を経るごとにその数や樹種が変化してきていることがわかってきた。コナラはピークを過ぎたが、アラカシやシイの被害木は増えてきており、そのピークは、コナラとはずれている。今年の調査がまとまるとかなり明確になるだろうが、どうもカシナガのアタック(侵入)する樹種は、この6年間、吉田山では「移動」してきている。これは「ナラ枯れの異常な拡大」を考える上で大事なヒントとなる。
コナラ被害木は、09年に400本、10年に293本と減り始め、今年は56本(現在の調査段階での数字)と大幅に減っている。数字はまだ確定的ではないが、この傾向は間違いない。6年間、吉田山を歩き続けてきたのでよくわかるが、今年、吉田山には、もうカシナガが新たに攻撃を加えたくなるような、未侵入のコナラが少なくなってしまったのだ。これが、今年、吉田山のナラ枯れ・枯死木が大幅に減った最大の要因だろう。
以前に少しだけデータで示したが(06年アタック木へのカシナガの翌年のアタック状況)、その後の観察の中でも、一度カシナガのアタックを受けたコナラは、翌年以降、全体的にみるとアタックを受けにくい。ただし、アタックを全く受けないのではなく、200程の穴を開けられたものもあるし、再アタックで枯れたコナラも一本あった。しかし、全体的にはアタックがほんの少しだったり、全く行われなかったり、途中で止まったりして、総体的には、一度カシナガのアタックを受けたコナラは、この6年間の観察では、やはりアタックを受けにくい状況が見られる。
この6年、吉田山のナラ枯れ枯死木の95%はコナラだった。
06年から10年まで、吉田山では180本ほどの樹木が枯死(ナラ枯れに関わって)したが、そのうちの172本はコナラだった。吉田山では、アラカシやシイは明らかに枯れにくかった。今後、これがどう推移するかわからないが-コナラにより集中していたカシナガが、アラカシやシイに向かって大規模な波状攻撃を繰り返すか、他の地域に引っ張られ被害が減少するか?いずれにしろ、カシナガ好みの未侵入のコナラがほとんど無くなり、2011年、吉田山のコナラの枯死は大幅に減少、その結果、私たちは今年、枯れ木の少ない吉田山を見ることができている。もちろん、一度はカシナガ・アタックを受けたコナラが、爪楊枝をまといながら沢山生き残っていることも知っておいていただきたい。
10年の大量枯死はなぜ?
これまで「爪楊枝打ち込みによるナラ枯れ被害防止効果は明らか」と何度か紹介してきた。08年には、
爪楊枝打ち込みの作業がほとんどされなかった北白川瓜生山と、作業を続けてきた吉田山を比べてコナラの枯死率が10倍も違うことを明らかにしてきた。
*06年から08年にかけて、両地域では同時期にナラ枯れが発生した。それぞれの地域で、3年間で被害を受けたコナラがどれだけ枯死したかを調査し比べてみた。その結果、爪楊枝打ち込みの作業がほとんど行われなかった北白川瓜生山での枯死率は34.0%、一方、吉田山は3,9%となり、爪楊枝打ち込み効果が確認された。
09年はそれまでの経緯の中で被害木が前年の4倍化、400本以上のなることが予想されたので、作業量を増やそうと考えボランティアも積極的にお願いして臨んだ。とにかく、全ての被害木を発見すること、そして少なくても一度は爪楊枝打ち込みが行われることを目標にした。“早期発見”は望めそうになかった。
その結果、被害木は予想通り4倍化(コナラ、アラカシ、シイで475本)し、コナラ39本が枯死してしまった。反省点は、残念ながら被害木の急速な拡大に作業量が追いつかなかったこと、カシナガのアタックが活発な7.8月に力を特に集中することが十分できなかったことで、それは「被害発見時にすでに枯死」というケースがあちこちで現われたことに示された。
09年の月別枯死数を下記に示すが、これを見たら枯死が7.8月に集中していることがわかる。そして、コナラ枯死木で「発見時にはすでに枯死」していたものが29本、それは枯死木全体の74%だった。この年、なるべく早い段階で被害を発見し爪楊枝を打ち込むことが出来たコナラは340本、うち枯死したものは10本だけだった。逆に、発見時にすでにコナラが枯れていたり、計測だけで打ち込む時間がとれなかったコナラは合計60本、ここで29本が枯れている。(表2参照)
09年、枯死木が増えたが、全く放置された所と比較すればコナラの枯死率9.7%は「爪楊枝打ち込み効果」だった。打ち込まれた木とそうでない木の比較でもそれは示された。枯れたコナラも、早期にカシナガ・アタックを発見し処置すれば相当数のコナラは生き残っただろう。
表2: 2009年 月別のコナラ枯死数
打ち込みなし 打ち込み有り 月別合計
6月 0 1 1
7月 9 4 13
8月 9 0 9
9月 5 5 10
10月 4 0 4
その後 2 0 2
合計 29 10 39
2010年は、仕事の関係で7月の作業時間が十分に取れなくなり、全体的にも爪楊枝打ち込み時間が不足し、「発見時にはすでに枯死」のコナラが続出した。数字はまだ確定のものではないが、コナラの被害木293本に対して、枯死木128本、うち「発見時にはすでに枯死」の数が110本、枯死木全体の85%をしめている。全体で、打ち込みが出来なかったコナラ(枯死木、生被害木合わせて)は50%を超え、これが2010年、コナラの被害木は減ったが枯死木増の原因になった。
京都市長は、ナラ枯れ現場の声を聞け
11月17日、京都市はナラ枯れ対策を官民が協力して行うことをめざした「京都みどりプロジェクト」を発表した。枯死木の伐採費用をまかなうための資金集めのプロジェクトだ。
京都を囲む三山に市民や企業の関心が高まることは望ましいことだ。ただ、現在の事態を踏まえたら、もっと突っ込んだ真剣な取り組みが京都市には求められるのではないか。第一は、ナラ枯れの現状を市民にもっと知らせることだ。京都の景観や治水、環境を考えても、その森の主要な樹種のひとつコナラが40%も枯れている。三山は、今起きている環境の悪化を知るための重要な“現場”となっている。私たち市民団体も協力を惜しまないと宣言しているが、環境首都をめざす京都市にしては鈍感だ。第二に、伐倒処理についても、採算がとれない伐倒処理費用の問題や伐倒処理の技量を持った作業者の絶対的不足が指摘されてきた。森林の伐採は、平地の作業でなく地形や樹木の形に対応した人間の技量が強く求められる作業だ。伐倒作業の現場でも、そうした技量をもった人が「あの人で最後」、という話をよく聞いた。ナラ枯れも、枯れ木処理の現場も大変な事態となっており、“現場主義”を言うなら、市長は現場におもむき、こうした声に直接耳を傾けるべきだ。私も以前、森に入って「爪楊枝を打ってほしい」とお願いしたが、これは皮肉ではなく、京都三山で実際に起きているカシナガの脅威を自らの感性で、まず感じてほしいと思ったからだ。
私は、京都市三山で人が入りやすい森では、爪楊枝の打ち込みは、伐倒費用より費用対効果が高く若干の雇用も生まれると提案してきた。京都市は、企業などに「寄付金付き商品の販売」を求めていくなら、そのお金は効果がある使い方をしてほしいし、もっと突っ込んで伐倒処理ができる技量をもった若者の育成などにも回してほしい。
榊原義道(北山の自然と文化をまもる会代表幹事)