蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

イモリノーベル賞 後譚 1

2012年08月30日 | 小説
昼寝してたので電話が鳴るのにも気づかなかったが、助手が取ってくれた「ヤマナカセンセーからです」との取り次ぎ。名前で儂はピンときた。
「やはり来たな、共同研究の申し入れだ」とはすぐに見当がつく。ブログ子(部族民・渡来部)が世間にあまねく提案した「イモリノーベル賞」(=イモリでノーベル賞確実、8月12日投稿を参照してくれ)のご当人から早速の反応に間違いがない。
ゴホンと咳を払っておもむろ受話器を取った。以下はセンセーと儂との会話じゃ。
「キミのブログは少しも面白くないな」
喧嘩売りの電話か~、センセーともあろう大人物が大人げないとは思っても口には出さない。なにせ相手は大教授だからな、部族民は上には弱いんだ。
「その上大間違いしてる」
教授は追求をゆるめない、頭に来たけどこれぐらいの勢いがなければノーベル賞級の成果は出せないんだと許してやって、
「ヤマナカセンセー、貴重なご指摘カンルイ物ですが、どこかが間違っていると」
「ヤマナカはやめてくれ、儂はヤマノナカだ。一字違いで似たようなモンだ」
「なんだすっかりヤマナカ教授かと誤解しちゃった。でもね一字違えばそれは全くの別の人ですよ」
「教授にはまだなってない、研究所はヤマノナカにあるけれど、今のところ設備は樽だけだ。論文は出てない。しかし立派な研究者なのだ、イモリとヤモリとトカゲの料理とか味にはウルサイ」
「ノーベル賞にはさぞかし遠いとこにいるんですね。あのヤマナカ教授とは段違いだ」
「取り次いだ者が聞き違えたのだ、二度と間違い起こさぬようにしっかり叱れ」

さっき助手と言ったがこれは格好つけすぎで、実は家人だ。家人を叱ったら儂が追い出されてしまう。何しろ著作活動に没頭するあまり三年間無収入で「いつ焼き鳥よっちゃんの下働きバイトに出るのですか」と脅されている身だからな。

「イモリを十年食いつづければイモリ手の再生力を獲得できる(=投稿を参照)、これがキミの言い分だが、根本的に間違いだぞ」
オットー、やっぱり来たな。あの研究テーマはこの点がキモなんだ。ここはガクジュツ的には微妙で、ツーカいまだ証明されず否定だけされている。それは誰も彼も、あの事実を知らないからだ。

ノーベル賞は絶対に取れない相手からだから迷惑電話だけれど、根が親切な儂はヤマノナカ氏に丁寧に答えた。

「ある種の食物を食べ続けると遺伝形質も変性する。これはあるのですよ、私は格好の例を知っている」
「それこそまさに儂ヤマノナカが探していたテーマだ、儂は、アァ、証明できなかった。部族民なるキミが証明したというなら、この場で聞いてやっても良いぞ」

うってかわった真剣ぶりは電話口からも感じられた。もしかしたらヤマノナカ氏は冒険的実験で手の一本くらい失っているかも知れない。イモリを10万匹集められなかったのだね、きっと。
そこで儂は友人の例を話し始めた。この例こそイモリでノーベル賞をとろうと意気込んだ原点なのだからな。
生きながら生命体が変化して、別生命体になってしまった友人の奇怪、驚愕の悲劇形態、おぞましさを今回世界で初めて、ヤマノナカセンセーに伝える任を自ら許した。彼の名はタケイ(仮名)、そのおどろしき身体変性、常人とは思えない挙動、恥じることもなく、かの生きる地、日野市なる田舎で公共の耳目にひけらかしている図々しさ。
「タケイの例を出せば納得するさ」
本当はヤマナカ大教授に話すつもりだったけれど、一字違いなので奴にも話してやった。タケイ(仮名)の見るも恐ろしく、しかしフンパンしちゃう変質の実体を。
「キャー」ヤマノナカの叫びが電話口で聞こえた。
(続く)
コメント
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