素晴らしい論文を読んだ。(株)ちばぎん総合研究所社長・額賀信(ぬかが・まこと)氏が書かれた「人口減少社会の地域活性化戦略」(「地銀協月報」08年1月号)だ。感心のあまり3回読み返した。その都度、違う色の蛍光ペンでなぞっていると、白い部分がほとんどなくなってしまった。これから4回目を目で追いながら、要旨を紹介する。
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○地域経済と人の役割
人は1国の経済活動で、生産者、消費者、納税者という3つの役割を果たしている。このうち人口が減って経済に最も深刻な影響を与えるのは、消費者としての役割である。即効性のある対策に乏しく、売上高の減少という形で企業経営を直撃するからだ。人口減少社会は、消費市場の縮小というプロセスを通じ「中小企業」の「非製造業」にとって、最も厳しい社会となる(製造業なら輸出ができるし、大企業だと国際展開するゆとりがあるから)。だから中小の非製造業のウエイトの高い地域ほど、人口減少の影響をより大きく受けて、地域経済に縮小・衰退の力が加わる。
○地域の活性化
経済面での「地域活性化」とは、雇用と所得(つまり仕事とおカネ)が安定的かつ自律的に生まれてくるような状況のこと。地域経済が活性化しない理由は
1.「工場誘致と公共投資」という戦後から1990年代まで続いた地域活性化モデルの2本柱が機能しなくなり、しかもこれに代わる新たな活性化モデルを見出せていないから。
2.人口減少が地域の購買力(=需要)を落としており、それが中小の非製造業者を圧迫しているから。
上記の状況を打ち破って地域を活性化するためには、観光振興が不可欠だ。人口減少地域で購買力を高めるには、他の地域から人を呼び寄せなければならない。観光振興で利益を得るのは観光事業者だけではない。おカネは地域で回り、それが地域繁栄の根っこになる。「人が訪れてくれる地域にする」ことが、自治体による地域づくりの原点だ。だから地域間競争の核心は「人の誘致競争」である。
○観光戦略
3つの提案をしたい。
1.観光を「地域の魅力を高めて、それを発信し、所得を得ること」と定義づける。観光の基本は地域づくりだ。発信は、その地域の特性を伝えることだが、これがみんな苦手だ。こうした状況を変えるためには、誘致活動を組織的に続けなければならない。誘致活動の本質は「地域の人々が自分たちの地域の魅力に気づくこと」だ。これでリピーターを獲得しよう。観光政策の要は「リピーターの養成」だ。
2.季節変動を平準化する努力をしよう。そのためコンベンション、高齢者、外国人を誘致する工夫をしよう。
3.観光統計を活用しよう。07年1月以来、国交省から「宿泊旅行統計調査」が公表されているが、これは地域の通信簿。観光統計を参照しながら観光施策をよく考えよう。
○観光は地域なり
かつて「鉄は国家なり」と言った。鉄は産業の母であり、製鉄業こそが国家を支える基幹産業だった。これからの観光は地域経済を支える最も重要な基幹産業である。だから「観光は地域なり」だ。この言葉が地域に根づき、観光が地域活性化の牽引力となることを期待する。
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耳の痛い言葉が随所にある。「中小非製造業のウエイトの高い地域」とは奈良のことだし、奈良は情報発信が非常に苦手で遅れている。季節変動が激しく、オフシーズンは閑古鳥が鳴いている。地域の通信簿(観光統計)で、奈良はいつも赤点だ。
しかし、これで頭の中がスッキリと整理できた。大切なのは「人の誘致」であり、そのため「地域の魅力を高め、それを発信」して「リピーター」(奈良ファン)を養成しなければならない。「季節変動を平準化」するための手立てを講じ、成果は「観光統計」で確認する…。
ちばぎん総研は千葉銀行関連のシンクタンクで、額賀氏は元日本銀行神戸支店長。同社のホームページには「社長ヌカちゃんの部屋」というコーナーがあって、氏が執筆された論文やエッセイが読める。
http://www.crinet.co.jp/president/index.html
ここに収録されている「観光が活性化の決め手 地域の魅力を再発見し観光資源を成長に生かす努力を」(「週刊エコノミスト」07年 7月 31日号) という論文も、とても参考になる。
http://www.crinet.co.jp/president/thesis/20070725.html
額賀氏が、きわめて論理的に「なぜ地域活性化に観光振興が欠かせないか」のプロセスを解明して下さったおかげで、一筋の光明が見えてきた。観光が地域振興の起爆剤だという直感は、間違っていなかったのだ。「観光は地域なり」。ぜひ観光をテコに、この奈良を元気にしよう。
