蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

猿でも分かる構造主義 2

2017年04月08日 | 小説

表題の1は4月5日、1の続きは6日に投稿

レヴィストロースが構造主義を展開する段階でソシュールの言語学・記号論に影響を受けているとは人口に膾炙している(アメリカで亡命生活だった1945年に同僚だった言語学者ヤコブソンを通して)。その理論は言語とは意味するもの=signifient,シニフィアン=と意味されるもの=sgnifieシニフィエ=に対立させ、この対立構造を記号(signeシーニュ)とした。ソシュールはフランス語地域のスイス人なのでフランス語で著作したからそのまま使います。
その関係はさる構造主義の解説書で縦に並べていたが、それが混乱のもと。横に並ばせると後々に、メルロポンティとの関連で理解がしやすくなる。下をご覧ください。
記号とは;
signifient=意味するものVS signifie=意味されるもの
目の前の現実の存在 VS 頭に浮かべる表象あるいは(思想)

たとえ話で説明する。多くの方がイヌを取るので投稿子も倣う。
ある人(K)の前を四つ足動物が歩いていた。Kは「イヌである」と隣人に告げた。隣人は「正しい」と答えた。Kはどの様にしてイヌと判断したのだろうか。四つ足、毛皮、とんがり鼻、尻尾(タレと巻きのいずれか)、歩き様、Kは鋭敏な嗅覚を持たぬが、そうした御仁なら臭いも材料だったろう。主に視覚で総合判断をして、目の前のsignifientとは己が頭に抱くイヌ(signifie=意味されるもの)と対照して紐つけし、この結合が成り立つと判断した。隣人も同じ言語と文化で育ったから、頭にイヌの表象を(Kとほとんど同じ形態で)持つので合意した。
記号論はこれで終わり、言語学者はハピー。しかしレヴィストロースは哲学志向を抱く社会人類学の徒、その上無神論者だったので終わらない。

ふと湧いたレヴィストロースの疑問とは:
1 目の前の四つ足をイヌではないかと疑い、認識した仕組みとは何だろうか? 
2 人の頭が抱くイヌという思想(=レヴィストロースはイデオロギーと語るTristesTropiquesポケット版169頁、投稿子はこれを理解の方便として「表象」としたい。)とは一体なにか?
3として1と2を結びつける知性はどこから来たのか。

デカルトならばこれら3問に即座、答えを出す。目の前の動物は神が創造したイヌだから(1の答え)。頭に描くイヌとはイヌ存在の本質エッセンス(2)。知性は神から授かった(3)。

一方反デカルトのレヴィストロースは以下に考えた(TristesTropiquesの各章から)
言語学ではまずsignifientありき。イヌがいるからそれらを取りまとめて「イヌ」と記号化した。しかしイヌがいてもそれらに記号をつけない民族だってあるから人類学的には記号論では不十分。

レヴィストロースは上記の論証としてブラジル中央部のナビクヴァラ族を上げている。彼らは物資を極端に切りつめた移動生活を営む。例えば南米では一般のハンモックを持たず地べたに寝る。一方で狩猟、時には隣の部族との闘争で使う毒薬の製造には長けている。毒薬に使える草木の知識は広範かつ精緻である。同じ種とレヴィストロースには見える形状でも年数、季節、生育場所などの差で名称を変える。しかし、それ以外の草木について知識は貧弱である。レヴィストロースが「この草の名は」と質したら大笑いされた。その理由は「役にも立たない草の名など無い」と。
狩猟に日々の糧をゆだねるナンビクヴァラ族にとり毒薬は必須である。毒草を見つけた途端どの動物、時には人間に効くかなど利用を決めている。毒薬というイデオロギーがあって、材料としての毒草が名称付けられる。朝鮮朝顔やらトリカブト(=これらはブラジルにも同属があるとか)はsignifientの地位を享受できるが、それ以外は名前を持たない。

昭和天皇のエピソードを思い出させる。侍従が「今年の夏は雑草が茂って」と申し上げたら天皇は「雑草と云う名の草はない」とお答えなされた。昭和天皇にとり道端の名の知られない草とて花を咲かせ、茂みを形成して時に人を楽しませている、草木の知識(=イデオロギー)の地平をこのように拡げているお方なので、雑草・役に立たないというおおざっぱな侍従イデオロギーには賛同出来なかったのではあるまいか。
物のsiginifieとは社会人類学では思想、イデオロギーである。そのイデオロギーがsignifientこと存在(=レヴィストロースでは存在する形態=formed’existance)と2重性の対立構造(dualite)を持っている。言い換えればまず理念、思想があって、それが物に具象化されている。構造主義に近づいてきた。

(猿でも分かる構造主義 2の了。次回3の出稿は4月11日)
コメント
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