goo blog サービス終了のお知らせ 

子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ロニートとエスティ 彼女たちの選択」:二人のレイチェルの覚悟に酔う

2020年02月22日 12時49分59秒 | 映画(新作レヴュー)
「選択は人間の特権であると同時に重荷でもある」。
教会において老司教がこう語る冒頭の説教シーンから,ラスト近くに置かれた若い次期司教の感動的な告白まで,緊張が途切れることなくずっと続く。ワイズとマクアダムス,二人のレイチェルという脂の乗り切った芸達者とマクアダムス演じるエスティの夫役アレッサンドロ・ニヴォラが形作るトライアングルは,やがて来るクライマックスに向けて,お互いの距離を詰めつつ体温を高めていく。終わってみて「モノクロ画面だったのではないか」と感じるくらいに彩度を落とした画面から伝わってくる3人の感情の圧力は,ユダヤ・コミュニティの空に厚く垂れ込めた雲を突き破って,観客の胸を衝く。

かつてエスティ(マクアダムス)と愛し合いながらも,ニューヨークへと去って行ったロニート(ワイズ)は,司教だった父の死の報せを受けてイギリスの故郷に戻ってくる。エスティが幼馴染みの男性と結婚していたことを知りロニートは驚くが,二人の仲を知る人々は懐疑的な目で彼らを見つめる。やがてエスティの妊娠が明らかになったとき,三人はそれぞれの想いを胸に,重い「選択」をする。
「グロリアの青春」で世界を驚かせ,「ナチュラルウーマン」でオスカー戴冠という栄誉を手にした監督のセバスティアン・レリオは,これまでと異なるビッグ・ネームを起用しながらも,女性の自立と自由とセクシャリティという,従前と変わらぬテーマをしっかりとした筆致で掘り下げていく。そのアプローチを完璧に理解した3人の役者たちが形作る空間は,静かな画面から受ける印象とは裏腹に,激しく熱く泡だっている。

今年で50歳になるというレイチェル・ワイズは,このまま進んでいけば第二のジュリアン・ムーアになるのではないかという期待を抱かせるほどに見事な演技で,かつての恋人との再会で揺れるロニートに体温を通わせる。一方レイチェル・マクアダムスも,最初は自制的だったエスティが,自分の奥深くにしまい込んだ想いを徐々に解放させていく姿を立体化することで,「スポットライト 世紀のスクープ」で見せた硬派な側面とはまた違う引き出しを持っていることを証明してみせる。彼女たち,そしてニヴォラの抑制の効いた演技がなければ,カタルシスとは無縁の,しかし深い余韻を残すラストは,成立しなかったであろう。
40代の優れた女優陣と彼女たちを必要とし,同時に輝かせることができるプロダクションの,国籍を越えた幸福な出会いに感謝したい。
★★★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。