夕食後、自分の部屋の窓を開けていると、遠くからいろいろな音が聞こえてくる。虫の声。踏切の警報器の音、電車の通過する音、バイクの発進する音、誰かの話し声。
思春期の頃、夜の街には不思議な魅力があった。いつも見慣れた昼の世界とは違う、新しくて楽しいことがたくさんあるような、そんな気がして、外の音を聞いているだけでわくわくした。
夜、ひとりで外を出るなんて経験はまだあんまりなかった。
道をどんどん進んでいくと、そこには何が待っているのか、知りたい気がした。
すこし大きくなってから、夜、本屋さんとかに行くようになった。子供の頃からよく言っている本屋だが、夜行くとまた違う感じがした。安部公房みたいな眼鏡をかけたおじさんが、いつも座っていたな。
本屋の隣はあの頃から喫茶店だったかな。そっちの方に行くようになるのは、もっと大人になってからだ。
そうだ、大人になってからは、夜パチンコ屋に行ったりしたな。500円くらい、ちょっとだけやる。全然勝たなかったけど、大人気分で出かけていた。
本当の?大人になって、勤め始めるようになると、夜の街は別に珍しくも何ともなくなる。
新しく住んだ街も、どちらかと言えば夜出歩くことの方が多かった。おかげで今でも、その街のことを思い出すときは、夜の風景の方がしっくり来る。