先日NHKで放映されていた、パリ・オペラ座によるバレエ『ラ・シルフィード』を観ました。私は『ラ・シルフィード』を観るのがそもそも初めて。
『ラ・シルフィード』と言えば漫画家・山岸涼子さんの『アラベスク』で、主人公がコンクールで踊った題材です。ラストのこのシーンは、同じ作者の『日出処の天子』文庫版・第4巻の厩戸の王子のシーンに匹敵する、神がかり的な描写です。
その『ラ・シルフィード』ですが、たしか20世紀初めから主流となった「古典バレエ」「ロマンティック・バレエ」の源流と言われていたはず。『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』などですね。と言っても私はその特徴を言えるほどには詳しくないのですが。
おはなしは、村の若者ジェームスは同じ村の娘エフィーと結婚を控えています。しかしその彼のもとに妖精シルフィードが現れ、彼を誘惑します。ジェームスはシルフィードに惹かれ、エフィーを放って妖精のいる森の中へと入っていきます。・・・
この『ラ・シルフィード』を観ていると、踊りがとても繊細な振り付けだということ。『白鳥の湖』のように、これでもかというほど見せ場が連続するのではなく、むしろ踊り手の表情や手・身体の動きによる繊細な感情表現がキーとなっています。
群舞も、群舞独特のダイナミックな振り付けではなく、あくまでストーリーに沿った静かな踊りです。
この舞台では、主役の一人ジェームス役のマチュー・ガニオが輝いています。彼は当時19歳で、ちょうどこの頃にオペラ座の最高位エトワールに任命されたそうですが、立ち居振る舞いからしてサラブレッドのような気品が漂っているのです。一目彼の動きを見た途端に、この人は本物だ、そう呟いてしまいます。
私は他のバレエの種類も、またマチュー・ガニオという人の他の舞台も見たことないけど、それでもこの『ラ・シルフィード』はこのダンサーにとってはまり役なんだなと思わされます。
そのマチュー・ガニオを含め、もう一人の主役シルフィード役のオーレリ・デュポンと、準主役でエフィー役のメラニー・ユレルが三人で踊る踊りは圧巻!静かな踊りですが、息を呑んでしまいます。
オーレリ・デュポン演じる妖精シルフィードは妖精だけあって空を飛べるという設定なのですが、マチュー・ガニオが手で支えてジャンプするシーンなどは、本当に身体に重さがなく宙に浮いているよう。この軽さを演じることができるのが、主役である人の力量のすごさなのでしょう。
個人的には、とにかくマチュー・ガニオが光り輝いている舞台だと思えます。この人の踊りを観ていて、私は例えばロジャー・フェデラーのテニスを連想してしまいます。
私はテニスについては詳しく知りません。それでもフェデラーのプレーする姿を見ていると、フェデラーがテニスをしているのではなく、テニスがフェデラーの身体を借りてプレーをしているのではないかと思えてきます。玄人の人がどういう感想を持つのか知りませんが、フェデラーのプレーは、いい意味で個性がなく、まさにテニスそのものだ、と感じるのです。
マチュー・ガニオの踊りにも同じものを感じます。素人から観れば、マチュー・ガニオの踊りはいい意味で個性や癖がなく、その踊りがすべての人にとって理想のように思えるのです。
この若いダンサーの踊りを観ることができたのは、とても幸せなことだった、そう思ってしまいます。
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