7月に立命館大学で話してきました。
1時間半の報告でしたが、
学生の皆さん、結構関心を持って聞いてくれました。
以下が、その報告です。
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爪楊枝を使った「ナラ枯れ」防止の自然学
-吉田山での爪楊枝を使ったナラ枯れ被害防止活動から-
10712 於:立命館大学 榊原義道
1、いま、京都の森で、“ドングリの木”が枯れているーナラ枯れー写真
〇「ナラ枯れ」が止まらない
ナラ枯れ・・・ドングリのなる木(ブナを除く、ブナ科の全て)が全国的に枯れ続けている
原因は、「カシノナガキクイムシ」(キクイムシの仲間)という南方系の昆虫(資料2)
〇京都では、1991年、京都府北部の大江山で「ナラ枯れ」が発生以降、枯死が広がり続けている
〇全国では
・以前は、散発的に発生したが、数年で収束。今回は、以前のように数年で収束せず。
全国的規模で被害地が拡大し続けている-新たな特徴
「1980年代までの間、散発的に山形、新潟、福井、滋賀、兵庫、耕地、宮崎、鹿児島の各県で被害が報告されている。この頃の被害は比較的短期間で終息することが多く、また地域的にも現在のように広域への拡大が生じることはなかった。現在のような被害の拡大が継続するようになったのは、1980年代末以降のことである」
(「ナラ枯れの被害をどう減らすか」-森林総合研究所関西支所)
・1990年前後から、新潟県や山形県、福井県、滋賀県北部、京都府北部などでミズナラやコナラの集団的枯死が目立つようになった。
・現在の全国的なナラ枯れ被害
09年には26府県に及び、発生地域は広がっている・・・(資料1)
宮城、秋田、山形、福島、新潟、富山、石川、福井、長野、愛知、岐阜、三重、滋賀、京都、大阪、奈良、和歌山、兵庫、鳥取、島根、岡山、広島、山口、高知、宮崎、鹿児島
(ただし、高知県は1950年代の報告)
(三重、奈良、和歌山では1999年に発生したが、04年以降は枯死木の発生はあまり見られない。一方、06年には秋田県と愛知県でナラ枯れが確認され、広島、山口で穿孔-08年「ナラ枯れと里山の健康」)
〇「ミズナラで80%が枯死、コナラで50%が枯死」という報告も
日本の森で広がる「ナラ枯れ」の広がり
“新型インフルエンザ”の予測をはるかに超える広がり
新型インフルエンザ-「予想」は、総人口の25%が罹患、0.5%が死亡
北白川瓜生山での枯死木調査から・・・・226本中、合計84本が枯死(37,1%)
-09年5月16日調査
2、「ナラ枯れ」とは何か
〇ドングリの木に、「カシノナガキクイムシ」(資料2)という5ミリ程の昆虫(キクイムシの仲間)が侵入。樹木の中で孔道を広げ、生活する。この過程で、樹木が枯れる。カシナガが運ぶ「『ナラ菌』による病気」と言われている-虫の実物示す。侵入したアラカシ示す
〇カシノナガキクイムシの被害を受ける樹種(ブナ属を除く日本のブナ科の全て)
ブナ科 コナラ属 コナラ亜属 ウメバガシ節 ウメバガシ(常緑)
(落葉) クヌギ節 クヌギ アベマキ
コナラ節 カシワ ミズナラ コナラ
アカガシ亜属 イチイガシ アカガシ アラカシ
(常緑) ウラジロガシ シラカシ
クリ属 (落葉) クリ
シイ属 (常緑) スダジイ ツブラジイ
マテバシイ属(常緑) マテバシイ
*樹種により、カシナガの利用方法が異なる-コナラは辺材を利用。アラカシは心材を利用
〇「ナラ枯れ」とカシノナガキクイムシの生活史(資料3)
「養菌性昆虫」(アンブロシアビートル)-カシやナラの樹木に、「ナラ菌」を植え付け、
それを育てながら生活する
カシナガの一年
・吉田山では、コナラやアラカシなどに6月中下旬から穿孔
・その後、大量に孔をあける-「マスアタック」
7月~9月に特に多い。以後も、アタックが続く(初冬まで)
一本の木で、百数十から五百箇所以上のアタック(根元を含めればさらに多い)
・越冬し、翌年の6月に大量に飛散
カシナガの結婚
・雄が穿孔(繊維状のフラスを出す)→その後、フラスは、球形のものに変わる。やがて、粉末状のものに変わる。
・交尾→数日後に産卵開始→孔道を広げながら幼虫を育てる(孔道は、住居であり畑)
・終齢幼虫は、垂直方向に個室(繭室)を形成→翌年に孔から脱出
・一つの孔で、平均70~80匹、多いものは700匹が脱出
〇なぜ、枯れるか?
