子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

Wilco「Ashes of American Flags」DVD:新世紀のザ・バンドか?

2009年09月05日 11時39分29秒 | 音楽(新作レヴュー)
冒頭,ヴォーカルのジェフ・トゥイーディーが羽織る,鮮やかなバラの刺繍を施した白いジャケットに度肝を抜かれる。本気で格好良いと思っているのか,ギャグなのか,カントリーバンドという出自を忘れずにいるための自戒なのか,判然としないまま画面に見入っているうちに,以前これに近い感想を持ったことに思い当たる。それは初めて動くザ・バンドを見ることが出来た「ラスト・ワルツ」で,ロビー・ロバートソンが着ていたど派手な色の開襟シャツを目にした時の感覚だった。
しかし「こんなに素晴らしい音楽を奏でる人間が,こんなダサい格好をするなんて…」という常識的な感想をもたらす彼らのファッションも,卓越した演奏を前にすると,次第にパフォーマンスの燃焼促進剤としての役割を果たしているように見えてくるから不思議だ。

6月に発売した,自らの名を冠したニュー・アルバム「Wilco (the album)」も素晴らしい出来で,15年に及ぶキャリアのピークと呼ぶべき状態を維持し続けているウィルコが,アルバムの発売に先駆けて出したドキュメンタリー・ライヴ。
前作「Sky Blue Sky」は,冒頭で触れたザ・バンドを想起させるような雰囲気を持った作品だったが,ここで見せる(聴かせる)パフォーマンスは,正に先達が切り拓いた領土に踏み込みつつあるような充実感を漂わせている。ここまで来れば,オルタナ・カントリーだ,音響派だ,といった評価を越えて,最早堂々たる「アメリカン・バンド」と言えるだろう。

数多のメンバーチェンジを越えて残った6人の演奏は,スタジオ録音を完璧に再現するのは朝飯前,という安定感を感じさせながら,随所に軽やかな遊び心を挟み込んで飽きさせない。
トゥイーディーの歌は深い襞を持ち,リズム・セクションのアンサンブルも会場全体を弾ませる力強さに満ちている。白眉は,前作から加入したジャズ・ギタリストのネルス・クラインを中心とする3本のギターが絡み合って,終盤にもの凄い盛り上がりを見せる「Impossible Germany」だろう。

それに加えて,収録されている曲全てを,PCから専用サイトに飛ぶことによってMP3ファイルとしてダウンロードできる,という特典が付いていることも素晴らしい。
彼らは発売前の曲をネット上で不正に公開されるという犯罪に何度も遭っているのだが,その度に「(不正公開で)利益を得た人がいるのなら,幾らかでも慈善団体に寄付をして欲しい」というコメントを発することによって,ネットを使った音楽配信にはポジティブな姿勢を貫いてきた。ビジネスとしての音楽を越えたところに立って,良質な作品を産み出し続ける彼ららしい試みには,諸手を挙げて賛意を表したい。
そうした試みも含めて★★★★☆


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1 コメント

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WILCO (col)
2009-10-07 22:56:59
WILCO、いいですね
回数聴けば聴くほど良くなっていく感じが好きなバンドです
新作も段々と耳に馴染んで来ています
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