晴れのち曇り、時々パリ

もう、これ以上、黙っていられない! 人が、社会が、日本全体が、壊れかかっている。

外国人に寛容なフランスが、『ロマの大量追放』でヨーロッパ中を議論の渦に巻き込んでいる。 <2>

2010-09-05 23:55:06 | フランスとヨーロッパの今日の姿
その<2>
『今日の問題点』


毎日パリのどこかで、バルセロナで、ローマで、マドリードで、そしてミラノで、多くの観光客が、スリの被害に遭っています。

以前は、足首までの長いスカートに、くすんだ色合いのTシャツを着て、頭をスカーフ(布切れ)で包んだ、全体に垢染みた年齢不詳の(恐らく10代後半)の女性です。

勿論、オバチャンも居ますが。

あるいは、10才に満たない男女の子供達数名。

手に薄汚れた紙切れを持って近づいて来ます。

カモの観光客の前に来ると、一人が、何やら不明の言葉(恐らくロマ語)で話しかけながら、紙切れを突きつけてきます。
いかにも「読んでくれ」とでも言う様に。

あっけにとられて、その紙切れに注意が言ってしまっている間に、周りの相棒達が、その紙切れの死角になる位置から、バッグやポケットのなかに手を入れて、財布をスリ取ってしまうのです。

地下鉄の中。
エッフェル塔のエレベーター。
ノートルダム大聖堂。
シャンゼリゼ大通り。

人で込み合うところには、必ず「彼らの」スリが出没する。

路上では、老婆(に見えるけれど、恐らく40代)が、うずくまって「手をけいれんさせながら」物乞いをしている。

「有れ、あの女性2週間前は<ビッコ>を誇示していたのに。。」


これらは、ほとんどが『ロマ』だと思われている。


彼らは、ひととき(例えば2週間~1ヶ月)同じ様なところに居て稼ぎを行い、その後「フッと居なくなる」のです。

パリの別の場所に現れたり、地方都市に出現したり。


観光地が彼らの稼ぎ場である以上、警察の目も多く、時には現行犯で捕まる事も有ります。

しかし、その場で検査しても、肝心の盗んだ筈の財布は、見つからない事も多いのです。

すった瞬間、近くの仲間に巧みに渡して、見つかって負われて逃げ回る間に、数人の手を経て、所在不明になるのが落ち。

更に、連行しても「らちがあかない」事が多いのです。

「フランス語をしゃべらない」
「何ら身分を証明する物を持っていない」
「明らかに未成年」

等の事情で、立件する事もままならず、身元不明で調書を造る事が精一杯で、逮捕拘置も出来ず、3時間後には釈放されて、舞い戻って来る。

延々と、それを繰り返して居るのです。


以前、たまたま、私の目の前で人の財布を「スッたのを目撃して」相手の手を掴んで引っ捕えました。

そうしたら、10才にも満たないであろうその娘は、歯を剥き出してののしり、つばを吐きチラシ、あっという間に服を脱ぎ捨てて素っ裸になって、「どうだ何も持っていないだろ!」と片言のフランス語でわめきました。

精神的な強さは、日本人など大の大人が束になっても敵わない物が有り、したたかで、しかも自分達は生きる為に「仕事をしている」と言う自覚を、完全に持っています。

「子供でかわいそう。。。」
「けいれんして物乞いしてる病人は、気の毒。。。」

等と考えるのは、彼らに取って「思うつぼ」なのですね。


このような状況は、フランスで『ジタン』と一括りで呼ばれている人達のうち、ごく限られた、定住出来ず、かといってずっと旅を続ける生き方も出来ず、手っ取り早く稼いでいる「はみ出した」連中なのです。


フランスを、陸路旅していると、とある町に入る直前、「産業団地」という、倉庫や量販店、ファミレスや土木工事の重機のレンタル業者の集まる一角が有ります。

その又さらに外れに、キャンピング・カーが沢山並んでいる光景にぶつかる事が有ります。

一見、「キャンピング・カー業者の展示場」にも見えますが、よく見ると「洗濯物がほしてあった」り、犬がうろついていたりします。

これが、「移動するツィガーヌ」達の集積所なのです。

10台くらいの場所も有れば、100台くらい集まっている大規模現場も有ります。

入れ替わり立ち代わり、数日間を過ごして、また去って行く。
あるいは、行政が黙認する限り半年くらい粘って居続ける。

それは、例えばその地方が「イチゴの収穫期」であったりすると、農家に雇われて作業する間は、とどまる訳です。


それとは別に、大都会(中小の地方都市の場合もあり得る)の外れに、掘建て小屋を造って暮らして居る「ホームレス集団」のような光景も有ります。

それこそが、今回話題になっている『ロマの集落』なのです。


     