※写真は大和郡山市松尾山の松尾寺三重塔。この寺は舎人親王の開基と伝える。奈良盆地に今冬2度目の雪が積もった2/3(節分)に撮影。
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○地域経済と人の役割
人は1国の経済活動で、生産者、消費者、納税者という3つの役割を果たしている。このうち人口が減って経済に最も深刻な影響を与えるのは、消費者としての役割である。即効性のある対策に乏しく、売上高の減少という形で企業経営を直撃するからだ。人口減少社会は、消費市場の縮小というプロセスを通じ「中小企業」の「非製造業」にとって、最も厳しい社会となる(製造業なら輸出ができるし、大企業だと国際展開するゆとりがあるから)。だから中小の非製造業のウエイトの高い地域ほど、人口減少の影響をより大きく受けて、地域経済に縮小・衰退の力が加わる。
○地域の活性化
経済面での「地域活性化」とは、雇用と所得(つまり仕事とおカネ)が安定的かつ自律的に生まれてくるような状況のこと。地域経済が活性化しない理由は
1.「工場誘致と公共投資」という戦後から1990年代まで続いた地域活性化モデルの2本柱が機能しなくなり、しかもこれに代わる新たな活性化モデルを見出せていないから。
2.人口減少が地域の購買力(=需要)を落としており、それが中小の非製造業者を圧迫しているから。
上記の状況を打ち破って地域を活性化するためには、観光振興が不可欠だ。人口減少地域で購買力を高めるには、他の地域から人を呼び寄せなければならない。観光振興で利益を得るのは観光事業者だけではない。おカネは地域で回り、それが地域繁栄の根っこになる。「人が訪れてくれる地域にする」ことが、自治体による地域づくりの原点だ。だから地域間競争の核心は「人の誘致競争」である。
○観光戦略
3つの提案をしたい。
1.観光を「地域の魅力を高めて、それを発信し、所得を得ること」と定義づける。観光の基本は地域づくりだ。発信は、その地域の特性を伝えることだが、これがみんな苦手だ。こうした状況を変えるためには、誘致活動を組織的に続けなければならない。誘致活動の本質は「地域の人々が自分たちの地域の魅力に気づくこと」だ。これでリピーターを獲得しよう。観光政策の要は「リピーターの養成」だ。
2.季節変動を平準化する努力をしよう。そのためコンベンション、高齢者、外国人を誘致する工夫をしよう。
3.観光統計を活用しよう。07年1月以来、国交省から「宿泊旅行統計調査」が公表されているが、これは地域の通信簿。観光統計を参照しながら観光施策をよく考えよう。
○観光は地域なり
かつて「鉄は国家なり」と言った。鉄は産業の母であり、製鉄業こそが国家を支える基幹産業だった。これからの観光は地域経済を支える最も重要な基幹産業である。だから「観光は地域なり」だ。この言葉が地域に根づき、観光が地域活性化の牽引力となることを期待する。
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耳の痛い言葉が随所にある。「中小非製造業のウエイトの高い地域」とは奈良のことだし、奈良は情報発信が非常に苦手で遅れている。季節変動が激しく、オフシーズンは閑古鳥が鳴いている。地域の通信簿(観光統計)で、奈良はいつも赤点だ。
しかし、これで頭の中がスッキリと整理できた。大切なのは「人の誘致」であり、そのため「地域の魅力を高め、それを発信」して「リピーター」(奈良ファン)を養成しなければならない。「季節変動を平準化」するための手立てを講じ、成果は「観光統計」で確認する…。
ちばぎん総研は千葉銀行関連のシンクタンクで、額賀氏は元日本銀行神戸支店長。同社のホームページには「社長ヌカちゃんの部屋」というコーナーがあって、氏が執筆された論文やエッセイが読める。
http://www.crinet.co.jp/president/index.html
ここに収録されている「観光が活性化の決め手 地域の魅力を再発見し観光資源を成長に生かす努力を」(「週刊エコノミスト」07年 7月 31日号) という論文も、とても参考になる。
http://www.crinet.co.jp/president/thesis/20070725.html
額賀氏が、きわめて論理的に「なぜ地域活性化に観光振興が欠かせないか」のプロセスを解明して下さったおかげで、一筋の光明が見えてきた。観光が地域振興の起爆剤だという直感は、間違っていなかったのだ。「観光は地域なり」。ぜひ観光をテコに、この奈良を元気にしよう。
※写真は大和郡山市松尾山の松尾寺三重塔。この寺は舎人親王の開基と伝える。奈良盆地に今冬2度目の雪が積もった2/3(節分)に撮影。