子供はかまってくれない

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2022夏シーズンドラマレヴューNO.3「あなたのブツが,ここに」「ちむどんどん」

2022年10月22日 21時40分45秒 | TVドラマ(新作レヴュー)
「あなたのブツが,ここに」
TVドラマ界においても,3年近く続いているCOVID-19禍の社会を俯瞰的に捉えたものが,ぽつぽつと出始めている。キャバクラをクビになったシングルマザーの女性が,生活の糧を求めて宅配ドライバーとして走り出す姿を描いたNHKの夜ドラである本作は,そんな時代の波を捉えつつ働くことの意味を問うた秀作だ。
COVID-19禍でキャバクラの職を失ったシングルマザー役の仁村紗和は,NHK朝ドラ「おちょやん」でも御茶屋の女中役で印象的な演技を見せていたが,主役を張った本作での自然体の演技は,余裕さえ感じさせる見事なものだった。同じく「おちょやん」に出演していた娘役の毎田暖乃の,これまた堂々とした佇まいと合わせて,大阪の下町でたくましく生きる親子という設定から受けるイメージを完璧に体現して,同時期に放送されていた朝ドラで描かれていた空疎な「沖縄の仲良し家族」像とは,実に好対照だった。
主役の亜子が日々宅配便を配送する家族の姿を通じて,個人の労働が社会を回し続けるために必須の要素であることを実感していく過程は,良い意味で使われることの少ない「歯車の一部になる」ことのポジティヴな側面を鮮やかに炙り出してみせていた。
惜しむらくは職場の先輩で,当初亜子にきつく当たっていた武田(津田健次郎)と亜子の摩擦によって,煙が立ち上ってくるようなやり取りが,もう少し見たかった気もするが,実家のお好み焼き屋の常連客二人(海原はるか等)の気分で観ていた毎週月曜の夜のダンスは,働く人たちへの最高のエールだったと言っても過言ではなかった。
★★★☆
(★★★★★が最高)

「ちむどんどん」
夏シーズンのドラマではないが,とても楽しかった夜ドラに比べて,そのあまりにもひどい出来映えによって,かえってバズっていた上半期の朝ドラにも一言。
沖縄復帰50周年という節目の年に制作されたドラマにも拘わらず,この半世紀の沖縄の歴史とその中で生じた問題に完全に蓋をしてしまった制作姿勢。
血の通わない人物設定や無理矢理作った不自然なエピソードの羅列によって,不快感ばかりを募らせることを目的としたとしか思えない素人演劇にも劣る稚拙な脚本。
叙情の喚起を促すために異常に甘ったるいメロディを常に流し続けたり,料理人の成長をメインプロットに据えながら「料理」そのものをほぼ完全に排除した演出。
脚本と演出陣に大きな問題があったとは言え,あちこちに開いた穴を塞ぐどころか,更に大きく広げてしまった母親と長男役の俳優。
数え切れないほどたくさんの欠点が重なって生み出された本ドラマは「ドラマ」という表現形態をかなぐり捨て,「何の意味もないエピソードを延々と紡いで,ある家族の姿を『説明』した番組」と成り下がってしまった。そう,ドラマに求められる「描写」が一切ない代わりに,延々と平板な「説明」が半年続けられたのだ。あらすじだけでは想像できなかったまさかの出来映えに驚いた秋ドラマ「silent」の脚本と演出レヴェルと比べると,地域リーグとJ1くらいの差がある。果たして「舞いあがれ!」が所属するリーグは,どこだ?

(★★★★★が最高)


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