昔からエドワード・ズウィックという監督が苦手だった。日本の江戸末期を舞台にした「ラスト・サムライ」は判官贔屓もあって全然駄目とは思えなかったが,「レジェンド・オブ・フォール」は大袈裟,「マーシャル・ロー」は構えが大きなだけの写真としか思えなかった。初めてデンゼル・ワシントンを見た「グローリー」は少し違ったかもしれない。20年前の作品なので,細かな部分は余り覚えていないけれど。
雄大な自然をスクリーンサイズに切り取る技術は決して悪くないのに,人間が絡んだ途端に様式臭さが顔を覗かせ,特にアクションに関して,異常にけれん味が強い演出が常に緊迫感を削ぐ方向に作用してしまう癖は,どうにかならないものか,と常々思っていた。世評の高かった「ブラッド・ダイアモンド」に到っては,レオナルド・ディカプリオが熱演すればするほど,「大変ですね…」という妙に醒めた感想しか浮かんでこない有様だった。
しかし,ベラルーシの森でナチスの迫害から逃れてきた1,200人のユダヤ人の命を救った,実在の兄弟の物語を描く「ディファイアンス」は少し様子が違った。
何せ,苦悩する若きジェームズ・ボンド,というイメージが定着しつつあるダニエル・クレイグを主役に据えながら,物語の焦点はズウィック監督お得意の「戦闘」ではなく,極限の飢餓に追い込まれた集団の精神状態とそれを乗り越えようと苦闘するサバイバル行為に当てられているのだから。つまり,大仰にアクションシーンを撮ろうにも,クライマックスとなるドイツ軍歩兵隊との激闘を除くと,動きのある戦闘シーンが殆どないのだ。
「ブラッド・ダイアモンド」における「誰がために鐘は鳴る」のゲーリー・クーパーを彷彿とさせた銃撃シーンのようなアクションがなくなったことで,作品そのものも動きを失ったかというと,さにあらず。
非力な被迫害者達が,ナチスに父親を殺された主人公が語る「生き残ることこそが復讐だ」という台詞に鼓舞され,過酷な環境に立ち向かって次第に気持ちと力を合わせていく姿は,スリリングな戦闘シーンよりもずっとヴィヴィッドだ。
生けるものすべての命脈を閉ざす冬から,雪解けを迎えた歓びに満ちる春まで,森の息吹を繊細に捉えたエドワルド・セラの撮影は,終始抑制的なズウィックの演出との相性も良く,リーヴ・シュライバーの好演共々,予想外の収穫だった。
「作り物を派手に飾り立てることはやめて,もうこれからはシンプルに実録路線でいこう」とエドワード・ズウィック自身が思ったかどうかは分からないが。
★★★☆
(満点は★5つ)
P.S.「映画評を読んでも,面白かったのかどうか,良く分からない時がある」という声を頂戴しました故,レコード評と同様に星取を始めることにしました。
雄大な自然をスクリーンサイズに切り取る技術は決して悪くないのに,人間が絡んだ途端に様式臭さが顔を覗かせ,特にアクションに関して,異常にけれん味が強い演出が常に緊迫感を削ぐ方向に作用してしまう癖は,どうにかならないものか,と常々思っていた。世評の高かった「ブラッド・ダイアモンド」に到っては,レオナルド・ディカプリオが熱演すればするほど,「大変ですね…」という妙に醒めた感想しか浮かんでこない有様だった。
しかし,ベラルーシの森でナチスの迫害から逃れてきた1,200人のユダヤ人の命を救った,実在の兄弟の物語を描く「ディファイアンス」は少し様子が違った。
何せ,苦悩する若きジェームズ・ボンド,というイメージが定着しつつあるダニエル・クレイグを主役に据えながら,物語の焦点はズウィック監督お得意の「戦闘」ではなく,極限の飢餓に追い込まれた集団の精神状態とそれを乗り越えようと苦闘するサバイバル行為に当てられているのだから。つまり,大仰にアクションシーンを撮ろうにも,クライマックスとなるドイツ軍歩兵隊との激闘を除くと,動きのある戦闘シーンが殆どないのだ。
「ブラッド・ダイアモンド」における「誰がために鐘は鳴る」のゲーリー・クーパーを彷彿とさせた銃撃シーンのようなアクションがなくなったことで,作品そのものも動きを失ったかというと,さにあらず。
非力な被迫害者達が,ナチスに父親を殺された主人公が語る「生き残ることこそが復讐だ」という台詞に鼓舞され,過酷な環境に立ち向かって次第に気持ちと力を合わせていく姿は,スリリングな戦闘シーンよりもずっとヴィヴィッドだ。
生けるものすべての命脈を閉ざす冬から,雪解けを迎えた歓びに満ちる春まで,森の息吹を繊細に捉えたエドワルド・セラの撮影は,終始抑制的なズウィックの演出との相性も良く,リーヴ・シュライバーの好演共々,予想外の収穫だった。
「作り物を派手に飾り立てることはやめて,もうこれからはシンプルに実録路線でいこう」とエドワード・ズウィック自身が思ったかどうかは分からないが。
★★★☆
(満点は★5つ)
P.S.「映画評を読んでも,面白かったのかどうか,良く分からない時がある」という声を頂戴しました故,レコード評と同様に星取を始めることにしました。