
お盆のシネマフロンティアの夕方の回。一番大きなスクリーンは完売だった。公開からまもなくひと月が経とうとしているこの時期に,メイン・ターゲットと思われる若い人だけではなく,私のような中高年層まで巻き込んで,「天気の子」はもの凄い興行を展開しているようだ。「宮崎駿」引退後にぽっかりと空いていた,そしてその代わりとなる存在が果たして現れるかのどうかさえ未知数だったアニメーション興行のメイン・ストリームを,新海誠は足音高く堂々と闊歩している。その後ろ姿には,本作中で陽菜が呼び戻す太陽の眩いばかりの光が差しているかのようだ。
雨が降り続く東京に,強く「願う」ことによって晴れ間をもたらすことが出来る少女と,その行為の代償として「犠牲」になることを運命付けられた彼女を救おうとする少年の物語。「君の名は。」に続いて新海監督は,ささやかな「ボーイ・ミーツ・ガール」物語を,かつて東宝の十八番だった「パニック大作」に,ただし特撮映画というフォーマットではなく,精緻を極めた美しいアニメーションというフレームに移し替えて,飛躍させてみせる。
前作で人々の生命を脅かす隕石群を,美しい「流れ星」として表現しつつ,事象の多様性を象徴的に描出することに成功した高度な技術は,東京に降り続く雨と空を覆う雲の描写に,一段とレヴェルアップして用いられている。陰鬱なはずの雨を物語の通奏低音とすることで,大都会の灰色に染まった日常的な生活のトーンが自然に浮き上がって来ると同時に,雨がもたらす高い湿度と陽菜の力で時折戻ってくる太陽の輝きとの対比が実に鮮烈だ。
軽やかで自由自在な空中飛翔が特徴的だった宮崎アニメと比較して,本作での主人公二人の飛翔が,高く舞い上がって,雲の上から落ちてくるだけに限定されているのも象徴的だ。普通の少年少女が偶然与えられる超自然的な力を,気候に関するものに限定することによって,二人の置かれた立場も物語自体も,寓話を超えてよりリアルなものとなっている。新宿の街角を精密に再現した美術の努力も,「ブレードランナー」の美術陣に観て貰いたいほどだ。
そんなアニメーションとしての完成度の高さに比べると,物語に突如として現れる大きな瑕疵は見過ごせない。それは,何故帆高にピストルを持たせなければならなかったのか,ということだ。大人の論理に抗するための武器として,新宿という街ならば充分にあり得るという考えだったのだろうが,展開上の唐突感,違和感はどうしても拭えなかった。しかも2度に亘って帆高に発砲させるに至っては,取り囲まれた警官たちのターゲットとなる理由をわざわざ作ってしまった訳で,この展開上の破綻は映画全体に影響を及ぼす致命的なものだった。賛否両論あるようではあるが,大勢のクリエイターたちが集団で物語を紡ぎ上げた上での「トイ・ストーリー4」の冒険と比較してしまうと,酷ながら評価はこうなる。実に残念だ。
★★
(★★★★★が最高)
雨が降り続く東京に,強く「願う」ことによって晴れ間をもたらすことが出来る少女と,その行為の代償として「犠牲」になることを運命付けられた彼女を救おうとする少年の物語。「君の名は。」に続いて新海監督は,ささやかな「ボーイ・ミーツ・ガール」物語を,かつて東宝の十八番だった「パニック大作」に,ただし特撮映画というフォーマットではなく,精緻を極めた美しいアニメーションというフレームに移し替えて,飛躍させてみせる。
前作で人々の生命を脅かす隕石群を,美しい「流れ星」として表現しつつ,事象の多様性を象徴的に描出することに成功した高度な技術は,東京に降り続く雨と空を覆う雲の描写に,一段とレヴェルアップして用いられている。陰鬱なはずの雨を物語の通奏低音とすることで,大都会の灰色に染まった日常的な生活のトーンが自然に浮き上がって来ると同時に,雨がもたらす高い湿度と陽菜の力で時折戻ってくる太陽の輝きとの対比が実に鮮烈だ。
軽やかで自由自在な空中飛翔が特徴的だった宮崎アニメと比較して,本作での主人公二人の飛翔が,高く舞い上がって,雲の上から落ちてくるだけに限定されているのも象徴的だ。普通の少年少女が偶然与えられる超自然的な力を,気候に関するものに限定することによって,二人の置かれた立場も物語自体も,寓話を超えてよりリアルなものとなっている。新宿の街角を精密に再現した美術の努力も,「ブレードランナー」の美術陣に観て貰いたいほどだ。
そんなアニメーションとしての完成度の高さに比べると,物語に突如として現れる大きな瑕疵は見過ごせない。それは,何故帆高にピストルを持たせなければならなかったのか,ということだ。大人の論理に抗するための武器として,新宿という街ならば充分にあり得るという考えだったのだろうが,展開上の唐突感,違和感はどうしても拭えなかった。しかも2度に亘って帆高に発砲させるに至っては,取り囲まれた警官たちのターゲットとなる理由をわざわざ作ってしまった訳で,この展開上の破綻は映画全体に影響を及ぼす致命的なものだった。賛否両論あるようではあるが,大勢のクリエイターたちが集団で物語を紡ぎ上げた上での「トイ・ストーリー4」の冒険と比較してしまうと,酷ながら評価はこうなる。実に残念だ。
★★
(★★★★★が最高)