風の谷通信

専業農家からの引退を画策する高齢者。ままならぬ世相を嘆きながらも、政治評論や文化・芸術・民俗などに関心を持っている。

産みたくない社会(5)

2006-08-01 03:38:31 | 世相あれこれ
風の谷通信 さん農園便りNo.87

 このクニの姿を壊す者は「若者」ではなく資本家である、と言えば
まるで19世紀のマルクスの時代を思わせるような時代錯誤的な表現
ですが、まこと現在の資本主義はこの社会を破壊する勢いを示します。

 情報入手源が限られている一個人としてはマスコミュニケーション・
メディアに頼るしかないのですが、商業新聞の情報からでもそうした
社会の悲鳴が聞こえるような情報が入ってきます。

 7月31日付け朝日新聞のトップ記事は「偽装請負広がる」です。
派遣労働が一般製造業にも拡大されて以来、単純な工場労働者にも
「派遣社員」が増えました。それまでに海外からの「研修者」という
格安の労働力を得ていた資本家・雇い主は派遣労働者の法改正に
よって安い労働力を国内で調達できるようになりました。先日のある
記事では「この旨味を知った資本家・雇い主はもう元の雇用形態には
戻らないだろう」と書いていました。

 ところで今回の「偽装請負」というのはそれをさらに酷くした、
逆に言えば資本家・雇い主にとって好都合な採用形態です。
実質は派遣労働なのに請負を偽装することによって派遣契約を結ば
ないで派遣と同じ形態の労働力を手に入れるのです。
 請負作業と言えば、本来の発注元とは別の場所で、独自の管理体制
や技術を以って作業を請け負うものですが、この労働力を派遣契約
によって発注元の作業現場へ受け入れると雇い主側は派遣会社との
間に「使用者責任」や「労働安全上の義務」を伴う「派遣契約」が
必要です。

 偽装請負は、派遣労働者を受け入れて自社内で、自社員と同様の
指揮・命令の下で働かせながら、請負契約で以って上記の責任を
免れるものです。しかも、いつでも簡単に首切りが可能な「労働力
の安全弁・使い捨て労働力」として使われているのです。これは
法令違反の雇用形態でありながら、工場の設計段階からこの採用形態
が前提として組み込まれている程にありふれたビジネスモデルに
なっているのです。

 問題は、使用者責任という法的問題もさることながら、そこに
雇われる労働者達の労働条件の劣悪さと社会的損失です。求人情
報紙を読むとこうした派遣労働者は時給800~1000円程度
であり、いくら頑張っても一日に8000円、月間労働25日と
しても20万円です。ボーナスや昇給や社会保険もなく、将来の
希望さえもないままに放置されているのです。新聞報道によれば
労働局の幹部職員でさえ「おそらくこの人達は一生浮かび上がれ
ないだろう」と言うのです。

 そして、この労働者達は20~30歳半ばが多く、結婚どころ
か自分の生活の予測さえつかない立場にいます。技術的に成長す
る機会も社会的に向上する機会も与えられず、病気にもなれず、
病気になっても受診できず、ただただ何とか今を凌いでゆくこと
しかできません。
 こんなクニから子供が減るのは当然です。こうした人達の社会
的活動力が高いことを期待できませんから、その社会的損失は
膨大なものでしょう。

 「資本家」なんて言葉はとっくの昔に死語になったはずでした。
彼らは「資本対労働」という言葉を避けて「経営対労働」という
言葉に頼ってきました。ところが現在のこのクニの形態は資本家
が好き放題に振舞う、資本にとっての自由放任主義、したい放題
の資本主義、あるいは古典的な意味での資本主義になっています。

このクニの姿を壊すのはニートや引きこもりやジベタリアン達で

はなくて、「自己のいま」しか考えられない資本家達です。

 残念ながらその社会階層が政治家や高級官僚たちと密接に結び
ついているので、このクニは「国家」を考える意欲の無い「資本家」
によって破壊されます。
年収2000万円とか退職金が8000万円とかいった人たちが
このクニを取り仕切っているのですから、その逆に、忘れられた
弱いところからこのクニが崩れてゆきます。取り仕切っている人達
の側から崩れることはありません。若い人達がこのクニの文化的・
社会的伝統に疎くなるのもまさに然るべしと思います。

 この文章のタイトルも「産みたくても産めないこのクニ」と
変える方が適切ですね。でも、どうしたら良いのでしょうか?
何にも手の打ちようがありません。一番身近にいる自分の子供が
「一生浮かび上がれない」のを見ながら打つ手も無くこの世から
消えてゆくのは辛いことです。自分には力がないから、せめて
若い人たちがいつか反乱してくれるような夢をみるしかありま
せん。でもこのクニの人口が7000万人くらいまで減った時
には新たな希望が見えてくることでしょう。

 農園便りとは程遠い問題を長々と読んでくださって感謝・合掌