子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

今年のアカデミー賞:ファイナルアンサーは「スラムドッグ$ミリオネア」

2009年03月01日 22時15分51秒 | Weblog
先週の月曜日に突如として巻き起こった「おくりびと」アカデミー賞受賞旋風を眺めていて感じたのは,既に映画が娯楽の王様の座から滑り落ちて久しいこの国においても,映画というメディアが持つ潜在的な「興味喚起力」のようなものは衰えていないんだなぁということだった。

取り上げた題材と独創的な技術が相俟って圧倒的な高評価を受けていたというイスラエルの戦争映画「戦場でワルツを」と,教育問題を扱ってカンヌでパルムドールを獲得したフランスの作品「クラス」が票を分けた結果,という現地紙の分析もあったらしいが,勿論「おくりびと」にそういった社会派作品を凌ぐだけの志があったと認められなければ,戴冠はなかったはずだ。私は尊厳と共にユーモアを携えて死に向かい合った脚本と,主役級6人(チラシ参照)の気品に満ちた演技のアンサンブルこそが,現地で「今年の受賞作中,最大の番狂わせ」と報道されたらしい勝利の原動力だったと思っている。

全国各地で再上映が始まったようだが,こうなったら3月14日に予定されているDVDの発売を延期してでも,興収50億円越えを目指してもらいたいと思う。ただ,仮にこの「社会現象」が継続してその夢が実現したとしても,客単価の低い「崖の上のポニョ」の1/3に過ぎないという現実もまた,違った意味でもの凄いことではあるのだが。

で,その他の賞はと言えば,ゴールデングローブ賞の受賞で本命視されていた「スラムドッグ$ミリオネア」が,8部門での戴冠という栄誉に浴したが,ヒース・レジャーの助演男優賞受賞と同様に,他の賞レースの状況から「鉄板」と見られていたことも影響したのか,受賞後のマスコミの扱いはそれ程大きくはなかったようだ。
しかしイギリス資本の娯楽作品でありながら,インドの社会問題にスポットを当てた,しかも無名の俳優によって現地ロケで撮り上げられた作品が高く評価されたことの意義は小さくない。
TVで日本の評論家が「ハリウッド資本作の不作が影響している」と話していたが,少なくとも,背筋が伸びる大傑作「チェンジリング」に,GW公開が待ちきれない「グラン・トリノ」というクリント・イーストウッド監督の2作品を押さえての受賞は,そうした見方が必ずしも正しいとは言えないことの証明になっている。

そう捉えるよりも,昨年の演技4賞に米国人がいなかったことと併せ,ハリウッド業界人は,アメリカが彼らの「My Way」をグローバル・スタンダードに押し立てて行ってきた経済進出を否定し,同じ米国でも文化エリアに住む人間は「多様性」を認める度量を持っている,というメッセージを発信しようとした結果,と見るのが妥当なのではないだろうか。2006年にポール・ハギス監督「クラッシュ」の受賞で始まったそういった流れが,混じり合わない人種のモザイクと呼ばれる国で,少なくとも3年間は続いているという事実に,希望の光を見たい。

もう1人の日本人の受賞者である短編アニメーション部門の加藤久仁生監督が,受賞スピーチで,制作会社の名前「ROBOT」に引っかけてスティクスのヒット曲の一節を(節は付いていなかったが)歌ったのは,とても良かった。その映像をYou Tubeで観ながら,もしもThe Bird & The Beeの2ndアルバムに入っている「Love Letter To Japan」がヒットして,「この想い,あなたに捧げたい」という日本語のフレーズが流行れば,ショーン・ペン(主演男優賞)を目指すと宣言したらしいモックンが,その夢が叶って会場に感謝を捧げる時に使えると思ったのだが,どうでしょうか。


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