先日5/8に、劇団四季専用劇場としての上演は最後となる「エビータ」を観に、福岡シティ劇場へ行ってきました。
久しぶりに観る芝清道さんのチェは実にかっこよくてシビれました。芝さんを舞台で観るのは、2007年の京都JCSジャポネスク以来ですけど、トラップ大佐役の稽古の合間の出演だというのに、ますます磨きの掛かったチェを作り上げて来られた気がします。出身地福岡での、そして最後の専用劇場としての公演ということもあったとは思いますけど、決して必要以上に気負うところがなく、クールなのに熱い、そんなチェでした。
野村玲子さんも、まさか再びエバを演じられることになるとは正直私は思いもしなかったのですが(^^); やはりエバという役柄にはとても合った女優さんだという気がします。残念ながら歌声については、特に低音部分が非常に厳しかったことは否めません。しかしながら、
末次美沙緒さんが以前ブログにも書いておられましたけど、ご本人は相当必死でがんばられたんじゃないかと思います。日本初演でのクリスティーヌを演じた程の歌声の持ち主だったわけですし、私はまだ素敵な歌声だった頃の野村さんの舞台から観ているだけに、李香蘭など、相当に厳しいコンディションで歌われていたのを、かなり悲しく思いながら観ていました。ここ近年はストレートプレイの出演が多かった彼女が、数あるレパートリーの中でも、特に難曲の多いエビータ役に再び挑むというのは、相当な覚悟が必要だったことと思います。今回はまさしく「女優魂」を垣間見るような、鬼気迫るエバの演技には圧倒されました。
さて……冒頭でも書きましたが、ついに劇団四季は福岡を撤退してしまうことになったわけです。「撤退ではない」と報道等によると浅利さんは言ってますけど、これは完全に「撤退」です。劇団四季は福岡を見捨ててしまったのです。
ちょっと恨み節っぽく書いてしまいましたが(笑)、確かにここ近年の福岡シティ劇場は、いつ撤退してしまっても不思議がないほど、観客数が落ち込んでいました。以前このブログでも書きましたが、あのヒットミュージカル「マンマ・ミーア!」が数ヶ月で終了してしまうなんて、他都市では考えられないことでした。
四季側はよく「福岡の観客は熱しやすく冷めやすい」だの、「福岡では観客が育たない」だのと言いますが、こうした発言は正直いって、福岡県民の神経を逆撫でるだけだと危惧しています。福岡県民の文化センスが低いとでも言いたいのか?と…。
私は四季のやり方に疑問を感じていました。
まず、なんでいきなり専用劇場を、決して劇団四季が定着していたとは言えない福岡に作ってしまったのか?という疑問を、特に観客動員が低迷し始めた頃からは持ち続けていました。
四季の福岡公演がそれまで全然なかったわけではありません。
百道(ももち)での「キャッツ」ロングランも成功していますし、全国公演などでも数日間規模の上演はありました。
福岡シティ劇場が出来た1996年当時、関西から東側では四季も幅広い観客を掴んでいましたが、関西から西側には専用劇場はもちろん、四季が継続的に公演を打つ劇場なんて一つもなかったのです。
四季やミュージカルに興味を持たない私の周りには、いまだに「劇団四季って九州の劇団だと思ってた~」なんて言う人がいる始末です(笑)。全国的にミュージカルや新劇で活動している老舗劇団だということすら知らない人がいるんです。
そんな土地にいきなり「専用劇場」ですよ。
まだ東京の「四季劇場」もない時代です。仮設の専用劇場なら東京や大阪、名古屋などにありましたが、常設専用劇場はまだ存在していなかった、そんな時代なのに、決して四季に馴染みがあると思えない福岡に専用劇場が建ってしまったわけです。
最初は好調でした。そりゃそうですよ。だって物珍しいから(^^);
私はちょうど大阪から福岡へ移住する頃だったので、単純に喜びましたけどね。福岡へ移住を決意した理由の一つは「福岡シティ劇場があるから」でもありましたし(笑)。
ところが、「オペラ座の怪人」「美女と野獣」「キャッツ」などのロングランは成功するのに、短期公演や小規模な公演、ストレートプレイに至ってはガラガラな日も多く、そういう公演でもチケットが取りづらかった大阪との大きな違いをまざまざと感じました。
