kumさん、改めてお誕生日おめでとうございます!
そしてkumさんと、混乱させちゃった皆様、ごめんなさい!
<氷の国の物語 3>
kumはマントを織り急いでいた。マントは戴冠式までに仕上げて城に納めればよい。しかし彼女にはマントを急いで仕上げたい理由があった。
そのため寝る間も惜しんで織り続け、体調を崩してしまうほどだった。一緒に暮らす父親が心配したが、医術にも通じているkumは自分で薬草を煎じて飲み、治してしまった。
織り上げた布地の縦糸を切って織り機から外すと、それをきめ細かな針目で縫い、布地と同じ糸をよって紐を作り形を整えて房飾りとし、マントを仕立て上げた。
マントが仕上がった翌朝、kumは自分の身の回りの物と一緒にまとめた荷物を担ぎ、家を出た。歩きでも昼には城に着けるだろう。
短い夏は終わり束の間の秋を経て、季節は冬の初めへと入っていた。山々は白く輝き、平地のこの辺りでもすでに初雪は降り、道すがらそれが所々斑になって残っていた。もうしばらくすればどこもかしこも厚く雪が積もり、一面白銀の世界に覆われてしまうだろう。
過ごしやすい夏ではなく、この時期に王選びの試練を行うということに、kumは不安を感じていた。
kumの年頃では他の娘達はとっくに嫁ぎ子供を儲けていたから、両親からそろそろ嫁ぐように言われていた。そんなとき、好きな人がいないから興味ないわ、と答えたり、私が嫁いだら父さんが一人になっちゃうでしょ、などと言ってkumははぐらかしていた。
母親と弟は城でdai王子に仕えているから、kumが嫁げば確かに父親は一人になる。しかし母親がdai王子のお側で身の回りの世話を続けるのも、もう長くはないだろう。母親はdai王子が王になり妃を娶れば、後のことは妃に託して城から暇をもらうつもりだと言っていた。
kumには織物と医術の腕があったから、一生独りで暮らしていくことができた。それで両親はkumの口実をそれ以上追及しなかった。
近隣の村や町に住む若者でも、城勤めの若者でも、kumに言い寄ってくる者はいたし、kumも自分の夫や子供を持ちたくないわけではなかった。
ただ、今はそんなことは考えられなかった。きっとdai王子が妃を娶れば、その後ならば自分も心に区切りを付け相手を見つけられるだろう、kumはただそう思って自分の先のことは考えないようにしていた。
dai王子は王になった暁には美しい妃を娶るだろう。可愛らしい王子や王女が次々と生まれることだろう。kumの胸に幼い頃のdai王子の面影が浮かんだ。
幼いdai王子は、本当に愛らしい子供だった。大きな目にふっくらとした頬と唇。何とも言えない愛嬌ある顔立ちで見る者を惹きつけ、そのくせ本人は泣き虫の弱虫でしょっちゅう泣きべそをかいていた。
姉や従兄弟達にいじめられた、厳しい先生や乳母に叱られた、苦手な虫が出て怖い、そんなことを大きな瞳一杯に涙を溜めて一々訴える王子を、kumは姉らしい態度でなぐさめ、ぎゅっと抱きしめた。
すると王子の心の傷は瞬時に消え、輝くような笑顔でkumを見上げてはしゃぐ。そんな王子が可愛くて、王子の役に立てたことが嬉しく誇らしくて、kumはいつも王子の心の傷を癒してやった。
「小さな弱虫daiと優しく暖かいkum」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)
だがあるときこれを母親に咎められた。kumの癒しの力は母譲りだが、母のものよりずっと強い。だから母はすぐにはkumのしていることと、その害に気付かなかったのだろう。
「もうおまえのその力をdai王子に使ってはいけません」
王子の乳母である母はそうはっきりとkumに告げた。
「王子にだけではない。その力を使っていいときと悪いときの区別が付けられるようになるまで、その力は封じ込めておきなさい」
そのときに受けた衝撃を、kumは今でもはっきりと覚えている。母の言葉はそれこそkumの心の傷になったし、人の心の痛みを癒すことがなぜ悪いのかと反発もした。
だが成長するにつれてkumには母親の言葉が理解できるようになっていった。力を禁じた訳を説明しなかったのが、幼い娘に対する気遣いだったこともわかった。
