月あかりの予感

藤子不二雄、ミュージカル、平原綾香・・・好きなこと、好きなものを気の向くままに綴ります

「ある日……」「自分会議」etc

2012年07月27日 23時32分34秒 | 藤子不二雄
藤子・F全集の今月配本は「SF・異色短編」第4巻と「新オバケのQ太郎」第4巻でした。そのうち「SF・異色短編」に収録されている作品は、個人的に思い入れが強いものが多かったです。

思い入れというよりも、トラウマでしょうか(´д`);

高校受験を控えた頃、中央公論社から発売されていた「SF全短篇」全3巻を揃え、受験の合間に幾度となく読み返していたのですが、中でも特に怖かった作品は「ある日……」です。ラストページを開くたびに背筋が凍るような思いをしていました。ちょうど東西冷戦で、大量の核爆弾が一瞬にして地球を滅ぼしてしまうような事態が、いつ起きても不思議はないほどに切迫した時代に描かれた作品です。私が読んだ頃にはソ連崩壊も近く、既に実質的に冷戦は終結していたにもかかわらず、一瞬で世界が消え去る恐怖を中学生に植え付けるには十分な説得力を持った作品でした。

そして「自分会議」…これを最初に読んだのは、古書店で見つけたゴールデンコミックス版の「ミノタウロスの皿」で、タイムパラドックスものではあるんですが、見慣れた藤子タッチで、子どもの自殺シーンが描かれるというのは、当時の自分にはあまりに衝撃で…。また、今回の第4巻には掲載されていませんが、同じ「ミノタウロスの皿」に載っていた「間引き」(全集「SF・異色短編」第1巻所収)も、青酸カリ入りのおにぎりを食べさせて、なにくわぬ顔で夫を眺める奥さんにゾゾーッとしたものでした。

他にも名作と名高い「ヒョンヒョロ」、映画「ディープ・インパクト」を先取りしたような作品「箱舟はいっぱい」、「カイケツ小池さん」(全集「SF・異色短編」第1巻所収)の決定版「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」、何とも言えない余韻の残るショートショート「T・Mは絶対に」「大予言」、「流行」という現象に対する痛烈な風刺「オヤジ・ロック」、舞台劇にしたくなるほどに台詞の美しい「カンビュセスの籤」etc……。これだけ個人的思い入れの強い作品を一堂に集められると圧巻の一言です。

SF・異色短編の中では後期の「昨日のおれは今日の敵」「殺され屋」は、比較的コメディ色が強い作品ではありますが、当時から大好きでした。他にも老後の藤子両先生のような2人が登場する「光陰」、並平凡の親戚のような一家が主人公の(笑)「並平家の一日」、ここに挙げなかった作品も含めて、非常に何度も読み返したので、台詞の隅々まで頭に入っているような作品ばかりです。F先生のストーリーテラーとしての才能が輝く作品群を、まだ読んでいない方は、これから読めるのがうらやましいくらいです(´д`)

今回、巻末に貴重なインタビューと、私も初めて読んだコマ漫画「宇宙開拓史」が掲載されているのも有り難いです。「ドラえもん」等の子ども向け作品と比べて、かなり「つっぱなしたような描き方」をしていると語るF先生。今回の第4巻に収録された作品は、その「つっぱなした」感が特に強い作品が多い気がします。F先生は、よく「子どもに夢と希望を与えた…」みたいな語られ方をします。それも間違いではありませんが、決してそれだけに留まる器ではなく、現実の厳しさ、人間の愚かさ、醜さ、儚さ、そして弱さも、しっかりと描ける作家だということを、この巻に掲載された作品を読み返して改めて感じさせられました。

藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編 4 (藤子・F・不二雄大全集 第3期)
小学館

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