声優という仕事を考えてみたときに、
前回、「縁の下の力持ちに徹しなくてはならない」と書きました。
かつて「
NEO UTOPIA」の会誌で、名声優・
堀絢子さんのインタビューが掲載されたことがあります。言わずとしれた
ハットリくんの声で有名ですが、藤子アニメでは他に
チンプイ、「新オバケのQ太郎」(1971~72年版)の
Q太郎役などを担当しています。
私は「新オバケのQ太郎」の放送当時は生まれてなくて、再放送も観た記憶がなく(観ていたかもしれませんが、だとしても幼稚園くらいでしょう。小学生のときには既にテレ朝でシンエイ版が始まっており、それ以降は再放送もなかったのではないかと思います。覚えてません)、オバQといえば
天地総子さんの印象が強いのですが、何故(シンエイ版のQ太郎役が)堀さんにならなかったのかと聞かれ、「お偉い様がお決めになったこと」と、もう一点、次のように答えています。
「
TV出演が条件だったから。私は声やお芝居の仕事をしているけれど、タレントさんではないから [
顔見せ] だけでTVに出るのは好きじゃないのよ。それにこんなおばさんが声をやってます!と出ていったら
夢が壊れちゃうでしょ(笑)」(「NEO UTOPIA」第15号掲載記事より引用)
テレビ局というのは、どうしても
話題性=視聴率さえ取れれば子どもの夢などどうでもいいと考える傾向があり、子どもの夢を第一に考え、テレビ出演を拒む堀さんの姿勢には、本当に頭が下がる思いです。私がかつて子どもだった頃は、テレビから聞こえてくる声は、あくまで
ハットリくんの声であり、堀さんの声ではありませんでした。そして、そのことこそが、堀さんを
名声優たらしめている大きな要素なんだと確信しています。
もっとも、声優がそのファンの要望に応える形で、テレビに出たり、(出演しているアニメ作品とは関係のない)CDを出したり、コンサートを開いたりすること自体を、全否定するつもりはありません。声優としての経験豊富な方々が、バラエティやドラマに活動の場を広げることも、声優という職業をきちんと務めた上でのことであれば良いと思います。
戸田恵子さん、
山寺宏一さんなど、多方面で活躍されていますが、あくまで声優として出演するときには、必ず縁の下の力持ちに徹した活動を行っています。これはたいへん素晴らしい姿勢だと思います。
しかし、決して声優としての力量が高いともいえず、アイドル活動などの方を中心にされている「声優」の姿を見ると、やはり
本末転倒というか、その人を「声優」と呼ぶことに抵抗を感じてしまいます。これは80年代にその片鱗があり、90年代には定着した感がありますが、私としてはあまり良い気分でその現象を見ていませんでした。
声優人気が過熱していた、90年代の「アニメージュ」などで、ファン投票の上位に必ず顔を出していた
林原めぐみさんは、「アニメ声優は、自身が表舞台に立つことで、児童の持つアニメキャラクターのイメージを、絶対に損なってはいけない」※というポリシーがあり、テレビ出演などをあまり好まれないといいます。林原さんは、かつて「チンプイ」の
エリ役で、前述の堀絢子さんと共演されていました。当時まだ若手声優だった頃ですが、大先輩でもある堀さんから受けた影響も大きかったのではないかなと、堀さんと同様の発言をされていることが頼もしく思えてきますし、「チンプイ」ファンとしても嬉しい限りです(^^)(※発言内容は
ウィキペディア掲載記事より引用。大元のソースは不明です)
その昔「声優」という職業がまだ確立していなかった頃、アニメや映画の声を吹き替える仕事というのは、
舞台俳優のアルバイトでした。のび太役を長年務めてこられた名声優・
小原乃梨子さんの著書「声に恋して」などに詳しいのですが、いま手元にないため引用は出来ません。その昔、
劇団四季の俳優も、
日下武史さんなどの重鎮が、洋画の吹き替えなどをテレビ草創期の頃に多数担当していたといいます。この頃はまだ「声優」という職業が確立していたとはいいがたい時代でした。時代が下り、テレビ放送が本格化し、洋画の放送やアニメの放送が活発に行われるようになると、声の出演のみを専門的に行う俳優の需要が高まります。それがいわゆる「声の俳優」すなわち「声優」でした。
かなり後になって劇団四季は、ディズニー映画「
ノートルダムの鐘」の日本語版吹き替えを、ディズニー側の要請(舞台「美女と野獣」がロングランヒットしていた実績が買われたため)により、演出から出演までフルで担当することになりますが、主人公カジモド役を演じた
石丸幹二さんをはじめ、初めて声優をやったということが、信じられないほどの名演を見せてくれました(全員という訳ではなく、ちょっと演技がヤバい人も少しだけいましたが

)。前述の日下さんも
フロローという、ディズニーキャラでも
屈指の悪役を演じていますが、もはや日下さんが
フロローそのものといって良いほどのハマリっぷりで、声優って、声が合う、合わない以前にやっぱり
演技力が肝心なんだなということを、改めて気付かせてくれたものでした。
話が声優史にまで入ってしまうと長くなってしまうので、この辺にしておきますが、私が言いたいのは、元来声優とは「
声の俳優」なんだという当たり前の事実です。
「ドラえもん」の声優交代騒動などを見ていると、この当たり前のことが歪められつつあることを危惧せずにはいられなかったのです。
「ドラえもん」が声優交代騒動の渦中にあったとき、当時、関係者のインタビュー(本当に関係者なのかどうか疑わしいものも多かったように思いますが)としてスポーツ紙などが報じたものの中に、次のような内容がありましたよね。
- 次期ドラえもん役に泉ピン子さん or 細木数子さんか?
