蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造8 心理からの説明の上

2021年02月08日 | 小説
(2021年2月8日)
本年1月5日から「親族の基本構造」を紹介しています。導入部、自然から文化へ、遺伝劣化を防ぐための禁止と進みました(直近は2月5日)。
人は本能的にこれを忌避する、それを怖れる、この心理故の禁止説を取り上げます(本書第二章「近親婚の問題」の第二節19~22頁)。
<Un second type d ‘explication tend à éliminer un des termes de l’antimonie entre les caractères , naturel et social, de l’institution.(19頁)
(近親婚禁止の)第二の説は矛盾する性格を抱え持つ。自然的な発生原理と社会の仕組みが融合する訳がないのではあるが、これを無視し説明している。(第一は遺伝劣化説1月22日)


本書のタイトル頁


<la prohibition de l’inceste n’est autre que la projection ou le reflet , sur le plan social de sentiments ou de tendances que la nature de l’homme suffit entièrement à expliquer>(同)
人が抱える感情あるいは性向など、いわば自然的性格の吐出が社会制度に投影反映していると考えている。そうすれば「近親婚の禁止」は完全に説明できると主張する。
(心理を人が「自然に持つ性格」として位置づけ、その方向性を社会側が制度として規制する。それが近親婚の禁止であるとする。自然=忌避=を社会が制度化した、との説明である)
この説の変異型として<D’assez importantes variations peuvent etre notees entre les defenceurs de cette position , certains faisant l’horreur de l’inceste, postulee a l’origine de la prohibition , de la nature physique de l’homme , d’autres plus tot de ses tendances psychiques> (同)
この立場を取る学者のなかで有力な一群はその禁止は近親婚への怖れを挙げているし、他にもそれに傾倒する男の身体欲求(la nature physique)を理由としており、また別の立場は精神的憧憬(tendances psyques)からとも説明している。
怖れ(心理)、肉欲さらには心霊(psychiques)など自然側に属する事情の解決の為にこの制度が発生したとしている。古い言い回し「voix du sang」血の呼び声を例と挙げるが、この言い回しは本来前向きの意を持つが、否定的に用いているとも注釈を入れる。いずれも発生は「自然」からであり、社会が制度化するとしている。

上説の代表的心理学者Westermarck、Havelock Ellis(1859~1939年英国)らへの批判にはいる。
1 姦淫に至る近親との関係はとあるきっかけ、または多くが(幼年には共に生活せず)後に巡り会った(une connaissance supposee, ou postérieurement établie)場合にのみ発生する(と彼らは規定する)。
2 日頃顔をつきあわせている近親異性には性的興奮が発生しない。(la répugnance vis-à-vis de l’inceste s’explique par le role négatif des habitudes quotidienne sur l’excitabilité érotique. 性的興奮度に対して日常の接触が否定的に働く事で近親姦淫への忌避が説明できる。19頁)
これら2の指摘が心理説の根幹である、レヴィストロースの批判は;
2の性状を混同している。1平素を共にする配偶者は相手への性的興奮度が減衰する、こうした事情を例証として取り上げている。<d’introduire un élément de désordre dans tout système social社会システムのなかに不調和をもたらす=浮気の真因のことか、生物学者Millerの言>。近親間においても生活が一緒なのだから、それと同じ結果をもたらすとWestermarckらが説明し、よって制度に取り上げられたのだとしている。
この論理の進め方をレヴィストロースが否定した。指摘は「配偶者間おいては興奮の衰弱はあるかも知れないが、日常的に姦淫を実行していない近親間にもその傾向を当てはめるのはすり替え論理として」受け入れられないとしている。
<La moindre fréquence des désirs sexuels entre proche parents – s’explique par accoutumence physique ou psychologique , ou comme une conséquence des tabous qui constituent la proposition elle-même.>(20頁)近親間での姦淫事情が少ない理由に日常的に顔をつきあわせているから、そして禁忌の戒めも影響があると説明される。

日常….だから少ない、これをして<pétition de principe>と断定している。意味は「現象を関連の浅い事象で説明」すなわち「すり替え説明」であると。さらに追加されている「禁忌があるから禁止、だから少ない」は<On la postule donc en prétendant l’expliquer>(同)「説明しながらそれを公式としてしまう」であり、こちらもpetition de principeすり替えであると批判する。
その後、注目の発言が、
<Mais rien n’est plus douteux que cette preéendue répungance instinctive. Car l’inceste , bien que par la loi et les meours, existe ; il est même beaucoup plus fréquent qu’une collective de silence ne tendrait à le supposer. Expliquer l’universalité theorique de la règle par l’université du sentiment ou de la tendence、c’est ouvrir un nouveau problèmes ; car le fait prétendu universel ne l’est en aucune façon>(20頁)
訳:しかるに彼らが主張するとことの近親姦淫への本能的嫌悪については、これほど明らかな事象は他にない。なぜなら近親姦淫はそれを法で、また倫理で戒めているけれど、確実に実践されている。沈黙し、無視しようとも集団、社会が想定する以上にその頻度は多い。さらには規則の汎人類性(近親姦淫の禁忌)を感情、性向で説明する(Westermarqueら)展開は新たな問題を提起する。その汎人類性(感情)は決して証明されていないから。
訳の説明:レヴィストロースは逆説を用いた。近親姦淫への憎悪は確かだ、なぜならそれは多いから(それ故に少ないと前引用のWestermarqueらの説明とは逆)。

それが密かに、多く実行されている故に嫌悪を催す心理が生まれ、さらに制度で規制している。これを受けて「実行したいとする心理がある、だから禁止する」上記心理説とは「真逆の」心理説に入ります。続く。親族の基本構造8 心理からの説明上の了(2021年2月8日)


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