
私は行ったことがないのだけれど,IKEAのレストランで食事をした北海道生まれの人が「自分も北国生まれだが,北欧は寒さの程度が違うのか,全般に味付けが甘くて大味で自分には駄目だった」と話すのを聞いたことがある。勿論「北欧の料理」と一口で片付けるのは乱暴なのかもしれないが,風土に根差した食材や食べる人の嗜好に左右される要素の強い郷土料理において「おおよその傾向」といったものは存在して当然なのだろう,という至極当たり前のことを,ミカ・カウリスマキ久しぶりの新作「世界でいちばん幸せな食堂」を観ながら考えていた。甘い肉料理。好奇心は沸くのだが,果たしてどんな味がするものやら。
フィンランドの片田舎の寂れた食堂に中国人の親子が降り立つ。父親チェンが昔世話になったフィンランド人を捜してこの地に辿り着いたらしいのだが,そのうちに上海で料理人をしていた父親が腕を振るう料理が評判を呼び,父親と食堂を切り盛りする女主人シルカとの間には友情を超えた感情が芽生えていく。けれども親子の滞在期限は限られており,やがて食堂の常連客である警察官がそのことに気付いた時,ふたりはある決断を下す。
北欧の地に別の場所からやってきた料理人が,その地には縁がなかった見事な料理を供することで地元の人々を幸せにする。よく似たストーリーを持つ作品にデンマークの才人バーベット・シュローダーの名作「バベットの晩餐会」がある。けれども同作が終盤に至るまで主人公がフランス料理の名手であったことを巧みに隠し,その腕を存分に奮うプロットを作品のクライマックスに持って来たことと比べると,主人公の作る料理が地域の人を喜ばせることを物語が動き出すフックに使っている本作とでは,味わいはまったく異なる。
調理場面もその行為自体が持っているダイナミズムを見せる,という撮り方ではなく,チェンの人となり,シルカとの交流を表現する方法のひとつとしてのみ使われる。フィンランドに言及する際に良く用いられる「森と湖の国」というフレーズをまんま使ったオープニングのショットやサウナのシークエンスも含めて「ベタ」な表現に徹することで地に足を付けて物語を語る,というアプローチは,余白で語る弟のアキとは異なるものの,心地良い森林浴を楽しめることは請け合える。
それにしてもトナカイの中華風の味付け料理。こちらもどんな味がするものやら,好奇心だけは募る。特別食べてみたい,とは思わないけれど。
★★★
(★★★★★が最高)
フィンランドの片田舎の寂れた食堂に中国人の親子が降り立つ。父親チェンが昔世話になったフィンランド人を捜してこの地に辿り着いたらしいのだが,そのうちに上海で料理人をしていた父親が腕を振るう料理が評判を呼び,父親と食堂を切り盛りする女主人シルカとの間には友情を超えた感情が芽生えていく。けれども親子の滞在期限は限られており,やがて食堂の常連客である警察官がそのことに気付いた時,ふたりはある決断を下す。
北欧の地に別の場所からやってきた料理人が,その地には縁がなかった見事な料理を供することで地元の人々を幸せにする。よく似たストーリーを持つ作品にデンマークの才人バーベット・シュローダーの名作「バベットの晩餐会」がある。けれども同作が終盤に至るまで主人公がフランス料理の名手であったことを巧みに隠し,その腕を存分に奮うプロットを作品のクライマックスに持って来たことと比べると,主人公の作る料理が地域の人を喜ばせることを物語が動き出すフックに使っている本作とでは,味わいはまったく異なる。
調理場面もその行為自体が持っているダイナミズムを見せる,という撮り方ではなく,チェンの人となり,シルカとの交流を表現する方法のひとつとしてのみ使われる。フィンランドに言及する際に良く用いられる「森と湖の国」というフレーズをまんま使ったオープニングのショットやサウナのシークエンスも含めて「ベタ」な表現に徹することで地に足を付けて物語を語る,というアプローチは,余白で語る弟のアキとは異なるものの,心地良い森林浴を楽しめることは請け合える。
それにしてもトナカイの中華風の味付け料理。こちらもどんな味がするものやら,好奇心だけは募る。特別食べてみたい,とは思わないけれど。
★★★
(★★★★★が最高)