- テレ朝アナウンサーなどからも公募
- (ドラえもん役は)子どもでも構わない
つまりアニメにおける「声優」という役割を、「
声を演じる」ではなく「
声をアテる」程度にしかとらえていないのではないかということです。
大山さんに
声が似てればそれで良いのか、同じ声の職業でも、ニュースを正確に読む能力が求められるアナウンサーと、声だけで演技をする力が絶対に必要な声優とは、
まるで異質な職業だということに何で気が付かないのか、大人でさえ難しい「子どもに夢を与える」という仕事を
子どもに担わせてどうするのか、また
声変わりにどう対処する気か、本当に
長寿番組にする気があるのかなど、当時の「関係者」に対する不安材料の山積に憂鬱になってしまったものでした。
結果的には、声優選考に携わったスタッフの中にも、良心を持った人がいたのかどうかわかりませんが、選ばれた新キャストは
プロ声優が中心の顔ぶれでした。
これには安心しました。安易な芸能人の起用には走らず、新ドラえもん役に大山さんとは全く似ていない声質の
水田わさびさん、多数の作品への出演実績がある新しずか役・
かかずゆみさんと新スネ夫役・
関智一さんという配役に決まったからです。ママなどの脇役にも、かつてのアニメ作品で、ヒーロー・ヒロイン役等で活躍されていた、ベテラン声優(
三石琴乃さん、
高山みなみさんなど)を配されたのも、たいへん心強いことでした。
とはいっても、声優(ほぼ)初挑戦という新のび太役・
大原めぐみさん、当時
14歳という年齢の新ジャイアン役・
木村昴さんの2人には、かなりの不安を抱かずにはいられませんでした。しかし放送開始から1年半たって、当時の2人に対する不安は、かなり払拭されつつあるのを感じています。
特に大原さんの成長は素晴らしいものがあります。もともと声の雰囲気としては、前任の小原さんに少し似ているのですが、あの往年の名声優・小原さんと新人声優が比較されてしまうのは、仕方ないとはいえ、いくらなんでも
可哀相すぎると思っていました。それだけ実力の差は歴然としていました。しかし、大原さんも1年半という長期間レギュラー出演を務め、さらに劇場版も担当したという経験を通じて、今では十分
のび太になっていると感じています。もちろん聞く側の「慣れ」もありますが、演技力も着実に身につけてきています。もはや後には退けない、やるしかないという、
背水の陣ともいえる環境に身を置かざるを得なかったことで、相当に
鍛えられたのではないでしょうか。大原さんの声を「
のび太の声」として聞いて、今では納得もできますし、違和感も感じなくなってきました。
声優ほぼ未経験の人を、長寿番組の主役クラスにという、あまりにも無謀というか、
見切り発車の感が否めなかった人選も、今となっては結果的には正しかったんじゃないかと思っています。ただ、あくまで「結果として」ですけどね。
木村さんには最初から
ある種の貫禄がありました(笑)。ただ、演技という面になると、まだ発展途上な面も多々ありますが、彼の場合はこれで限界というわけではなく、まだまだ成長する余地が残されています。なんといってもまだ
16歳なんですからね。彼が20歳、25歳になったとき、どんなジャイアンを演じているかで、彼の声優としての真価が問われるんじゃないかと思っています。大原さんにしても言えることですが、ぜひ「ドラえもん」以外の作品にも出演して、演技を磨いて頂きたいです。
「ドラえもん☆ミニアルバム2」に収録された「
そこのけ!ジャイアンさまだ」という曲で
ジャイアンとしての歌声も披露しており、これがなかなか楽しい迷曲です(^^)。木村さん本人は歌が上手いらしいですけどね(笑)
さて肝心のドラえもん役・水田さんですが、最初に声を聞いたときは「
ええー!?」って感じでした(笑)。もちろん、大山さんのイメージを引きずった人選は、私が一番避けて欲しかったことではあるのですが、そんなことを思いつつも、26年間も聞いてきた声の印象というのは強いもので、意外な高い声に驚いたのを覚えています。
ドラえもんというより、
オバQに合いそうな声だなとも思いました。ちょっと
伊倉一恵さんに似た雰囲気も感じていました。最初に聞いたのは「
愛・地球博」で流れるというCG映像に当てられた声で、ますますアニメのドラえもんの声というイメージとしては、つかみづらくもなっていました。
それで放送が開始されたわけですが、やっぱり大山ドラの印象があったため、最初は戸惑いもありました。その当時の声は、今も流れる
ココスのCM(大山時代のアニメをそのままに声だけ変えられたもの)で聴くことが出来ます。
