子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「トゥルー・グリット」:「大草原の小さな家」のローラかと思った

2011年04月09日 11時12分51秒 | 映画(新作レヴュー)
東北地方太平洋沖地震から4週間。津波の被害という言葉から想像出来る事態を遙かに超える惨状に呆然とする一方で,復旧に向けて命を繋ぐ作業に励む多くの人々に逆に勇気付けられる日々を過ぎ,非被災地における日常の営みを回復することが何らかの形で復興につながることを信じて拙稿を再開したい。
犠牲となられた方々のご冥福を祈り,併せてご不明の方々の消息の一刻も早い判明と,復興に力を尽くされている方々のご健勝をご祈念申し上げます。

【トゥルー・グリット】評

60歳を迎えて俳優人生におけるピークを謳歌しているように見えるオスカー俳優,ジェフ・ブリッジスが扮する保安官のコグバーンが言う。「俺はお伽噺も,牧師の説教も,金の話も信じない」。だが,コーエン兄弟が「ノーカントリー」に続いて放った,力強く心躍る追跡劇は,その台詞とは反対にリアルでありながら,お伽噺だけが持ち得る,ありとあらゆる時代と場所に通用する滋味深い教訓に満ちている。

乾いた土地を深い色調と余白を活かした構図で切り取ったロジャー・ディーキンスのキャメラと,ヴァン・ダイク=パークスもかくやというくらい,オーソドックスな歴史認識をメロディに置き換えたようなカーター・バーウェルの音楽が,コーエン兄弟が狙ったであろう正統派でありつつも,エッジの効いた新しい西部劇を創り出す作業に,いつも通りの素晴らしい貢献をしている。
「ノーカントリー」にやや欠けていたブラック・ユーモアも,マティ(ヘイリー・スタインフェルド)が根性を見せる商取引場面を筆頭に,全編に見事なバランスで塗されている。

だが今回,ジョン・ウェインがオスカーを獲得した「勇気ある追跡」(私には7割方,名誉賞的な意味合いで票が集まったとしか思えない作品だったが)の再映画化に挑んだコーエン兄弟の試みが,内容的にも興行的にも大成功を収めた一番の要因は,俳優陣の演技の見事なアンサンブルにあると思う。
冒頭に記したとおり,絶頂期にあるジェフ・ブリッジスの酔いどれ演技は言わずもがな。マティとコグバーンと共に,不等辺三角形を形作っているラビーフを演じたマット・デイモンの抑えた2枚目振りも効いている。
更に,復讐劇に欠かせない極悪非道な悪役も,ジョシュ・ブローリンとバリー・ペッパーという達者な役者チームが,マティの執念に対抗できるだけの渋い輝きを放っている。

そんな中で,一頭地を抜く驚きをもたらしてくれているのは,やはりマティを演じた新人のヘイリー・スタインフェルドだろう。
描かれる死者の数に比べて,見終えてどこか爽快な印象が残るのは,犯人を追跡し復讐を遂げるという一連の行動を,自分に定められた運命のように受け容れ,そうすることによって父を殺された怒りを昇華しようとする少女の決意を,折り目のはっきりした動きとかっちりとした台詞回しによって表現した彼女のおかげに外ならない。
隻腕の中年女性として登場する後日談の後ろ姿も含めて,1970年代にNHKで放送され一大ブームを巻き起こしたTVドラマ「大草原の小さな家」の主人公ローラ・インガルスがダブって仕方なかったのだが,彼女は今どうしているのだろうか?
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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