Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

写真の力

2009-09-30 13:01:12 | 日記

昨日はもう一冊文庫本を買った。
サイード『パレスチナとは何か』(岩波現代文庫)である。

この本は日本でも“ポピュラーな”本であるようなので、もうすでに読まれた(見た)方も多いかもしれない。
この本の原題は“AFTER THE LAST SKY”であり、1986年にニューヨークとロンドンの出版社から同時発売されたという。

このタイトルは、昨夜のブログ“むかしのブログ、むかしの歌”に今朝引用を追記したダルウィーシュの詩からとられている。

今この本のサイードの‘序’とこの本に掲載された写真を撮ったジャン・モアの“写真撮影者の注記”を読んだ。
そう、この本はサイードの文章とモアの写真とでつくられているのだ。

この注記でモアは、あるエピソードを語っている。
彼が“写真界のことは何でも知っている”写真家仲間と会った時のことである。
その男はモアに聞いた;《それで君は、目下、どんな仕事に掛かり合っているんだい?》

モアは《ここ30年間に取材したり公表したりしたものをまとめて展示する》計画を語り、次にこう言った;
《他にもうひとつ仕上げようとしているのは新しい本なんだが、そちらのほうは、僕の核心(ハート)に非常に近いものだと言えるね》

以下引用;
「テーマは何なの?」
「パレスチナ人さ」。
やや長めの沈黙があったが、友人は、少々悲しげにほほえみながら私を見て、とうとうこう口にした。
「そうか、いいじゃないか!でも、そのテーマは、いささか古いとは思わないか?・・・・・・何かもっとやりがいのあることに君のエネルギーと力を使ったほうが君のためなんじゃないかと僕は思ってしまうね!」
まさにこの種の能天気さに応えてやろうとして、私は本書の構想を貫き通したのである。


上記を読んで、ぼくはページをめくった。
最初の章“1 現状”の最初に見開きの写真があった。
“トリポリ、バダウィー・キャンプ、1983年5月”とだけある写真である。
結婚式での花嫁と花婿が(たぶん式が終わって)車に乗り込む前に、カメラに向かってポーズをとっている。
花婿は髭のいかつい顔のアラブ人であまり身長が高いとは思えない。
花嫁の顔はヴェールに隠れて定かではないが、大きな目と浅黒い肌は感じられる。
二人の周辺には、数人の人々しかいない(女たちは祝福し、男たちは無表情である)
隅で男の子が勝手に遊んでいる、背景は・・・・・・

文庫だから見開きでもこの写真は小さい、モノクロである。
しかしこの写真を見たとたんに、こみあげてきた“感情”はなんであろうか。
それが、ぼくにこのブログを書かせた。

写真の力、である。




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