「菌や傷害に対する防御反応で生成した物質が、道菅内に放出され蓄積されると道菅は目詰まりをおこし、樹液は流れなくなる」「あちこちに孔が空いた状態になればそれだけで樹液流動がとまる部位もある」(ナラ枯れと里山の健康)
ニレ立ち枯れ病「水を運ぶ菅をブロックして上にある葉をしおれさせる。菌糸が木部を進んでいくと、空気が吸い込まれ、菅の動きが止められてしまう。残って機能している部分も菌糸で急速にブロックされ、それにそって胞子が広がり、穿孔板に堆積する。それはゴミが鉄格子にひっかかって水が流れなくなった排水路のようなものだ・・・」(樹木学-ピータートーマス)
1960年代にイギリスで猛威を奮い、3000万本中、2500万本が犠牲になった。(1920年代から40年代は穏やかだったが・・・)
3、市民団体によるナラ枯れ防止の取り組み
〇1991年 大江山での発生(原因がわからなかった)
〇京都市右京区京北町男鹿峠での現地調査
・京都府の防除方針は「枯死木の伐採」のみ。「生被害木(カシナガが侵入しているが、生きている木)では虫が死ぬ。中から虫は出ないので、これは切るべきではない」-現場で確認しても、事実と違う。
〇京都大学芦生演習林での被害について-巨木が次々と枯れる
〇京都市東山区東山高台寺国有林での被害発生への対応
・ 被害木の伐採を→多くなりすぎて、全木伐採は景観保全上も出来ない(国)→生被害木を放置していては、被害を抑えられない→爪楊枝と同じ太さの孔(以前にも孔の確認に使用されていた)。これを孔に詰めて、取り組んでみよう。「面白そう」→12月に、第一回「京都のナラ枯れを考える市民の集い」開く。東山の市民団体にも呼びかけ、現地調査。翌年から、東山“カシナガ駆除活動”を始める→ボランティア参加も呼びかけ(以後、06年、07年、08年、09年と続けてきた)
・ 枯死木が想定数との関係で、大きく減少した―求められるデータ
4、吉田山での検証する-「爪楊枝打ち込みでナラ枯れを防止する」
-吉田山での06年、07年、08年、09年の活動-
①、調査の方法
作業を行いながら、カシナガの侵入穴(見つかるもの)全てを、爪楊枝でふさぐ
<データの蓄積>
被害木の位置を地図に記入する
被害木の胸高幹周を測定する
被害木の樹種と「爪楊枝打ち込み数」を行動日とともに記入
孔の状態、発生しているフラスの状態を記録する
*07年は、アタック開始後、二日に一回、全ての被害木を観察、爪楊枝を打ち込み、記録した
②、それまで、わからなかったこと、科学的に検証されていなかったことは多い
・爪楊枝を打ち込んで「効果」があるのか?
・虫(カシナガ)は、どのように飛んでくるのか?
「明るい所が好き」とも言われる。道路わきに被害木が多いが、なぜ?
・「老齢加熟木(太い木)を好む」というが、本当か?
・「カシナガが入らない木は、遺伝的に異なるのでは」と言われるが、本当か?
・「前年にカシナガの侵入を受けた木は、翌年侵入しない」と言われるが本当か?