daiは体こそ小さめだったが、頭は利発だし体も丈夫ではしこい。ただ心だけが同じ年頃の他の子供たちよりも少し幼く、いつまでも弱虫だった。
このことを思い出すとき、kumは罪悪感に駆られる。
人の精神の成長に、心の痛みや苦しみは不可欠だ。心の疼きや苦しみに葛藤し、自身で乗り越えていくことで人は大人になっていく。
心に痛みや苦しみが生まれた瞬間に拭い去ってしまうことで、kumはdai王子の心が成長する機会を奪っていたのだ。
その後dai王子が順調に成長し、外見だけでなく内面もたくましい若者に育っていくのをkumはほっとして見守っていた。
そして大人になるに連れて、自分の癒しの力の用い方もわかっていった。大切な人を亡くすなど、自分では乗り越えることもできないほど大きな不幸に見舞われ、生きる力を失った人々には、必要とされ感謝される力だった。
この力は用い方さえ誤らなければ、やはり人々に必要とされる力なのだ。kumは自分自身の生まれながらの力に誇りを取り戻した。
だが王子を守りたいという気持ちは消えない。ならばせめて体が傷を負ったとき、病を得たときに治してやりたいと、kumは近所の魔法使いや魔女に習い、徐々に医術を身に付けていった。
dai王子が魔法使いnikに付けられた心の傷が、右足の傷と共に癒えていったとき、母はkumが癒しの力を使ったのではないかと疑っていたようだった。
だがこれは違った。kumは足の傷の治療と、体が活力を取り戻すように薬草を煎じた薬を飲ませただけで、心に関しては特に何もしなかった。心おきなく話せる乳兄弟として、治療の合間に話し相手になっただけだ。
王子といるkumには、彼の苦しみが手に取るように伝わっていた。kumさえその気になれば、王子の心の苦しみを取り除いてやることができる。それができるのに、じっと見守るだけでい続けるのは辛かった。だがkumは王子を信じて耐えた。
王子の心の傷が癒え元のような快活さを取り戻したのは、一度どん底まで落ちた王子の心が、苦しみ抜いたあげく自ら解決を導き出し、一回り大きくなって戻ってきたからだった。
今の王子にはnikといたとき以上の度量の大きさがある。試練を乗り越えることで、王にふさわしい器量を身に付けたのだ。 <つづく>
話が全然進みません。しかし幼いdai王子は余りにかわいいので、外せませんでした。(笑)
そしてkumさんと、混乱させちゃった皆様、ごめんなさい!
<氷の国の物語 3>
kumはマントを織り急いでいた。マントは戴冠式までに仕上げて城に納めればよい。しかし彼女にはマントを急いで仕上げたい理由があった。
そのため寝る間も惜しんで織り続け、体調を崩してしまうほどだった。一緒に暮らす父親が心配したが、医術にも通じているkumは自分で薬草を煎じて飲み、治してしまった。
織り上げた布地の縦糸を切って織り機から外すと、それをきめ細かな針目で縫い、布地と同じ糸をよって紐を作り形を整えて房飾りとし、マントを仕立て上げた。
マントが仕上がった翌朝、kumは自分の身の回りの物と一緒にまとめた荷物を担ぎ、家を出た。歩きでも昼には城に着けるだろう。
短い夏は終わり束の間の秋を経て、季節は冬の初めへと入っていた。山々は白く輝き、平地のこの辺りでもすでに初雪は降り、道すがらそれが所々斑になって残っていた。もうしばらくすればどこもかしこも厚く雪が積もり、一面白銀の世界に覆われてしまうだろう。
過ごしやすい夏ではなく、この時期に王選びの試練を行うということに、kumは不安を感じていた。
kumの年頃では他の娘達はとっくに嫁ぎ子供を儲けていたから、両親からそろそろ嫁ぐように言われていた。そんなとき、好きな人がいないから興味ないわ、と答えたり、私が嫁いだら父さんが一人になっちゃうでしょ、などと言ってkumははぐらかしていた。
母親と弟は城でdai王子に仕えているから、kumが嫁げば確かに父親は一人になる。しかし母親がdai王子のお側で身の回りの世話を続けるのも、もう長くはないだろう。母親はdai王子が王になり妃を娶れば、後のことは妃に託して城から暇をもらうつもりだと言っていた。
kumには織物と医術の腕があったから、一生独りで暮らしていくことができた。それで両親はkumの口実をそれ以上追及しなかった。
