蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む2

2018年10月28日 | 小説
(10月28日)
モンマネキ神話(M354)は異種混淆の同盟4例をまず語ります。この筋に魚の起源、カヌー旅発ちを舞台道具として用います。魚の起源は前回紹介したので、カヌーでの旅発ちを引用する;
>>Il (Monmaneki) invita son beau-frere a l’accompagner dans la decente de rio Solimoes. Monmaneki se tenait a l’arriere, le beau-frere a l’avant. Il se laissaierent porter par le courant sana pagayer. Enfin ils arriverent au pay ou la femme -ara s’etait refugie. Toute la population accourut sure la berge pour voir la pirogue et ses passagers, mais la femme de Monmaneki se cacha dans la foule<<(食事作法の起源19頁)
拙訳:モンマネキは義弟をSolimoes川下りに誘った。彼は(カヌーの)艫に座し義弟は船首を占めた。オールをこぎもせず流れに任せるだけ、妻が逃げた(インコの)国に到着します。村人は総出、カヌーと旅人を見聞に岸に走りだした。妻は人混みに隠れていた。

この後の出来事は引用を省くが以下に;
義弟は隠れていた姉(モンマネキの前妻)を発見し。インコに戻ってその肩に留まる。モンマネキはカヌーを離岸させ遡るが転覆した。カヌーはSolimoes川の魚の産卵場となった。彼もインコに変身し妻の肩に留まる。しかしモンマネキは自分の村(人間社会)に戻ったーと続く。

Rio de Solimoesをwikiで調べるとマナウスでrio de Negroと合流する。その位置ですでに世界最大の河川で、合流点から下流をアマゾンと呼ぶ。アマゾン上流の一河川のSolimoesだが、これをアマゾンと呼ぶ場合もある。モンマネキ神話とは世界の大河を舞台とした広大な視界の広い冒険譚だったとは。
金剛インコとの婚姻は、カエルなど前3例が偶然の出会いで成り立ったに同盟であると較べ、継続できる同盟を形成しようとするモンマネキ(人間社会)の意志が反映されている。まず、義弟がモンマネキ社会に同居していた。モンマネキが居住を許したのだ。妻の後を追い、また同盟の修復を目的に義弟とともに川を下る。ここでレヴィストロースは、船首に漕ぎ手、船尾に操舵者を必ず設けるというカヌー(pirogue)独特の操舟技法を説明する。漕ぎ手は操舵者よりも社会地位が下位、役割は力仕事、ひたすら漕ぐだけ。ここに(下位の)義弟を置くのだが、舟行きは下りなので漕がずに進む。船旅下りとはインコ村は遠方にあるとの示唆である。
村に戻り姉を見届けた義弟は、カヌーから逃亡しインコに戻った。これでインコ同盟の破局が決まった。帰りの舟行きは川を遡上、しかもモンマネキの一人操舟、神話はすぐに転覆したと伝えた。pirogue操舟手練れのTukuna族民は、それは当然と受け止めるかもしれない。
澪筋にもんどり打ったモンマネキ、すぐさま作戦を変え己がインコに変身し、インコ村に定着する行動を取った(前妻の肩に止まる)。この方針転換の努力も最後のあがき、叶わずに同盟の再構築に失敗した。この失敗があってこそ、実は人間社会が文化を熟成できたのである。川下りし遠方で嫁を探すエピソードと、その結果としての社会構築は別の神話(M406麗しきアサワコ、Warrau族)に引き継がれる。

1~4の異種混淆の同盟を俯瞰すると、原初的偶然の(exogame族外婚)カエル同盟から、永続する形態で形成せんとするモンマネキの行動進展が読める。その間に魚が創造され、カヌー移動も発明される。人間社会の文化程度が徐々に熟成される。レヴィストロースはこの4話をして「異種から人と人との同盟」への架け橋(transition)としている(21頁表、写真)。


写真:同書21ページから。カエル婚から人の娘婚までの5例、4例がexogame(族外婚)、最終にendogame(族内婚)。インコは4例目で族外と族内を結びつける位置としている。

5例目でやっと人間の娘との婚姻(endogame)にたどり着くのですが、妻は奇怪な形態を取ります(前回で一部紹介)。上下が脱着する妻は、行き場を失った上半身がモンマネキにしがみつく。しがみつき女が「転がりがん首」に変化し、女性男性の入れ替わりもあり、月の創造神話につながってゆく。

老母は(M1=bororo族の「火の起源神話」が伝える洪水で生き残った祖母と同人物)は息子モンマネキが同盟を形成するたびに介入し、カエルや地虫の妻を追い出し、鳥もいびり同盟を破壊する。母のこの行動をどのように解釈するか。モンマネキ神話とはM1神話(火の起源、bororo族)の続きなのでM1テーマにその示唆を求める。すると姑が息子の嫁に嫉妬して嫁を追い出したなどの人間しがらみ模様では全くない。

M1での火はカマドの火です。稲妻の火でも森林火災でもない、人が制御し調理に使う火。自然の習慣、生肉喰らいから脱し、料理する人間社会humaniteの文化を維持するために火が位置づけられる。自然と文化の仲介役(mediateur)とレヴィストロースは定義します。
空には天の火が、地には地上の火が燃える。高き天から低き地へと流れ落ちる、高さの変位は連続している、それが自然の摂理。
文化としての火は天上にも地べたにもなくカマドの高さに位置を占める。天地の連続に断絶をもたらすカマド火は自然と文化の仲介者mediateurであるとの主張です。

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む2の了
(次回投稿は10月31日予定)

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