四季の公演が福岡で成功しないとは私は思いません。
ただ、もっと地道な種まきが必要だったのではないでしょうか。
大阪でも名古屋でも、最初から今みたいな成功があったとは思えません。
地道にチケットを団員が売り歩き、企業を回り、次第に定着し、そうした下積みがあってこそ「キャッツ」が大成功し、今の四季があるのではないでしょうか。
結局は、大劇団だという「おごり」が、結局は今回のような事態を招いてしまったのではないかと思うのです。大劇団だから、他の土地で成功してるから、福岡にいきなり大劇場を建ててしまっても大丈夫、みたいな「おごり」が…。
現在、広島や仙台で1~2ヶ月の短期公演を実施していて、それはそれなりに成功を収めているようです。福岡も来年以降、四季はこのようなラインに乗せるつもりのようです。
むしろ最初からそうすべきだったんじゃないでしょうかね(^^);
「今さら」感が漂うのと、これまで四季を応援してきた福岡のファンが、今後も応援してくれるか?というと、やはり疑問に感じます。
「エビータ」千秋楽でも、俳優さんや浅利さんからの「ご挨拶」的なものは一切なかったし、「エビータ」千秋楽が終わってから四季のサイトを覗くと、劇場紹介ページの地図から福岡シティ劇場が忽然と消えていたのは、なんともいえない悲壮感と、見捨てられた感が漂いました。
一番痛かったのは、一度は公演すると公言しながら、土壇場で「春のめざめ」などの福岡公演を中止したことですね。やると言った以上は、赤字を出してでも絶対に実施するべきだったと思うのです。経営が苦しい中小規模の劇団ならともかく、一度は上場の噂すら流れた四季ですよ(^^); そりゃ赤字で多少は傷むかもしれませんが、「次」に繋げる投資だと考えて実施するべきでした。やはり「公約破り」は批判されますよね。
それから浅利さんが、福岡公演を存続させるため、無理してチケットを多く買おうとするファンに対して、こんなことを言っていました。
これまでに劇場に足を運ばれたことのない方を、ぜひお誘いいただきたい。(中略) 初めての方でも、一度ご覧いただければ、「掴んで離さない」という自信があります。(ラ・アルプ 2010年3月号)
えぇ、何度か連れて行きましたよ。
これまで劇場に足を運んだことのない人を。。。
……しっかり離れていきましたが(^^);
単に好みに合わないとか、そういうこともあるとは思います。
が、浅利さんが胸を張って言うほど、今の四季は、
「
すばらしくなんかない!!」(by シンバ)
私自身は好きな演目もあるし、好きな俳優さんもいるから、四季の舞台は今後も観に行きますが、それでも「学芸会」のような芝居に当たってしまうことはあります。ベテランで実力もある俳優さんたちが、この10年間だけ見てみても、一体どれだけ四季を離れて行ったか…。
それなのに劇場はさらに増える一方。福岡は撤退しても札幌に新劇場を作るつもりらしいですし、今後も上演演目はどんどん増えるんでしょうから、質が落ちて当たり前です。
浅利さんは都合のいいときだけ「四季は劇団だ」と言いますが、今の四季を見ていると劇団というより「
エンターテインメント企業」です(^^); ショーをやるんならそれでも良いでしょう。海外のネームバリューのある作品を一手に引き受けて、
ビジネスとしては信任の厚い四季ですから、廃れることはないと思います。
しかし、劇団としては……果たしてどうなんでしょうか??
私が「四季の会」に入って、かれこれ16年になります。
あの当時はまだ専用劇場もありませんでしたし、今ほど「儲かって」はいなかったのかもしれませんが、いい舞台、いい俳優も多かったです。
今は……好きで観に行く作品も当然ありますが、なんとなく惰性で観に行っていた演目も多いのは事実です。そして、俳優の演技力などに満足できなかったことも決して少なくはありません。
福岡シティ劇場からの四季撤退については、こんなことを色々と考えさせられてしまいました。
言いたい放題に、そして若干厳しく書いてしまった点もありますが、長年応援してきた身だからこそとご理解頂ければと思います。