*カシナガのアタックを観察し続ける(爪楊枝を打ち込み続ける)ことを通じて、物を見続ける
“行”のよう
カシナガの“カオス”のような行動(飛翔)を、「アタック」を通じて観察できる
5、06年、07年の取り組みから
「吉田山での2年目のナラ枯れ被害の拡散と爪楊枝を使ったカシナガ駆除活動」
(ブログ:「京都・環境ウォッチ」参照)
〇2006年に吉田山でナラ枯れ被害発生-被害木8本(枯死木1本)
〇07年の取り組み
・5月から観察-6月末からアタック開始。作業と観察は、6月30日から12月27日まで、全ての被害木に対し、2日に一回打ち込み。記録する
記録用地図と書き込み表を示す
・範囲-今出川通、南は吉田神社、東西は吉田神楽岡町と吉田上大路町の住宅地で囲まれた林域
〇07年のナラ枯れ被害木の広がり(図1,2,3)
尾根の一本のコナラから発生-5月27日、06年被害木のコナラ(S0)に新たな穿孔
6月16日に行った「吉田山ナラ枯れウォッチング」でも新しい穴3個
6月30日、コナラ(S0)にカシナガの穿孔が見つかり、吉田山での集中的なアタック開始
7月には、(S0)の周辺や南部の06年被害区域付近で新たに被害が発生
8月にはさらにその周辺にアタックが拡大
10月以降、大量の穿孔は収束
12月4日、07年の最終の小規模なアタックが東北部で確認
・カシナガによる被害の広がり方(07年)は、「カオス的拡散」でなく、「集中的拡散」
「観察の中で明らかになった07年の被害拡散の形態は『集中的拡散』である。カシナガのアタックが、吉田山のあちこちに存在する穿孔可能なコナラやアラカシに対し、まばらな『カオス的飛散』の形態で行われるのか否か、明らかでなかったが、観察の中で、カシナガの穿孔が、広範に疎らに行われるのでなく、ある被害木への集中的形態をとりながら進行していくことが明らかになった。07年の集中的アタックは、被害木の数メートル横に同様のコナラがあっても、一見、見向きしない状況で進行した。」
〇コナラとアラカシで異なる初期のアタック(爪楊枝打ち込みの条件下でのカシナガの集中)
(図4)-比較的大量のアタックが行われた樹木への、初期の穿孔数の推移
コナラへの指向(嗜好)性が、アラカシよりも強い傾向が見られる
コナラの分布とアラカシの分布
日本の森林帯-暖温帯(シイ・カシ林)、冷温帯(ブナ林)、亜寒帯
中間温帯-
〇結果:被害は、コナラ、アラカシ、シイに発生。新たな被害木は30本、枯死木2本(他一本が
別の要因で枯死)
6、08年の取り組みから
〇6月1日から12月29日までの期間で、吉田山で発生した全ての被害木に爪楊枝を打ち込み、観察・記録した。08年の新たな被害木は、126本に達した。観察は、「全ての被害木を2日に一回観察する」から、全ての被害木の早期に発見し、爪楊枝の打ち込み・観察を行った。
〇結果は、新たな被害が、コナラ107本、アラカシ17本、シイ2本で発生し、枯死木はコナラ3本となった。
〇爪楊枝打ち込みの効果を、他区域と比較して明らかにするため、左京区北白川瓜生山登山道周辺のナラ枯れ被害地で、被害の実態を調査した。北白川瓜生山の登山道周辺の被害地は、吉田山と同時期(2006年)にナラ枯れ被害が発生したが、07年夏の被害発生以降は、爪楊枝打ち込みが全く行われていない区域
〇ナラ枯れによる枯死率についての、吉田山と北白川瓜生山登山道登り口付近との比較
北白川瓜生山の登山道周辺のナラ枯れ被害調査
・09年3月-調査は、沢沿いの瓜生山登り口から最初のこぶ周辺まで、尾根の両側の全てのコナラについて実施
・被害の有無、枯死しているか否かについて調査、記録
・調査本数は226本-伐倒処理後の切り株も含め、エリア内の全てのコナラが対象
・1本(株)毎に「生被害」「枯死」「被害未発生」を確認し、胸高周囲(根元周囲)を記録
・結果、09年3月段階での生被害木は92本、枯死木・伐倒処理済み株は49本(それ以外に3本は被圧による)、被害未発生木は82本
・一方、この期間(06年~08年)の吉田山のコナラの全被害木数は128本であり、同枯死木数は5本
●北白川瓜生山:全コナラ被害木における枯死率-(34,0%) 49÷144
●吉田山 : 〃 -(3,9%) 5÷128
「侵入木への爪楊枝打ち込み作業が、コナラの枯死率の大幅な減少に寄与していることは、明らか」
7、09年の取り組みから
〇09年は、被害木が前年の4倍化すれば、400本以上のなることが予想されたので、人が一定の人数で対処する方向で取り組んだ。全ての被害木を発見し、少なくても一度は爪楊枝打ち込みが行われるように取り組んだ。
〇09年年度の吉田山における新たな被害木はコナラ、アラカシで、10月28日現在(422本)、10年5月の時点で(481)本となった。06年以降、吉田山での新たな被害木の拡大は、毎年約4倍化の勢いで推移してきたが、09年の被害も、同様の規模となった。
〇被害木の広がりは、局地的な全面占領状態に
