左上の図ではAの軸線のほうがBの軸線より短く見えます。
これについてAは四角い建物の角を見たときに見られる形を横にしたもの、Bは部屋の隅を見たときに見られる形を横にしたものと似ていることから、Aは手前に見え、Bは奥にあるように見えるため、Aのほうが短く見えるという説明があります。
つまり日常生活の経験から、AやBのような形を見ると奥行き感が生じて、奥にあるように感じるBは長く見えるというのです。
ところがその下の矢羽根の開き方が少ない図を見ると、こちらのほうが上の図の場合よりもBとAの軸線の長さの差が広がっているように見えます。
このように矢羽根の開きが狭まった形は、四角い建物の角の形では見られないものですし、また部屋の隅の形でも見られないものです。
つまり日常的な経験では見られない形で、奥行き感を感じさせるものではないはずです。
それにもかかわらず、この場合のほうが錯視の度合いが激しいのですから、この図形については錯視の原因を経験に求めるのは不適切な感じがします。
このことは、二つの図形をつなげた形になっている、一番下の図を見ると一層ハッキリします。
この場合のCはAに、DはBに相当するのですが、CとDがつながっているのでCが手前に見え、Dが奥に見えるというようなことはありません。
それなのにCとDを見比べた場合、Dのほうがかなり長く感じますから、Dのほうが長く見える理由は奥行き感ではないといえます。
まん中の図で一番上の円は背景より浮き出て凸型に見えます。
これはちょうど球形に上から光が当たって下のほうに影ができている形で、光が上から当たることが多いという経験からきているといいます。
二番目の図のよう白い部分と黒い部分がハッキリ分かれてしまうと、影のでき方が経験からかけ離れているため、凸型には見えなくなってしまいます。
下の図のように影に当たる青い部分が、上の赤い部分と同じ明度だと形は上の図とおなじですが、立体感は失われます。
つまり、上から光を当てると下に影ができるという経験が立体感を感じさせているようです。
一番右の図は最初に見たときはなんだか分らないかもしれません。
これは「ひげを生やしたコサックが右を向いているところだ」といわれればなるほどと感じます。
そればかりか、これはコサックだと一度感じてしまうと、つぎからは単なる模様には見えず、ひげを生やしたコサックに見えてしまうようになります。
黒い部分が影を感じさせるから、コサックに見えるのですが、白い部分を赤に、黒い部分を赤に変えた下の図では、コサックだと思って見ようとしても、うまくいきません。
赤と青が同じ明るさのため、青い部分が影を感じさせないためです。
上の図を「ひげを生やしたコサック」だと見ることができるのは>、実際の人間を見た経験によるものではありませんが、白黒写真の印刷を見慣れた経験によるものですから、やはり経験によるものではあるのです。