★ ニッチという言葉がある。生態的地位と訳されているが、生物がそれぞれに棲みわけている場所のことだ。世界とはさまざまなニッチのモザイク模様だともいえる。
★ その模様に偶然、空白ができる。たとえば噴火や空襲のあとや、人間が集まって住みついて野生動物が追い払われたあとなど。あるいは(・・・・・・)新たに発見される空白もある。
★ 観念世界のニッチというものもあるだろう。これまでの観念では、からっぽとか向こう側とか不可視の領域とかとしか言えない空白の場。見えない場。だが強烈な牽引力があり、親しみがあり、懐かしささえもある。それを埋めるようにして新しい言葉が生まれ、新しい意識が進化する。
★ だが実は、最初に陸に上った魚のユーステノプテロンも、最初に空を飛んだ動物のランフォリンクスや始祖鳥も、新しいニッチへの好奇心と探究心に燃えてというより、甲冑魚や大型肉食恐竜に追いまわされて、怯えきって、逃げ場を探しただけかもしれない。
<日野啓三『Living Zero』(集英社1987)>
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