この光景を見れば、土地の住人達が「心穏やかで」居られない事は、ご理解いただける事でしょう。

彼らは、すでに「昔ながらの移動」をする訳では無く、セルビアやマケドニア辺りから、そして特にルーマニアから、最初から「出稼ぎの為に」やって来ます。

そして、パリやローマ、バルセロナ等の市域外にスラムを造り、冒頭に書いた様な行為を繰り返します。


フランスは、決して「観光立国」と言う訳では無い物の、やはり彼ら「ジプシーによる盗難被害の頻発」は、国際的にイメージを悪くする大きなポイントでありました。

過去、何度も小規模、大規模な取り締まりを断続的に繰り返して来た挙げ句に、「ジプシー達の習性」上、効率的対策は無かったのが実情でした。


そして、我らが『ニコラ・サルコジー』大統領の登場となった。

彼は、これまでの「フランスの指導者」達とは、根本的に違うタイプであります。

彼の学歴。
彼の政治的実践方法。
彼の公私にわたる「ライフ・スタイル」
彼の見てくれ!

総てが型破りで、たまたま当選してしまった物の、大統領に選んでしまった「国民の多くが」戸惑っている有様である。

とにかく、ネオコンかぶれ。

超ウルトラ学歴社会のフランスに遭って、彼はフランス国内の有力難関校を出ておらず、単にアメリカ留学で取得した学位のみ。

その、旧ハンガリー貴族(と言われている)移民家系が与えたかもしれない、汎用性の感じられない独特の価値観。

大変な「権力志向」。

独りよがりで自意識過剰。

パフォーマンス好み。

縁故への利益誘導。

このような「特質」は、元来トップに上り詰める政治家の典型的資質かもしれないが、通常フランスの場合、それらは(皆分かっていても)感じさせない、ある種の「奥ゆかしさ」が備わっている物なのです。

そして、文化的風格が備わっている、と言うか文化人的要素も併せ持つ。

ところが、『サルコ』の場合は、その悪しき特徴の表し方があまりにもダイレクト過ぎて、且つ文化的に何も素養が無い為、皆が辟易してしまうのです。

自分の資質へのコンプレックスか、異常な程の自信家で独断的。

良きにつけ(余り良い点は無いけれど)、悪しきにつけ、権力執行者としては、
実力者では有るのです。


その彼は、必然的に、国民を怒らせる様な政策を、次々と打ち出して来ては、左右両陣営から、批判に曝されてしまっているのです。

高校教育制度の改変(=改悪)。
退職制度の大改革(大改悪)。
公立病院の夜間診療の大幅縮小。

等など。

そして、EU全体から「総スカン」を喰らっているのが、今回の「ロマ国外追放」策であります。

元来、「博愛精神」の占める社会的ウエートが大きいフランスでは、人権に関わる様な事例は、かなり慎重に事を起こさないと、大変に面倒な自体に陥ってしまうのです。

上述したような、移動タイプでもなく、定住タイプでもない『ロマ』達を、フランス各地で「検挙」しては、一方的に『ルーマニア』に強制送還を始めてしまった。

表面の現象面は日本でも報道されている事でしょう。

これまでに850人程を、国外追放処分にして「強制送還」しました。

EU委員会と国連人権委員会からの批判をものともせず。先週だけで85名。

移民省発表によると、むこう1年間で8000名程の送還を見越しているとか。

勿論フランス国内でも、賛否轟々たる有様となっています。

フランス人自身が、「ジプシーによる盗難事件」の頻発や、彼らが巻き起こす社会的争乱の増大に、不満を募らせていたため、8月末の調査で、国民の60強%がこの措置に賛成しているらしい。


報じられている通り、受け入れ側の(送りつけられた航空運賃なども後から請求される)ルーマニア政府が、フランスの措置反発し、外交問題にまで発展しかかっている状況に有ります。

「フランス国内に於ける、盗難などの犯罪が、「ルーマニア国籍」の人間だけが引き奥している訳では無い。」

当然です。

しかし、ルーマニアの最底辺の所得層の国民は二人に一人以上が、フランスを中心とした各国に押し掛けて、犯罪行為を繰り返した経験が有る、という調査結果も出ているらしく、ルーマニア政府も余り強くは出られないらしいのです。

あくまで、一方的過ぎる「手続き上」の摩擦!

