ドニ・ラヴァンの,50代に突入したとは思えない,一瞬たりとも目が離せない素速い動き。否応なしに身体が反応してしまう音楽。どんなに考えても正しい解釈は見つかりそうもない,果てしない物語。
今頃どうしているのだろうか,と考えることもなくなっていたあのレオス・カラックスが,身震いのするような素晴らしい作品を携えて帰ってきた。こちらのこざかしい思考を超えて,じかに心の奥のひだを逆立てようとするかのような映像は,時間が経つと共に徐々に訴求力を増していくかのようだ。
リンカーン・コンチネンタルの後部座席に座る主人公オスカー(ドニ・ラヴァン)は,執事のようなドライヴァー(エディット・スコブ)の指示によって,朝から晩までパリ市内を移動しながら脈絡なく様々な役柄を演じることになる。昔の恋人に再会した男,死に瀕した老人,野獣のような男,殺し屋,そして勤めを終えて家に帰る平凡な父親など,そのどれをもオスカーは全身全霊で演じきる。
彼は何故,そんな役割を果たさなければならないのか,ドライヴァーの指示は神託なのか。画面に映し出されるあらゆる謎は,一切説明されず,静かに幕を閉じる。
オスカーが演じる各エピソードは,どうしても「意味」や「理解」を求めがちなこちらの思惑を見透かすように,リズミカルな軽やかさを伴って拡散していく。
死を決意したカイリー・ミノーグが,廃墟と化したデパートで歌うシーンを筆頭に,音楽が至る所で重要な役割を担っているのだが,その端々に,過去の映画への熱いオマージュがちりばめられているところに,映画の故郷フランスが生んだシネアストならではの捻りが利いている。
野獣と化した男が墓地を疾走するシークエンスにかかる伊福部昭の「ゴジラ」や「地球防衛軍」のテーマ,更には大島渚の「マックス・モン・アムール」そのままと言えるラストのエピソードなど,日本人が昂ぶる場面も多いが,中でもインターミッション的に使われているアコーディオンの行進シーンは,下手なミュージカル映画や音楽PVが裸足で逃げ出す躍動感で観客を圧倒する。
ラスト,街中から集まってきたリムジンが,それぞれの休息場所に収まって大団円となるのだが,車同士が交わす言わずもがなのユーモラスな会話を敢えて挟み込むことで,したり顔のクールな触感を敢えて避けたところに,同じリムジンの車内を舞台とし,カイエ・デュ・シネマの年間第2位に選ばれたクローネンバーグの「コズモポリス」との大きな違いがある。本作(第1位)の大きさと温かさは,別格だ。
お帰りなさい,カラックス!
★★★★☆
(★★★★★が最高)
今頃どうしているのだろうか,と考えることもなくなっていたあのレオス・カラックスが,身震いのするような素晴らしい作品を携えて帰ってきた。こちらのこざかしい思考を超えて,じかに心の奥のひだを逆立てようとするかのような映像は,時間が経つと共に徐々に訴求力を増していくかのようだ。
リンカーン・コンチネンタルの後部座席に座る主人公オスカー(ドニ・ラヴァン)は,執事のようなドライヴァー(エディット・スコブ)の指示によって,朝から晩までパリ市内を移動しながら脈絡なく様々な役柄を演じることになる。昔の恋人に再会した男,死に瀕した老人,野獣のような男,殺し屋,そして勤めを終えて家に帰る平凡な父親など,そのどれをもオスカーは全身全霊で演じきる。
彼は何故,そんな役割を果たさなければならないのか,ドライヴァーの指示は神託なのか。画面に映し出されるあらゆる謎は,一切説明されず,静かに幕を閉じる。
オスカーが演じる各エピソードは,どうしても「意味」や「理解」を求めがちなこちらの思惑を見透かすように,リズミカルな軽やかさを伴って拡散していく。
死を決意したカイリー・ミノーグが,廃墟と化したデパートで歌うシーンを筆頭に,音楽が至る所で重要な役割を担っているのだが,その端々に,過去の映画への熱いオマージュがちりばめられているところに,映画の故郷フランスが生んだシネアストならではの捻りが利いている。
野獣と化した男が墓地を疾走するシークエンスにかかる伊福部昭の「ゴジラ」や「地球防衛軍」のテーマ,更には大島渚の「マックス・モン・アムール」そのままと言えるラストのエピソードなど,日本人が昂ぶる場面も多いが,中でもインターミッション的に使われているアコーディオンの行進シーンは,下手なミュージカル映画や音楽PVが裸足で逃げ出す躍動感で観客を圧倒する。
ラスト,街中から集まってきたリムジンが,それぞれの休息場所に収まって大団円となるのだが,車同士が交わす言わずもがなのユーモラスな会話を敢えて挟み込むことで,したり顔のクールな触感を敢えて避けたところに,同じリムジンの車内を舞台とし,カイエ・デュ・シネマの年間第2位に選ばれたクローネンバーグの「コズモポリス」との大きな違いがある。本作(第1位)の大きさと温かさは,別格だ。
お帰りなさい,カラックス!
★★★★☆
(★★★★★が最高)