子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

The Cribs「Ignore The Ignorant」:ジョニー・マー,流浪の旅の終着点か

2009年09月20日 19時54分03秒 | 音楽(新作レヴュー)
「1980年代生まれの3兄弟によるイキの良いギター・バンドに,1963年生まれの伝説のギタリストが電撃加入!」オアシスのノエル脱退以上に意表を突くニュースを聞いて,日々若い人との接触に難渋している1960年生まれの私は仰け反った。そのヴェテラン・ギタリストが,ザ・スミスを皮切りに多くのバンドを渡り歩き,若きギタリスト達に多大な影響を与える仕事を残しながらも,自身は遂に安住の地を見つけられないままここまで来たジョニー・マーだっただけに,本当に上手くやっていけるのかどうか,不安は募った。

心配は勿論ジェネレーション・ギャップだけではない。クリブスの3作目となる前作「Men's Needs, Women's Needs, Whatever」は,叙情的な旋律と荒々しい演奏が高い次元で拮抗する,実に躍動的なアルバムだった。ここに誰の耳にも旗幟鮮明なマーのギターが加わることによって,荒削りな突進力に変化が生ずる,悪くすれば勢いが削がれることになりはしまいかという,期待とほぼ同量の漠とした不安が芽生えていたことを白状しなくてはならない。

しかし,そんな不安は1曲目で鳴り響く,瑞々しいギターのカッティングを聴いた瞬間に吹き飛んだ。
マーは8曲目のアルバム・タイトル曲を筆頭に,随所で「ザ・スミス」的な叙情を醸し出しながらも,あくまでも一筆書きの勢いを柱にしているバンドのギタリストという役柄に許された範疇で,盛り上げつつ自分も楽しむという理想的なコミットに成功している。バンドの特質を理解し,音の肌理を変えることなく,細かいニュアンスと安定感を増すという,本物の「匠」でなければなし得ない仕事を,完璧にやり遂げているという印象だ。

ジャーマン兄弟が書く,大半が3分台の楽曲も,演奏面の充実によって起承転結のくっきりとした曲の構造が一層際立っている。どこかザ・ストロークスにも通じるような自然体の絶叫ヴォーカルも,清冽さと迫力のバランスは前作以上で,(世評は余り高くないようだが)アークティック・モンキーズの新作「ハムバグ」と同様に,長く付き合える懐の深さを感じさせる。

時を同じくして,かつてジョニー・マーと「エレクトロニック」を結成していた元ニュー・オーダーのバーナード・サムナー(53歳)が,新バンドを結成してアルバムを発表,というニュースも飛び込んできた。
こうしたパンク~ニュー・ウェーブ時代を背負ってきた人々が,今も音楽シーンの最前線で奮闘する姿は,当時をリアルタイムで知る40~50代にとって,高価な栄養ドリンク以上の効能をもたらしてくれること請け合いだ。多分このクリブスの新作を手に取る人の9割以上が10代から20代のブリティッシュ・ロックファン(その数がどれくらいなのかは分からない)だと思うが,本当に手に取るべきなのはアラフィフ(50代前後)世代なのかもしれない。現実には,難しいことだとは思うけれども。
★★★★


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