tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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三浦雅之氏の「食卓を吹く7つの風」

2009年02月14日 | グルメガイド
株式会社「粟」は、2001年(平成13年)にオープンして話題となった「清澄の里『粟』」(奈良市高樋町86)に続き、「粟ならまち店」(奈良市勝南院町1番地)を1/19に出店した。

「清澄の里『粟』」には3年前にいちどお邪魔し、当ブログでも紹介したことがある。予約を入れていなかったので喫茶だけの利用だったが、裏の畑からヤギ小屋までご案内いただいた。
※田の神さま(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/27e83540ac302421b850b5c871917f7d

「粟ならまち店」は近いので、オープン早々にお邪魔して、お昼の「粟『収穫祭』御膳」(2,900円)をいただいた。とても美味しかったので当ブログで紹介しようと思ったが、すでに1/22付の奈良経済新聞(ネット新聞)に、行き届いた紹介記事が載っていたのを知った。
http://nara.keizai.biz/headline/56/


粟ならまち店

そのうち奈良新聞「シニア瓦版 特別号第1回」(1/29付)に、「食から見た健康づくり」という全2ページの対談が掲載された。《食の原点「医食同源」》というタイトルの、三浦雅之氏(株式会社「粟」社長)と佐伯省吾氏(西大和さえき料理長・株式会社グルメジャパン社長)による興味深いお話だった。この対談記事はネットには掲載されていないので、ここでピックアップして紹介したい。写真はすべて、粟ならまち店で「粟『収穫祭』御膳」をいただいた時のものである。


地場野菜などの前菜

●三浦雅之氏の発言
《かつての日本は、お百姓さんの仕事がしっかりとその地域の気候風土に根ざしていました。そしてそこから生み出される食卓の中には、風土、風景、風習、風俗、風情、風格、風味という「7つの風」が息づいていました。ところが昭和38年に農業基本法が制定され、自給農業から農業の工業化がスタートすることによって食料の安定供給と引き換えに、7つの風が失われていきました》。7つの風とは、言い得て妙である。土地(風土、風景)とヒト(風習、風俗)と食べ物(風情、風格、風味)が、ガッチリと結び付いていたということなのだ。

《現代の飽食は莫大な石油エネルギーと発展途上国の農業生産によってささえられており、「持続可能性」、そして「エコロジカル」な観点から考察しても、日本の食のあり方をもう一度見つめ直さなければならない時期にあると思います》。


ヤマノイモの一種・仏掌(ぶっしょう)芋

《伝統野菜を育ててこられた多くの方々とお会いしているうちに、興味深い相関関係に気がついたのですが、それは伝統野菜が残っている地域には比例してお神楽などの伝統的な芸能、そして生物の多様性に美しい景観が残っていることが多く、また生涯現役で働いている方が多いということです。食を通して地域間と世代間が結びつき、人の結びつきが地域の文化を、そして役割と生きがいを生みだしてゆく、そんな関係が野菜の種を通してもたらされているように感じさせられています》。


サトイモの一種・烏播(ウーハン)。奈良市高樋町の農家で作り継がれてきた

●佐伯省吾氏の発言
《社会が豊かになって食生活が豊かになること自体は、私はいいことだと思います。ただ、その民族や社会に伝統的にある食文化との整合性が問題であると思います》。

《日本は、世界的に見て長寿国です。それは根野菜を自分の身近なところで農産物として生産し、タンパク源は魚をベースにして摂取してきたからです。したがって、老人になってからも健康で長寿という社会が長く続きました。自然界でも、草食獣は長命ですが、肉食獣はどうしても短命です》。


天理産のイチゴ・ゆめのか。甘味と酸味のバランスが絶妙だ

《ファーストフード店が30年ほど前から目に付くようになりました。すると、食事をいただくのに箸(はし)がない。やがて箸を作る職人がいなくなります。そして箸だけではなく、陶磁器の器を作る職人もいなくなります。また掛け軸や蒔絵(まきえ)など、食にまつわる広い文化が衰退し、それを支える担い手がいなくなってしまうのです》。

《フランスでは4百年前でも手で食べていました。日本は平安時代には2本の箸で食べていた歴史があります。日本の食のあり方も考えてみる必要があります》。


ゆめのか1粒は、こんなに大きい

●対談の最後に
三浦氏は、対談をこのような発言で締め括っている。《熟年世代の方々は、日本の生活文化が気候風土に根ざしていた時代を、体感として感じることができた最後の世代でいらっしゃると思います》。



リタイヤ組が《家庭菜園や、援農、市民農園などをしながら、またお仕事を通して培ってこられた得意分野を生かして地域や社会のために貢献していかれる。このような方々が増えていけば、小さな地域や、顔の見える範囲で気候風土に合った、農と食、そして医食同源といった人と自然の関係性、そして熟年世代の方にとっては懐かしく、若い世代の方にとっては新しい日本の食に対する価値観が再構築される一助となってゆくのではないかと思います》。


私たちは軽々しく「食は文化だ」などということがあるが、背後にはこのような深い意味があったのである。人は自然の力で生かされており、人と自然の関わりの中で人間同士の関係性を築き上げている。そのことを「食」を通じて、今一度しっかりと理解しなければならない。

日本の食糧自給率(カロリーベース)は40%に過ぎない。これは主要国の中でも最低である。ドイツなどは84%もあるのに。昨今の不況のなかで、「もっと農業に人材を振り向けよう」という動きがあり、私は注目している。風味、風情、風格、風景、風土、風習、風俗の7つの風(「短けど士族」と覚えた)が、再び1億人の食卓の上を吹く日を楽しみにしている。

※撮影にご協力いただきました粟ならまち店・店長の新子大輔さん、料理長の村田豊明さん、有難うございました。

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2 コメント

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お店の雰囲気 (南都)
2009-02-15 18:53:26
このようなお店が町の雰囲気を作っていくのでしょうね。
格子の外観もたいへん好ましいと思いました。
一度是非訪れたいものです。
返信する
良いお店です (tetsuda)
2009-02-16 06:34:50
南都さん、コメント有難うございました。

> 格子の外観もたいへん好ましいと思いました。
> 一度是非訪れたいものです。

ここには「文助」という料理屋さんがあったのですが、なくなってしまいました。「粟」は、ランチでも予約しないと食べられないほどの人気です。ぜひお訪ね下さい。
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