映画とライフデザイン

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映画「春江水暖」

2021-03-03 19:39:44 | 映画(アジア)
映画「春江水暖」を映画館で観てきました。

中国現代劇の傑作である。ゆったりしたムードを満喫できた。


裏社会にもつながる現代中国を描いた作品では、「帰れない二人」「罪の手ざわり」のジャ・ジャンクー監督や「鵞鳥湖の夜」や「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督の作品はいずれもハズレがない。サスペンスタッチで楽しめる。

両監督の作品と違って、映画「春江水暖」には末梢神経を刺激するようなバイオレンスシーンはない。優雅に流れる富春江に沿った風光明媚な風景を前面に映し出し、快適な気分で映画を鑑賞できた。今回グー・シャオガン監督は新人監督と聞いてこの完成度に驚く。


現代中国の都市開発に絡む立ち退き問題や中国人の母親が娘に理想の花婿を押し付けようとする中国結婚事情などはつい先日読んだ中島恵「中国人のお金の使い道」で読んだ話と共通している点が多い。

杭州市、富陽。大河、富春江が流れる。しかし今、富陽地区は再開発の只中にある。顧<グー>家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中に、母が脳卒中で倒れてしまう。


認知症が進み、介護が必要なった母。「黄金大飯店」という店を経営する長男、漁師を生業とする次男、男手ひとつでダウン症の息子を育て、闇社会に足を踏み入れる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。恋と結婚に直面する孫たち。変わりゆく世界に生きる親子三代の物語。(作品情報より)


⒈現代中国と黒社会
おばあちゃんの誕生日パーティが行われている場面からスタートする。いかにも幸せそうだ。ところが、おばあちゃんが倒れてからその4人の息子と嫁や孫たちの物語が始まる。

金を返すとか返さないとかの話が出てくる。ダウン症の男の子を抱えた男やもめの三男の借金がたまっているようだ。三男がいったん姿を消そうとして、長男がかばい、経営する中華料理店に黒社会系の男たちに乗り込まれる。いったん三男が消えた後でまたこの町に帰ってくる。ここで一気に金回りが良くなるが、どうしてなんだろう。


あとは、日本では見たことのないような博打のシーンが出てきて、黒社会を取り扱うジャ・ジャンクー監督などの匂いを少しだけ感じさせる。どうも中国の人には借金体質があるようだ。

⒉立ち退きは一儲け
中国で立ち退きと言えばおいしい話である。立ち退き=自分にもチャンスが巡ってきたとほくそ笑む。(中島恵「中国人のお金の使い道」p31)

上方の女芸人風に見える長男の奥さんが無理して家作を手に入れた結果、そこに開発話があって立ち退きの収用費用で一儲けしたという自慢話をする。家が持てない人にアンタ下手ねとばかりに話すシーンもある。しかも、家のない娘の恋人との結婚には猛反対だ。中国では適齢期女性より男性の人口が3000万人多く男女比がアンバランス。男性はマンションを持っていないと結婚してもらえない。(同上 p66)それなので、むしろ女側も強気だ。清の時代をはじめとして歴史的にも中国では独身男性が多くなる傾向がある。

あとは、古い団地の解体のシーンが多い。次男が自宅があった建物を壊しているのを見てたたずむシーンもある。現代中国の縮図と思しきシーンだ。

⒊驚きの長回し
これには驚いた。家族の長男の娘と彼氏のデートシーンである。富春江の川岸で、自分は川を泳ぐので、君は歩いていってと彼氏がいい泳ぎはじめる。カメラはおそらく船上からずっと追う。泳ぎ終わって川岸を2人で延々と歩く。セリフは続く。一つミスしただけでゲームセットである。これもすごい!


周囲にはエキストラと思しき、川で泳ぐ人や犬を連れた人なども大勢映る。それらがあっての映像コンテである。一筆書きのようなずっと連続する映像は時おり見るが、編集がされているのは間違いない。ここでは一つのカメラで長い間ずっと映し続けるのだ。圧巻とはこのことだ。

⒊富春江と美しい映像ショット
後漢が終わるころに中国の支配をめぐって争った魏、蜀、呉国の一つ呉の孫権が舞台になる富陽の出身だと映画で何度も語られる。近代になって架けられた橋や高層ビルも借景になり、古くからの建物とあわせて美しい姿を見せる。夜景もきれいだ。そこでいくつもの美しいショットをこれでもかというくらい見せてくれる。


そのバックに映る長男の娘が清楚で美しい。これが清々しい。

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