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子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ゲット・アウト」:不穏な空気に浸る歓び

2017年11月18日 17時48分03秒 | 映画(新作レヴュー)
若い白人女性ローズ(アリソン・ウィリアムズ)が恋人(ダニエル・カルーヤ)を連れて実家に里帰りする。ごく普通のホームドラマにありがちな導入部だが,その恋人が「ネイティブ・アフリカン」であること。加えて,その事実を彼女が事前に両親には伝えていなかったにも拘わらず,両親は驚いた風もなく彼を迎え入れる。更に両親が開いたパーティーでは,一人を除いて白人ばかりの隣人たちが,冷たい作り笑顔で彼らに接する。こんな冒頭のシチュエーションだけでも,相当にクセのあるドラマになりそうだ,という予感が漂う。
これが初監督作品だというコメディアンのジョーダン・ピールは,アプローチは異なるながらも,お笑い界からの異分野参入の大先輩である北野武ばりのクールな視点で,コメディとホラーの境界線上で実に恐ろしくも魅力的な空間を作り上げることに成功している。

主人公のカップルが乗った車に衝突して死ぬ鹿。実家に二人いる黒人の使用人のひとりは真夜中に全速力で屋敷の敷地を駆け抜け,もう一人の女は笑いながら涙を流す。そして主人公クリスに対して徐々に牙を剥いていく白人家族の低い体温。ローズの父親は「オバマを支持している」と語り,あからさまな黒人蔑視を態度で表す訳ではないのに,クリスを見る目は監視カメラそのもの。思慮深く見える精神科医の母親はどうやら会話を通じてクリスに催眠術をかけたらしい。
こうした複数のプロットや不吉なキャラクターが,いずれも空気中に漂う怪しい成分の濃度を高める役割を果たしながら,クリスの背中を見えない手で徐々に断崖へと追い詰めていく過程の描写が秀逸だ。
この不穏なドラマが,黒人差別が根強く残ると同時に,過去に数々の大量殺人事件が行われてきた南部ではなく,比較的リベラルな土壌と思われてきた北東部の田舎町を舞台にしているところも,人種差別意識の顕著なトランプ政権への問題意識の深さをも伺わせて興味深い。

そんな雰囲気作りの巧みさに比べると,「催眠術」という禁じ手に頼った物語のツイストは今ひとつと言わざるを得ない。芸達者キャサリン・キーナーを母親役に配置したのであれば,「一体何が起きているのか?」という恐怖をもっと引っ張って深めることも出来たはず。実は脳の改変・移植手術を企むマッド・サイエンティスト一家でした,というオチが,それまでの巧みな作劇に比べて浮いてしまったのは返す返すも残念。
出来れば北野先輩のように「アートの世界」に行くことなく,このままホラー×コメディのフィールドで,怖がらせつつ笑わせる,という高等技術に磨きをかけられんことを切に望む。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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