今月大きな話題になった村上春樹の小説「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」には、例によってクラシック音楽が小道具として取り上げられている。「ねじ巻き鳥」の泥棒かささぎ、「カフカ」のシューベルト、「1Q84」のヤナーチェックのように。
ヤナーチェックなんて、名前ぐらいしかしらない(僕は、と言う話)作品をいきなり取り上げられると、なんだかてらいがすぎるなあ、という気がしたものだ。更に、CDショップで特設コーナーが設けられて、この曲が平積みになっているのを見て、う~ん、なんだかなあ、という気持ちは強くなった。しかし、あらためて考えて見ると、この曲が小説全体の印象と、妙に調和しているような気がするから不思議なものだ。ねじ巻き鳥とロッシーニの組み合わせも、妙にはまっているよな。口笛で吹けるし。
それで、やはり気になってきて、昨年シンフォニエッタのCDを買ってしまった・・。ロッシーニは買ってないけど、こっちの方は曲はわかる。
今回の場合はより音楽と小説が密接に結びついている。なにしろタイトルが「巡礼の年」なのだから。小説についての詳細は書かないが、主人公(多崎つくる)は友人が偶々持ってきたレコードに、かつてクラスメートが良く弾いていた曲がある事に気がつく。「巡礼の年」第1年の、「郷愁-ル・マル・デュ・ペイ」だ。演奏していたのはラザール・ベルマン。後に、別の友人の家で聞くことになるCDは、ブレンデルの演奏で、主人公は「なんだか印象がが違う、ベートーヴェンのような格調があるな」「ブレンデルだからね」みたいなやりとりがある。
演奏家による解釈の違いか。さて、ベルマンとは・・。僕が持っているのはカラヤンと共演したチャイコフスキー(その後カラヤンとは一緒に録音していないので、合わなかったようだ、とどこかの本で読んだ)だけだ。演奏は悪くなかったが、買ったときはあんまり知らない人だなあ、と思ったのを覚えている。ブレンデルはいくつもCDを持っているし、演奏の違いも想像がつく。リストのCDは、どこかにあったかもしれないが、今出てこない。
「巡礼の年」のCDは、ずっと前は良く聞いていた。怒られそうだけど、BGM的に聞けるというか、わりと曲そのものが何というか、オープンな感じがあって、集中して聞こうとしなくてもいいような聞きやすさがある。曲ごとに変化があり、ショパンのノクターン集のような、同じ傾向の曲がいくつも続いて、だんだん飽きてくる、と言うこともない。もちろん、作曲家はレコード・アルバムを意識して作曲しているわけではないし、それはリストだってそうなのだが、とにかくレコード、あるいはリサイタルで通して聞くにはいい感じなのだ。
CDはかつて大型店でよく売っていたVOX BOX盤で、演奏はジェローム・ローズ。アメリカではかなり有名らしいが、クラシック界は欧州中心なので、雑誌などで取り上げられることは少ないようだ。演奏はかなり良い。廉価版CD(当時破格の2000円台だった)だが、とても気に入っていた。録音はちょっと籠もりがち。
さて、ベルマンの演奏だが、本を読んでいるとやはり気になる。CD店に行くと、リストのコーナーに一つだけ置いてあった。しめた、とおもいゲット。ブレンデルもあったが、5枚組のリストアルバム(ただし値段は3,670円と安いが)だったので、今回はパス。
お店であまり大げさに取り上げられていたら恥ずかしいかな、と思ったが、全然あっさりしていて、ちょっと拍子抜け、したのだが、実は買った後で別のコーナーに、大々的に「村上春樹の新作に出て来た曲」と大書きされて、CDが平積みになっているワゴンがやはりあった。やはり、レコード屋がこのチャンスを逃すはずがない。
ベルマンのCD、録音は少し古いがかなり良い。演奏もちょっと聴いた限りいい感じだ。