「魔法のリノベ」
ほぼどのシーズンにも,と言っても過言ではないくらい多く見かける「漫画」が原作の当作。SDGsという追い風もあって,言葉自体も一般化しつつあるリノベーションという仕事を中央に据え,昨今退潮傾向にあるTVドラマ界にあって比較的高打率を保っている波瑠を,脚本の上田誠をはじめとするヨーロッパ企画勢が盛り立てるというフレームは,時宜にかなった良い選択だった。舞台となる「まるふく工務店」のアットホームな雰囲気(家族経営なのだから当然といえば当然なのだが)が何より楽しく,毎回登場してくる難題持参の厄介な客をノセておだてて工夫して,最後には必ず攻略してしまうお約束の展開も,飽きることはなかった。何と言っても,道中あれだけ苦労して辿り着いた最適ソリューションを「劇的ビフォーアフター」のように盛り上げることなく,ラストに細かいショットの繋ぎだけでサラリと見せて締め括るのがとても贅沢で心地良かった。
難を言えば,上記の展開に加えて,まるふくの社長(遠藤憲一)とライバル大手の営業(原田泰造)との確執と,波瑠と工務店の長男(間宮祥太朗)との恋模様がサブプロットとして描かれるのだが,特に恋愛プロットがドラマ全体の勢いを削ぐ方向に作用していたことだった。友情と尊敬と相互依存という関係の構築という新鮮な構図で押し切った「石子と羽男」との大きな違いは,尊敬が恋愛感情に変わっていく,という手垢の付いた関係性の重力圏から離脱できなかった点。恋愛面で逆襲に転じない寝取られ男(間宮)という新しい主人公が誕生する瞬間こそ,真のリノベだったはず。原作ものの宿命かもしれないが,あと一歩及ばず,という印象。
★★★
(★★★★★が最高)
「僕の姉ちゃん」
1年前にAmazonプライムビデオで配信されているため「2022年夏シーズンドラマ」という括りが正しいかどうかは分からないが,今年の夏に観た地上波ドラマの中で最高だったのが本作。黒木華演じるちはるとその弟順平(杉野瑤亮)が,両親が不在の間,二人だけで生活することになった姉弟を演じたドラマ。人は死なないし,犯罪も起きないし,とんでもないアクシデントも起きない。その代わりに先に帰宅した方がラーメンを啜ったり,ワインを飲んだりしながら,帰ってくる相方の「ただいまー」という声のニュアンスに耳を傾ける日々が,淡々としかし丁寧に描かれる。小津安二郎作品に流れていたような柔らかいユーモアを含んだ曲に合わせて順平は坂道で自転車を漕ぎ,ちはるはモダンな昭和テイストの服を身にまとってデートに出かける。1日にあった出来事や男女関係の機微について,構えることなく話し合う姉弟は,どこにでもいそうで,現実には決していない(であろう)関係。そこにリアルを注ぎ込んだ益田ミリの原作(これもコミック)を見事に映像化した演出家吉田善子の手腕は際立っていた。「待ってない奴,先に来た」「女に無意識なんてない」。名言に背中を押されて,水槽で飼われている亀まで居心地が良さそうに見えてくる。順平の上司役の平岩紙が放ついぶし銀のような輝きも含めて,座布団三枚!
★★★★★
(★★★★★が最高)
ほぼどのシーズンにも,と言っても過言ではないくらい多く見かける「漫画」が原作の当作。SDGsという追い風もあって,言葉自体も一般化しつつあるリノベーションという仕事を中央に据え,昨今退潮傾向にあるTVドラマ界にあって比較的高打率を保っている波瑠を,脚本の上田誠をはじめとするヨーロッパ企画勢が盛り立てるというフレームは,時宜にかなった良い選択だった。舞台となる「まるふく工務店」のアットホームな雰囲気(家族経営なのだから当然といえば当然なのだが)が何より楽しく,毎回登場してくる難題持参の厄介な客をノセておだてて工夫して,最後には必ず攻略してしまうお約束の展開も,飽きることはなかった。何と言っても,道中あれだけ苦労して辿り着いた最適ソリューションを「劇的ビフォーアフター」のように盛り上げることなく,ラストに細かいショットの繋ぎだけでサラリと見せて締め括るのがとても贅沢で心地良かった。
難を言えば,上記の展開に加えて,まるふくの社長(遠藤憲一)とライバル大手の営業(原田泰造)との確執と,波瑠と工務店の長男(間宮祥太朗)との恋模様がサブプロットとして描かれるのだが,特に恋愛プロットがドラマ全体の勢いを削ぐ方向に作用していたことだった。友情と尊敬と相互依存という関係の構築という新鮮な構図で押し切った「石子と羽男」との大きな違いは,尊敬が恋愛感情に変わっていく,という手垢の付いた関係性の重力圏から離脱できなかった点。恋愛面で逆襲に転じない寝取られ男(間宮)という新しい主人公が誕生する瞬間こそ,真のリノベだったはず。原作ものの宿命かもしれないが,あと一歩及ばず,という印象。
★★★
(★★★★★が最高)
「僕の姉ちゃん」
1年前にAmazonプライムビデオで配信されているため「2022年夏シーズンドラマ」という括りが正しいかどうかは分からないが,今年の夏に観た地上波ドラマの中で最高だったのが本作。黒木華演じるちはるとその弟順平(杉野瑤亮)が,両親が不在の間,二人だけで生活することになった姉弟を演じたドラマ。人は死なないし,犯罪も起きないし,とんでもないアクシデントも起きない。その代わりに先に帰宅した方がラーメンを啜ったり,ワインを飲んだりしながら,帰ってくる相方の「ただいまー」という声のニュアンスに耳を傾ける日々が,淡々としかし丁寧に描かれる。小津安二郎作品に流れていたような柔らかいユーモアを含んだ曲に合わせて順平は坂道で自転車を漕ぎ,ちはるはモダンな昭和テイストの服を身にまとってデートに出かける。1日にあった出来事や男女関係の機微について,構えることなく話し合う姉弟は,どこにでもいそうで,現実には決していない(であろう)関係。そこにリアルを注ぎ込んだ益田ミリの原作(これもコミック)を見事に映像化した演出家吉田善子の手腕は際立っていた。「待ってない奴,先に来た」「女に無意識なんてない」。名言に背中を押されて,水槽で飼われている亀まで居心地が良さそうに見えてくる。順平の上司役の平岩紙が放ついぶし銀のような輝きも含めて,座布団三枚!
★★★★★
(★★★★★が最高)