子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

安藤裕子「chronicle.」:感涙必至のメロディを生み出す声の力

2008年06月01日 00時03分25秒 | 音楽(新作レヴュー)
近年屈指のメロディ・メイカー,安藤裕子の最近の作品は,既に荒井由実や大貫妙子,吉田美奈子といった伝説のクリエイター達に並ぶレベルにまで達したように思っていたが,この新作も素晴らしい。繊細さと力強さが同居するメロディの力を信じた歌唱の伸びやかさが,きちんと構成されたアルバムを作り上げる,というプロ意識が横溢したプロダクションの中で,光り輝いている。

ピアノとその後ろで微かにつま弾かれるギターをバックに歌われるスローな「六月十三日、強い雨。」で幕を開けると,次の「HAPPY」で早くも歓喜のファンファーレが鳴り響く。本人が「テーマはビートルズ」と語る開放感に満ちた曲の後は,エルトン・ジョンの「クロコダイル・ロック」みたいなイントロから沖縄的な旋律のサビになだれ込む「水玉」,正調安藤裕子節と言える「美しい人」から,映画「自虐の詩」の主題歌「海原の月」へと続く。あぁ,アジャ・コングを観て涙が出たっけ,と感傷に浸る私。情けない。

本人が「一番楽しかった」と語る「お祭り」,前作でもチャレンジしていた後打ちのビートが跳ねる「Hilly Hilly Hilly.」と続いた後に来るのは,中学校の後輩に捧げたという「鐘が鳴って 門を抜けたなら」。後輩たちが羨ましい。

正装した哀しみのような感情が溢れる「再生」,自ら「大人になったなぁ」と振り返った「たとえば君に嘘をついた」,安藤裕子史上最もビートが強く打ち出されたシングル「パラレル」を経て,話題の小沢健二カバーの「ぼくらが旅に出る理由」に辿り着く。原曲の持つ爽快なスウィング感を換骨奪胎し,ストリングスと安藤裕子の声でエレガントに再構築して見せた技は,このアルバムの白眉と言って良いだろう。

同梱されたDVDのアコースティック・ライブの中で「良くもなく,悪くもなく,普通の子だった」と涙ながらに過去を振り返る本人が,作り終えて一番驚いているのかもしれない偉業は,前作ラストの「唄い前夜」に呼応するような「さよならと君、ハローと僕」で,静かに,しかし力強く締め括られる。あっぱれ。

★★★★1/2


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