近隣の村や町に住む若者でも、城勤めの若者でも、kumに言い寄ってくる者はいたし、kumも自分の夫や子供を持ちたくないわけではなかった。
ただ、今はそんなことは考えられなかった。きっとdai王子が妃を娶れば、その後ならば自分も心に区切りを付け相手を見つけられるだろう、kumはただそう思って自分の先のことは考えないようにしていた。
dai王子は王になった暁には美しい妃を娶るだろう。可愛らしい王子や王女が次々と生まれることだろう。kumの胸に幼い頃のdai王子の面影が浮かんだ。
幼いdai王子は、本当に愛らしい子供だった。大きな目にふっくらとした頬と唇。何とも言えない愛嬌ある顔立ちで見る者を惹きつけ、そのくせ本人は泣き虫の弱虫でしょっちゅう泣きべそをかいていた。
姉や従兄弟達にいじめられた、厳しい先生や乳母に叱られた、苦手な虫が出て怖い、そんなことを大きな瞳一杯に涙を溜めて一々訴える王子を、kumは姉らしい態度でなぐさめ、ぎゅっと抱きしめた。
すると王子の心の傷は瞬時に消え、輝くような笑顔でkumを見上げてはしゃぐ。そんな王子が可愛くて、王子の役に立てたことが嬉しく誇らしくて、kumはいつも王子の心の傷を癒してやった。
「小さな弱虫daiと優しく暖かいkum」by ゆゆんさん
(このイラストの掲載はゆゆんさんの許可を頂いています。転載・使用・コピーはご遠慮下さい。)
だがあるときこれを母親に咎められた。kumの癒しの力は母譲りだが、母のものよりずっと強い。だから母はすぐにはkumのしていることと、その害に気付かなかったのだろう。
「もうおまえのその力をdai王子に使ってはいけません」
王子の乳母である母はそうはっきりとkumに告げた。
「王子にだけではない。その力を使っていいときと悪いときの区別が付けられるようになるまで、その力は封じ込めておきなさい」
そのときに受けた衝撃を、kumは今でもはっきりと覚えている。母の言葉はそれこそkumの心の傷になったし、人の心の痛みを癒すことがなぜ悪いのかと反発もした。
だが成長するにつれてkumには母親の言葉が理解できるようになっていった。力を禁じた訳を説明しなかったのが、幼い娘に対する気遣いだったこともわかった。
daiは体こそ小さめだったが、頭は利発だし体も丈夫ではしこい。ただ心だけが同じ年頃の他の子供たちよりも少し幼く、いつまでも弱虫だった。
このことを思い出すとき、kumは罪悪感に駆られる。
人の精神の成長に、心の痛みや苦しみは不可欠だ。心の疼きや苦しみに葛藤し、自身で乗り越えていくことで人は大人になっていく。
心に痛みや苦しみが生まれた瞬間に拭い去ってしまうことで、kumはdai王子の心が成長する機会を奪っていたのだ。
その後dai王子が順調に成長し、外見だけでなく内面もたくましい若者に育っていくのをkumはほっとして見守っていた。
そして大人になるに連れて、自分の癒しの力の用い方もわかっていった。大切な人を亡くすなど、自分では乗り越えることもできないほど大きな不幸に見舞われ、生きる力を失った人々には、必要とされ感謝される力だった。
この力は用い方さえ誤らなければ、やはり人々に必要とされる力なのだ。kumは自分自身の生まれながらの力に誇りを取り戻した。
だが王子を守りたいという気持ちは消えない。ならばせめて体が傷を負ったとき、病を得たときに治してやりたいと、kumは近所の魔法使いや魔女に習い、徐々に医術を身に付けていった。
dai王子が魔法使いnikに付けられた心の傷が、右足の傷と共に癒えていったとき、母はkumが癒しの力を使ったのではないかと疑っていたようだった。
だがこれは違った。kumは足の傷の治療と、体が活力を取り戻すように薬草を煎じた薬を飲ませただけで、心に関しては特に何もしなかった。心おきなく話せる乳兄弟として、治療の合間に話し相手になっただけだ。
王子といるkumには、彼の苦しみが手に取るように伝わっていた。kumさえその気になれば、王子の心の苦しみを取り除いてやることができる。それができるのに、じっと見守るだけでい続けるのは辛かった。だがkumは王子を信じて耐えた。