でも、聞いているうちに、だんだん彼女の声をドラえもんとして捉えることが出来るようになってきました。
大山のぶ代さんは、ドラえもんを友達というよりも「
子守ロボット」である点に着目し、
丁寧な言葉遣いに気を配った芝居作りに心がけてきたといいます。
今になって、このことを批判する向きもありますが、私はこのこと自体は悪くなかったと思います。「
ぼく、ドラえもんです。ウフフフフー」という特徴的な話し方や
笑い声は、これはこれで、アニメ版ドラえもんの重要な要素であり、面白さの1つでもあったのです。そのことを理解していたからこそ、藤子先生は長年、大山さん演じるドラえもんに全幅の信頼を寄せていたんじゃないかと思うのです。
しかし、リニューアル後の作品が「
原作回帰路線」であるなら、事情は変わってきます。
ご存じのように、原作のドラえもんは、のび太に対して、わりと
ぞんざいな接し方もしていますし、のび太のあまりにバカな発言に「
アホか」と言い放つシーンまであります(笑)。たしかに子守ロボットではありますが、それ以上にのび太の
友達、あるいは
兄弟の要素の方が強い描き方をしていると思うのです。原作では「のび太」と
呼び捨てです。
もっとも、原作回帰路線といっても「何でもかんでも原作と同じにすれば良い」という性質のものだとは思いません。アニメとして26年間定着していた要素まで変える必要はなく、「
のび太くん」というアニメ独自の呼び名も、残して良かったと思っています。
しかし、ドラえもんの性格を原作に近づけるとなると、それまでのアニメ路線の踏襲ではやっぱり何かが違ってきます。そこに水田さんの
友達感覚な話し方がマッチしていて、良い効果をもたらしたのではないでしょうか。
新声優の皆様には、前任者が26年やってきたという重いプレッシャーに耐えて、本当によく頑張ってくれていると、一ファンとしてたいへん感謝しています。良い意味で「縁の下の力持ち」として、これからも番組を支えていって欲しいと願っています。
しかし・・・困ったのは
番組制作サイドの態度です。
ドラミ役の新声優に
千秋さんが決まりました。彼女の声自体は、今のところ無難にこなしていて、今後の作品を観ないことには何とも言えませんが、そんなに合わない声でもありませんし、これから出演を重ねていくうち、しっくりしてくるんじゃないか、役になじんでくるんじゃないかと期待しています。
しかし、
番組としての盛り上げ方が、あまりにも駄目すぎます。はっきり言ってしまえば、
お寒い演出が過ぎるのです。
冒頭の堀さんの発言などを合わせて考えてみても、「
ドラミ復活プロジェクト」などは、子どもの目に触れるところでは、むしろ
やってはいけないことだったと思います。
何かバラエティ番組などの中でやる分には、そこまで目くじらを立てる必要もなかったと思います。だって子どもがそれを「見ない」という選択だってできるわけですし、親だって見せる必要がないと思えば見せなければ良いだけなのです。
しかし「ドラえもん」の枠内でやってしまうと、子どもは
見たくなくても見てしまうんです。ドラミちゃんの声をやってる人が、千秋さんというタレントだと
子どもに見せつけることに何か意味があったのでしょうか。子どもにとっては「
ドラミちゃんが出ている」ことだけが重要なのであって、それを誰が演じてるかなんて、知る必要のないことではないでしょうか。
そういうこと(声優など)に興味をもつ年齢になれば、子どもだって自分で調べるようになります。それなのに、そこまで至っていない小さな子どもに、
サンタクロースの正体を見せつけるようなマネだけは、絶対にやめてもらいたいのです。
こんなこと、藤子先生がご存命であれば、
はたして許可したでしょうか。「
子どもを見下ろす形になってはいけない」と、ぬいぐるみの制作にまで注文をつけるほど、
子どもとドラえもんの距離を大切にしてきた先生が、ですよ。
「子どもがアニメを観なくなった」と嘆く前に、「
子どもに観てもらえるアニメを作る」ことが重要なのではないでしょうか。
視聴率は、あくまでその
結果なんじゃないでしょうか。「ドラミ復活プロジェクト」やら、サブタイトルの前に変なコメントを入れることをやって、
少しでも視聴率が上がったんですか?
本気で子どもたちに何世代にわたって愛される作品にしたいと願っておられるのなら、本当に、お願いだから番組制作者、藤子プロの皆様、もう一度よく考えて頂きたいです。あくまで「ドラえもん」は
子どもたちのものです。
・・・気が付けば、ほとんどタグ使わず
7000文字以上も熱弁してしまいました(汗)