ところで、『サルコジー政権』には、社会党からの入閣者も有り、国民はそれら社会党系閣僚は、「内閣を辞するべきだ」との意見も、調査によれば65%程に達している。

更に問題を複雑にしているのは、今回の『ロマ追放』をされに押し広げて、フランスの移民政策の強硬姿勢への転換が背景にあるからなのです。

旧植民地である北アフリカからは、イスラム教徒のアラブ人が大挙してフランスに移民して来ており、「イスラムの律法」に厳密な家族のなかには、娘を幼くして強制的に結婚させる(じいさん程も年上の男に)事や、髪を覆うスカーフの着用を強制したりという事例が良く見聞きされています。

やはり「非差別層」としてのアラブ系移民達は、二世の若い世代に失業率が平均を大きく上回り、彼らの多く住むパリ郊外の団地に於ける、非行行為が、何か有る毎に社会的な暴動にまで発展する事も多く、それら諸問題を一挙に取り締まる意図がありありなのですね。

最近、イスラム女性のスカーフの中でも、一番極端な「目のところだけ」細い隙間が開いているだけの、『ブルカ』を禁止する法案が、上院で可決され、下院でも成立の見通し。

歴史的に、フランスの小中等教育は、キリスト教活動の一環に負って来た背景があり、何度もの革命を経て、やっと「教育」を国の手に取り返した背景から、教育の現場は「非宗教」、を守りたい中で、イスラムの女子生徒の「スカーフ」によるイスラムの習慣が、彼らの宗教の誇示と映り、大変に気に触るところなのですね。

車の運転に危険である、その他、実際的不便を指摘している物の、背景には「反イスラム」の意識が鮮明に存在するわけです。

その他、『移民法改正』により、犯罪行為を行った移民は「フランス国籍」を剥奪するとか、イスラムにこだわって「一夫多妻」を改めなければ、国籍剥奪とか。

これらの、長年フランスが頭を痛めて来た「諸問題」である『移民の同化政策』や『社会的治安の維持』や、『イスラムの浸透』やらを、総てリンクしている為に、今回の『ロマ追放』政策が、内外で大きな騒ぎを引き起こしている若です。

既に、アルジェリア政府は、フランス人に対する「ヴィザの発行」手続きを煩雑にして報復措置をとっていますし、今後増々各地での外交上、社会的、混乱が続くのでは無いかと、心配されています。

早速、フランス各地で、政界やマスコミなどが、大統領の横暴に対する非難活動が繰り広げています。

昨日9月4日にも、各地の主立った都市で、左派政党や人権団体、労働組合などが大規模デモを行い、町によって、数千人から一万人規模の参加者が有りました。

日本も、高齢化社会を迎え、社会の人口構成や産業構造も変化し、「移民」の問題は避けて通れない、現実問題の筈です。

恐らく、小沢氏などは既にその事を見込んだ政策を考えている様ですが、一般国民から理解を得るのは、まだまだ大変であろうと思われます。

しかし、この問題を避けて通っていれば、将来に禍根を残す事にもなりましょう。

日本が、ヨーロッパの小国の様な存在で、ひっそり存続して行く道を選ぶのか。

「新しい血を導入」する事で、経済も社会の活力も維持して、この先も国際社会の「上の方」に居続けたいのか。

事はそれほど単純に「図式化」出来る事では無いけれど、近い将来に極めて重大な選択を迫られる事が、見える様な今回の「ロマ追放劇」であります。


コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 外国人に寛容なフランスが、... | トップ | 長いと思っていた代表選の期... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
教養深かったです (wataru)
2017-03-03 20:55:56
恋人と酒を飲みながらジプシーの話になり、
こちらにたどり着きました。
ジプシーの定義だけでなく、彼らを取り巻く社会的環境、さらにはフランスというEU加盟国が抱える課題と施策という論点が、とても分かりやすく書かれ、とても参考になりました。まるで新書を読んでいる気分でした。
このコメントを書いている現在、アメリカではトランプ氏が就任から数か月経っています。状況がちょっと似ている点も、興味深く読めました。今後の我が国を考えるうえでも、大変示唆に富む内容でした。

コメントを投稿

フランスとヨーロッパの今日の姿」カテゴリの最新記事