拠点確保から、陣地拡大、そして全面占領状態に
吉田山では東斜面や、ほぼ100%に被害
〇枯死木は、コナラ38本である。
〇本年の枯死木の増加は、被害木の量的拡大にボランティアの作業量が、物理的・時間的に十分対応できなかったこと、8月のナラ枯れ防止にとって重要な時期に作業が実施できなかったことが影響していると考えられる。被害発見時にすでに枯死というケースが少なくなかったことは、その一端を示している。
<07年、08年、09年の吉田山での取り組みと生被害木・枯死木の推移>
被害木の総数 新しい被害木 枯死木 打ち込み数 枯死率
06年 8 8 1 12.5%
07年 35 30 2(別要因で1) 8799 6.6%
08年 152 126 3 17000 2.5%
09年 481 38 7,9%
〇「カシナガの侵入を受けた木には、カシナガは二度と侵入しない」か
-生存侵入木が増えれば、大量枯死を克服できるか?-虫と木の力を借りて森を守るということ
06年から07年の「前年被害木」の翌年の状況(表1)
07年から08年の「前年被害木」についても、同様の状況が出ている
前年、比較的早い時期から大量アタックを受けたコナラ-翌年アタックが少ない
前年、遅れて少量のアタックしか受けなかったコナラ-翌年早期からアタックが行われる
一昨年被害木S6の場合-一昨年、一定量のアタックがあり、昨年はほとんどアタックがなかったが、今夏、240ほどの穿孔あり。10年も一定のアタックが行われている
アラカシへのアタックあり
-少なくても、「再アタックはない」は間違い
9、日本の森で広がる「ナラ枯れ」の異常と原因をどう考えるか
“新型インフルエンザ”の予測をはるかに超える広がり
新型インフルエンザ-「予想」は、総人口の25%が罹患、0.5%が死亡
一方、コナラ(北白川)を見ても、被害率62%、致死率21%は異常な被害の広がり
北白川瓜生山での調査から―総数226本中、枯死木52本(ナラ枯れ原因が49本―21.6%)、
生被害木92本(40.7%)-62,3%に被害-被害なし82本(36.2%)
09年、さらに枯死が広がる-同じエリアで、新枯死木が35本
226本中、合計84本が枯死(37,1%)-09年5月16日調査
自らが生活する樹木を大量に枯死させながら広がる「ナラ枯れ」の異常性
〇原因と対策
森林総研などが考える<原因と対策>
「里山放置説」-里山に手が入れられなくなり、老齢木が放置されているから
・「大径木が被害を受けやすい」(森林総研関西支所12p)
「今までの調査事例を通して、被害木は、樹齢が40~70年、直径の大きな木が株立ちになっている事例が多い」
・里山林も変化する中で引き起こされた現象
「地球温暖化現象の影響も指摘されることがあるが、社会的要因を無視して環境要因のみを強調すると、『被害を減らすのは不可能』という結論に陥ってしまう」と、温暖化の影響については否定的
・里山林の放置は危険―「更新」が効果的―「伐採」が重要
〇国と京都府、京都市の対応
・枯死木の伐採が中心-伐採木は薬でくんじょう
・府(府研究者)は当初、「生被害木では、虫は死ぬ。中からは虫はでないので切るべきでない」
・現在、木の根元にスカートのように厚手の合成樹脂フィルムをはかす方法も一部採られている
・薬剤の樹木への注入
〇北山の自然と文化をまもる会の考え
・「里山放置説」については「疑問」を呈している
当初から、「なぜ、和歌山、鹿児島から北に広がらないか?」
・実際の現場調査から-カシナガは「高齢の大径木を好んで繁殖」というが、実際の現場では、小径木などから広がる場合もあるし、被害発生から3、4年後の「局地的占領」期になれば、大小ほとんどどの木にアタックが行われる(吉田山)
「カシナガは高齢の大径木で好んで繁殖し、1930年~50年代の報告にも『50年生以上の老齢樹に被害がでた』と書かれている」(森林総研12p)と、書かれているが・・・
被害木の全木調査(吉田山)から見える事例は、それとは異なる
・里山に「高齢な大径木が残っているから」被害が広がっているのでなく、別の要因で、カシノナガキクイムシの大量発生が起こっていることが、「甚大なナラ枯れ被害の拡大」を引き起こしている
〇著しい環境変化が起こっている中での生態学-生物層が短期間に大きく変化している
〇コナラやミズナラなどの大量死が引き起こす環境破壊
・治山治水
・異常気象(乾燥や豪雨)と結びつくことの危険
・温暖化との関わりでは、「吸収源」が「排出源」になる
・生物の絶滅
・景観
最後に-今、身近な森の中で起こっていることに、触れて、感じて・・・考えてほしい。
自然から人間へのメッセージ
〇吉田山でのナラ枯れ防止活動
7月17日(午前10時半~昼まで)
7月19日(午前10時半~午後も作業-4時まで)
7月24日(同上)
8月1日(同上)
(カナヅチ持参・午後まで作業する場合は、弁当・飲料水:吉田山山頂公園トイレ前集合)