王子の心の傷が癒え元のような快活さを取り戻したのは、一度どん底まで落ちた王子の心が、苦しみ抜いたあげく自ら解決を導き出し、一回り大きくなって戻ってきたからだった。
今の王子にはnikといたとき以上の度量の大きさがある。試練を乗り越えることで、王にふさわしい器量を身に付けたのだ。 <つづく>
話が全然進みません。しかし幼いdai王子は余りにかわいいので、外せませんでした。(笑)
なぜなんでしょう、読みながら涙が出てくるのは。自分が何に反応しているのか・・。もう今は完全にkumさんの気持ちで読んでいます。
>一度どん底まで落ちた王子の心が、苦しみ抜いたあげく自ら解決を導き出し、一回り大きくなって戻ってきたからだった
これってわたしも娘も経験したことがあって,そのとき私を見守って導いてくれた人も娘を見守っていた私も信じて待っていたし,だけどきつかったです。
現実でも彼を見守っていた方達も彼自身もきつかったことでしょう・・・。
何かを乗り越えるには自分が立ち上がってもがいたり行動したりすることが必要ですね。
そうすることでひとは大きな力を得るということ,わたしも自分と娘のことで実感してましたのでいまの彼の表情にはそれを感じるんです。
わたしの「あえてただ見守るんです」という言葉からここまで表してくださったwalさん,魔法使いさんのようです。
大阪…初日のお茶の席でチラッと出た話。楽しい席でしたので、ごくあっさりと(笑)
kumさんとお嬢さんのお話も、本当はもう少しお聞きしたいところでしたが…。
私と息子も今だから言えるけど…どん底&危ない状況にいたっけなぁ~と振り返り、今 こうしていることの幸せを改めて考えさせてくれるwalさんのお話…そして大ちゃんの生き方です。
今回 3のお話はkumさんに便乗して自分に置き換えて(失礼っ!)ちょっぴり しみじみしながら読ませていただきました。
乗り越える者、見守る者の心の動きを想像させるwalさんのお話に勝手ながら頭の中では絵が…。本当にいろ~んな意味でwalさんは魔法つかいさんのようですね♪
さて… 高槻ではもうすぐ公開練習が始まるんですね!?
心も身体も健康で、良い状態で臨めますように!!
また感想をありがとうございます!
泣いてくださったのですか?書いた本人はここは泣くシーンのつもりではなかったので、申し訳ないぐらいです。
ゆっくりとしか進みませんが、続きも読んでくださいね。
幼いdai王子のかわいらしさと、特殊な能力を持つのはそれが素晴らしいものであってもけっこう大変なんだってことと、助けることができるのにあえて見守るだけにするその理由付けを書いただけのつもりのシーンだったので、そんなふうに感じて頂けたのにはびっくりでした。
同じ文からも、人によって受け取るものは違いますよね。
魔法使いさんはkumさんの心の中に住んでいるのだと思いますよ。
>そのとき私を見守って導いてくれた人も娘を見守っていた私も信じて待っていたし
きっとkumさんのお嬢さんも、大ちゃんも、信じて見守っていてくれた人の存在が、自分から解決を見つけ出すための大きな力になったんじゃないかなと思います。
>こうしていることの幸せを改めて考えさせてくれる
Yukkarさんも大変なときを乗り越えられましたものね。辛いことを乗り越えると、家族が元気で一緒にいられるだけでも幸せだなって思います。
>kumさんに便乗して自分に置き換えて
今回、読んだ方が当時の大ちゃんを思い返すことはあっても、個人的な経験と結びつけて読むという方法があるとは思わなかったので、物語っておもしろいなと思いました。
>乗り越える者、見守る者の心の動きを想像させるwalさんのお話に勝手ながら頭の中では絵が…。
Yukkarさんの頭の中でお話が絵となって動いているのなら、こんな嬉しいことはありません。モデルさんがいるからイメージもしやすいですよね。
高槻の公開練習、アメリカ帰りの大ちゃんはジャンプはあまり調子がよくなかったみたいだけど、元気そうな映像や写真がたくさん見られましたね。ブラックホールには大爆笑でした~!dai王子も同じようなキャラにしてみたいけれど、それではお話がさらに進まないから、やめておきます。(笑)